11.嵐と涙と黒い感情
曇り空の下、少し慣れつつある通学路を自転車で帰っていた。
今にも雨が降りそうな空のせいで気持ちまで萎えてしまう。
曇りの日というのは不思議なもので、例えば少し赤信号に捕まっただけでイライラしたり、疲れたりするものである。
「ただいま」
気だるく玄関のドアを開けた僕に、桜華さんはいつも通り「おかえり」と返した。
桜華さんと再会してそろそろ一週間になる。
学校へ行き、翔悟たちと談笑し、寄り道をしたりして、家へ帰る。そのあとは、桜華さんとダラダラしながら夜ご飯を作って食べる。それが僕の最近の日課だった。
桜華さんは母親と早々に仲直りができたらしい。しかし、彼女は今も僕の家に泊まっている。
なんでも、母親に僕には桜華さんがついていないとダメだから、などという虚言を言い放ったところ、泊まることを快諾されたらしい。
子が子なら親も親だと思わされる。きっと、桜華さんの母親は僕の理性にそろそろ限界が来ようとしていることなど知るよしもないだろう。
それを聞いた僕は、もうどうなっても知らない!心の底からそう叫んだ。
「ねえ、そういえば蓮くんって中学生の頃はどんな風だったの?」
夕食の途中、桜華さんは何の前振りもなく突然そんなことを聞いてきた。
「その…あんまり言いたくないかな?」
今まで、言いたくないから極力その話題を避けていた。
桜華さんが今までその頃のことを聞いてこなかったのは、薄々僕の過去に嫌な思い出があることを察していたのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
普通だった、小学生の頃と変わらない。そんな風に嘘をつけたのならきっと楽だっただろう。
しかし、突然のことで咄嗟に思ったことを口にしてしまった。
桜華さんに、そんな煮えきれない答え方をすれば、容赦なく追求してくることなど目に見えているのに。
「とか言ってー!実はかわいい彼女とかいたんじゃないの?」
「いないよ。本当に言いたくないんだ。この話はこれで終わり!」
いつも以上に冷静でない自覚はあった。
普段の僕なら、適当に話を逸らしたりすることもできただろう。
でも、そんな考えすらできないほど、僕の頭は回らないようになっていた。それほどまでに、あの事だけは話したくなかった。
「そうやってノリが悪いと翔悟くんたちに嫌われちゃうぞ?」
どれだけ抵抗しても、桜華さんの追求は止まらない。
そして、ついになにかが僕の中で切れた気がした。
黒い、言葉で言い表せないほど気持ちの悪い感情が腹の奥から登ってくるようだった。
この、気持ちの悪さには覚えがあった。確か小学生の頃、綾玲を傷つけたあの時も、こんな感じだった。
「うるさいな!言いたくないって言ってるだろ!そういうデリカシーのない所がほんっとにうざいんだよ!」
気がつくと、僕は机をドン!と叩き、桜華さんに怒鳴っていた。口調も自然と荒々しくなっていた。
桜華さんは、何が起こったのか把握しきれていないようだった。ただ、ぼうっと僕のことをみつめていた。
やがて桜華さんの頬にうっすらと一筋の涙がすっと流れた。言葉なく、彼女の感情が伝わってきた。
その涙を見て、やっと僕にも少し正気が戻った。
言いすぎた。こんな桜華さんの表情なんて見たくなかったのに。
「ごめん、言いすぎた。ちょっと頭を冷やしてくる」
僕はそのまま何も持たず、逃げるように家を出た。
もちろん、桜華さんにしっかり謝るべきなのはわかっている。でも、これ以上一緒にいるともっと怒鳴ってしまいそうだった。
もう、これ以上、大切な人を傷つけたくはなかった。
外へ出ると、天気は大荒れだった。
帰る時は、降っていなかった雨も今では土砂降りだ。
挙句の果てには雷まで鳴っていた。
それでも、僕は構わず家をでた。傘も何も持たずに。
一瞬でずぶ濡れになった服も関係なく、僕は走った。
桜華さんを傷つけてしまったという罪悪感からか、今日の雨はいつもの何倍も冷たいように感じた。
いよいよ、三章が始まりました。
話のいい感じのところで区切ろうとしたんですが、すごく短くなってしまいました。すみません!
次回は少し閑話を挟みます。とはいえ、物語の最重要と言っても過言じゃないくらい大切な部分なので是非一読お願いします!
これからも面白くなるよう工夫していきたいので、感想、評価、誤字報告等お待ちしております。




