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前世での忌まわしが今世での武器  作者: 躑躅
プロローグ
1/12

プロローグ1

35歳になった日の晩、私は嫁に土下座していた。




私の名前は橋本空。今日で35歳になる。嫁は橋本美香33歳。彼女も私と誕生日が同じで今日33歳になった。私と美香には奈美という今年8歳になる娘がいる。私は会社員、美香は専業主婦で一般的には普通の家庭と思われるだろう。ただ、私は普通の人とはちょっと違う。

私は 「話すことができない。」

大学2年の時、喉に癌ができた。手術をして治療はできたが話すことができなくなった。それからは紙に文字を書くか、メールをして言葉を伝えていた。手術後、戸惑うことが多かったがそれよりも大学に戻ってからが大変だった。幸い物覚えが良い方なので治療中の勉強の遅れは取り戻すことができたが、話すことができないので友人の会話に混ざることができない、そのうち友人は私から離れていった。私も人とあまり関わりたくなくて大学もあまり行かなくなっていき、遂には家に引きこもるようになった。そんな私を支えてくれたのが2つ下の幼馴染の美香だった。引きこもりになった私をデートの練習だと言って連れ出してくれ、私の愚痴も文句言わずに聞いてくれた。そんな美香に妹みたいな存在と思っていたのがいつしか1人の女性として意識し始めた。22歳になる頃にはには元のように生活を送れるようになり、引きこもっていたせいで留年したが、大学も卒業の目処がたった。そんな時私は美香に告白した。美香は喜んでオッケーしてくれた。私は大学を卒業したと同時に美香と結婚した。早すぎるかと思ったが、美香と美香の両親に外堀を埋められていき、いつのまにか結婚する雰囲気になっていた。勿論私は嫌ではないのでそのまま結婚した。後に美香が言うには

「空はかっこいいからウカウカしていると取られると思ったし、私には空しかいないから。」

と言った。私自身自分の容姿は整っている方だとは思っていたし、大人になって街を歩いていると雑誌のインタビューを受けることがあった。また、大学卒業前には私が話すことができないことを知らない後輩たちから物静かでカッコいいと言われているのを何度か聞いた。でも私は、美香が話すことができない私と付き合っているのを気に入らない男たちを含め沢山の男たちに告白されていたのを知っている。美香の実家は街でも有名な地主だし、美香のお父さんは自分で設立した企業の社長だ。また、美香自身も容姿は10人いたら11人の人間が振り返るほどの美人だ。それに社長令嬢ということも合わさって美香は昔からモテていた。私は美香の幼馴染というだけで近くにいるといつも言われていた。美香と付き合いだしてからも

「幼馴染だから同情された」

と、よく言われた。正直そんな美香に自分が釣り合うとは昔からずっと思っていなかったが、美香や美香の両親が私に良くしてくれているのをいいことに、私は甘えていた。この幸せを壊したくなかった。

しかし、娘の奈美が生まれてから状況は一変した。奈美は私と美香の容姿を受け継いでとても可愛く育った。しかし、それが気に入らない女の子や私が話せないと知っている子たちからイジメられるようになった。容姿のことはある程度成長したらイジメも落ち着くだろうが、私の事でイジメられるのはいつ落ち着くかわからない。何より私のせいで奈美がイジメられるのは見ていられない。私は2人と別れる道を選んだ。でもなかなか決心が付かずこの日まで来た。35歳の誕生日の朝、朝の占いを見ると人生最悪の日と出ていた。私にとって人生最悪は美香と奈美に嫌われる事だ。これは今日言うべきだと神様に言われてると思った。

その日の晩、奈美が寝た後、私は美香に離婚してくれと土下座した。

美香は

「なんで?」

と聞いて来た。私は

「このまま美香や奈美と一緒にいて幸せにできる自信がない」

と伝えた。

美香はまだ33歳で十分やり直せる。このまま話すことができないような男と一緒にいたら不幸になるだけだ。しかし、美香は

「空と別れたくない」

の一点張り。そこまで愛されていることに嬉しさを感じるが、美香と奈美の幸せのためにと思い私は、記入済みの離婚届と結婚後からずっと溜めていた貯金の入った通帳を美香に渡して家を出た。美香とこのまま顔を合わせていると意思が変わって、また甘えると思ったからだ。玄関の扉を閉めるとき、美香のすすり泣く声が聞こえた。

それから一週間私は会社の独身寮に移り、会社と寮の往復だけの生活をしていた。この一週間美香や美香の両親、俺の両親からも連絡が来ていたが、全て

「ごめん」

と書いてメールを送っていた。

美香から

「私は空と別れたくない。でも、そのワガママが空を傷つけるなら私は...空が私に復縁してくださいって言ってくるまで奈美を育てながらずっと待っている。」

と連絡が来た時思わずそのまま家まで行って美香と奈美を抱きしめたいと思った。でも、そうすると自分の一週間が、美香を無駄に悲しませただけだと思い、私は寮で1人で泣いた。

1人暮らしが始まって1ヶ月経った朝、いつものように寮を出て会社に行く途中、交差点で奈美と同じくらいの年齢の女の子を見た。その姿が奈美と重なって私はその場で立ち止まってその女の子を目で追った。すると、

「危ない!」

と言う声が聞こえたと同時に私の体に衝撃が走り私は宙を舞った。その時見えたのはガードレールを破って走るトラック。一瞬の後に私の体は地面に叩きつけられた。その後周りから悲鳴やカメラで私を取る音、救急車を呼ぶ声が聞こえたが私の意識はだんだん遠のいて行った。

「美香、奈美、ごめんな」

初めまして躑躅つつじと申します。初投稿なので誤字脱字多いと思います。現在学生なので勉強との両立(という建前)で、不定期投稿になります。

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