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春の軌跡はあなたとともに  作者: 真城 玲
第五章 さよなら
22/23

22.だから、僕はもう一度踏み出す

 

「あ、いたいた」


 涙が止まらぬまま、背を丸めていた僕に、誰かが話しかけてきた。

 聞き覚えのある声だった。


「お疲れ様」


 その言葉に、思わず振り向いた。そこにいたのは翔悟だった。

 彼は僕の頭をくしゃくしゃにして励ましの言葉を与えた。

 何に対するお疲れ様なのだろうか。もしかして、桜華さんとお別れしたことに対してなのだろうか。


「なんのこと?」


 僕は問わずにはいられなかった。


「ああ、この前ダブルデートしただろ」


 おそらく、みんなでお花見をしに行った日のことだろう。


「あの日、カラオケで蓮と綾玲がトイレに行ってる時に桜華ちゃんに聞いたんだよ。そんで、きっとヌシの前のベンチで泣いてるだろうから慰めてやってくれって頼まれたんだ」


 こうなることも、全部桜華さんの想定内のことだったのか。どうやら、桜華さんの手のひらの上で踊らされていたらしい。


「飯、行くか!」


 沈んでいる僕に気をきかせてくれたのだろうか。

 辛くて、悲しい時でさえ、こうして励ましてくれる友達がいる。

 僕は本当に幸せだ。新しい当たり前、それを見つけるためにも、ここはお言葉に甘えよう。

 何より、ここにいても、何も変わらないのだから。


「じゃあ、翔悟の奢りね」


 無理矢理絞り出した笑顔だった。目は涙で腫れていて、きっと綺麗な顔ではないだろう。


「まじかよ!」


 翔悟はダラダラと文句を言っていたが、結局奢ってもらえることになった。

 もちろん、場所はサイゼだ。

 そういえば、翔悟と二人でご飯というのは初めてかもしれない。

 これも、新しい当たり前になっていけばいいな。

 そんなことを思った。


 サイゼに着くと、僕は今まであったことを話した。

 どうやら、翔悟が知っていたのは桜華さんが僕と二度と会えなくなることだけだったらしい。

 だから、彼女がヌシの付喪神だったことも、彼女に言いたいことだけ言われ、僕は何も言えなかったことも話した。

 翔悟は、多少驚いてはいたけれど、僕の話を嘘だとか疑ったりはしなかった。


「本当に、頑張ったんだな」


 話し終えると、翔悟は優しい声でそう言い、もう一度僕の頭をくしゃくしゃにした。

 一番言って欲しい言葉を一番言って欲しいタイミングで言ってもらえた。

 また、涙が溢れ落ちそうになる。


「ねえ翔悟、大切な物とか大切な人がいるっていうことは多分全然当たり前のことなんかじゃないんだと思う」


「どうしたんだよ、いきなり」


「だからさ、いい加減、決着付けなよ。綾玲のこと。縁起でもないけど、明日から会えない可能性だってあるんだからさ」


 僕の経験も踏まえ、彼にしっかり言ってやるべきだと思った。

 僕だって、まさか桜華さんがこんなに早くいなくなってしまうなんて思ってもいなかったから。

 翔悟は良いやつだ。優しくて、面白く、人望も厚い。でも、だからこそ、大事な決断をなかなか出来ないでいる。

 そんな彼の背中を押してあげたかった。


「え?おまっ!何のことだよ?」


 翔悟は動揺しているように見えた。


「まさかとは思うけど、翔悟が綾玲のこと好きだってこと気づいてないとでも思った?」


 流石に、あそこまで見え見えで、気づかない方が難しい。残念ながら、当の本人である綾玲はそれに気づいていないのだけれど。


「好きって言うのは難しいと思うけど、察する事なんて、きっと出来ないんだよ。だからちゃんと、口で言わなきゃ」


 以前の僕なら、絶対こんなことは言わなかっただろう。きっと、それはただの自己満足だ。とか言っているだろう。

 桜華さんに出会ってそんな考え方一つをとっても変えられたのか。

 どうやら、彼女には無意識の内に僕の中の色々な物を変えられていたようだ。

 ちゃんと、桜華さんの生きた証が、僕の中に残っているみたいで、なんだか胸が熱くなった。


「分かってるよ。でも…な」


 まあ、それもそうか。翔悟は僕とは違い、守るべき関係が多すぎる。綾玲と翔悟が付き合うことをよしとしないであろう人間に、僕も多少なりとも覚えがある。

 何かを手にするということは何かを捨てるということでもあるのだから。


「まあ、そりゃ早く言えるに越したことはないと思うけど、翔悟は翔悟のペースで頑張りなよ。」


 本当は今にでも言った方がいいのかもしれない。でも、そのタイミングは人によって違うだろう。

 ただ、僕のように何も言えないままお別れなんて、翔悟にはなって欲しくはなかった。

 だから、今の僕にできるアドバイスはせいぜいこれくらいだろう。


「それと、綾玲の方から気持ちを伝えられたらしっかり返事してやりなよ」


 でも、翔悟のことだ。綾玲の方から告白されても、どっちつかずの曖昧な返事をしそうだ。だから、早めに釘を打っておいた。


「おう。でもまさか、励まそうとした俺が逆に励まされるとはな」


 はははっと翔悟は笑った。なんだか、その笑い方はバカにされているようで少し苛立った。

 彼が、楽しいのならいいけれど。


「リブステーキください」


 僕はさっさとテーブルにあったベルを鳴らし、店員さんを呼んだ。

 そして、なるべく高いのを頼んでやった。翔悟の奢りなのだから、遠慮なく頼んでしまおう。


「お、おい!!俺そんな金持ってねぇぞ!」


「ご馳走さま!」


 テンパる翔悟など目もくれず、有無を言わさず頼んだ。

 それからしばらくは、励ましたり、励まされたりを繰り返した。

 改めて思う、翔悟とも友達になれて本当に良かった。

 ご飯を食べ終えると、外へ出た。


「うぅ、俺の野口が…」


 彼はしばらくの間、店で出された金額にショックを受けていた。

 確かに、サイゼとは思えない金額だった。


「元気出しなよ。今度は僕がまた今度奢ってあげるからさ」


 いつまでもしょげられていると面倒だから、そう言う他なかった。


「え?まじまじ?じゃあ俺の行きつけの店で奢れよ!」


「そこ、高いって言ったよね?」


 少し、アルバイトでもしてみようか。たまには、自分で稼いだお金という物もいいだろう。

 それに、お礼とかのお金を親に払ってもらうのはなんだか違う気がした。

 あと、少しだけ、本当に少しだけ…親が夢中になるほどの仕事という物に興味があった。


「ねえ、これからもずっと友達でいてよ」


 突然、そんなことを言っても意味はわからないかもしれない。

 でも、桜華さんからお願いされたから。幸せでい続けてって。それに僕自身、彼と彼らと一緒にいたいと思ったから。


「おう、当たり前だろ?」


 その翔悟の反応がやっぱり嬉しくて。

 桜華さんはもういない。もう、会うことができない。

 でも、僕は知っている。お調子者で、元気で、バカで、料理が上手くて、優しくて、誰よりも僕のこと好きになってくれた女の子がいることを。

 だから、前へ進もう。桜華さんも立ち止まる僕を見ていたくはないだろう。もちろん、悲しくはあるけれど。

 空は暗く、風はない。スッと一筋の涙が溢れているのがわかった。

 でも、だからこそ笑おう。彼女は必ずそうしろと言うはずだから。

読んでいただきありがとうございます

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