綺麗事なんて
ちょっと真面目な話です。
そして話が進まなぃぃ・・・
お読みいただきありがとうございます!
「また会うなんて運命じゃない?」
「・・・いえ、別に。」
数秒ショックを受けたもののなんとか立ち直った私はすぐに鉄仮面をかぶる。鉄の女だけにね。はは、涙が出てくらぁ・・・
「もう〜、つれないなぁ・・・。ところで、さ」
「?」
「まーくんって、誰?」
そう言われた時の私、多分効果音で表すならピシッぃ!って音を立てながら固まっていたと思う。
やっぱり聞こえてましたかーーー!そうですか、そうですか。
どうしよ・・・、いや、自由に生きるとは決めたよ?だけどさ、何も馬鹿正直に生きなくてもいいよね。ね!
ということで・・・
「何のことでしょう?」
とぼけることに決めました。
「ほら、さっき言ってたでしょ?親しげにまーくん?って。」
宮谷が探るような目で私を見てくる。
だが、そう簡単にはいかないぞ!!お前が今まで相手にしてきた女と違って私は本心悟られないようにするプロなんだよ!
仮面スキルなめんな!
「宮谷様の聞き間違えでしょう。もうよろしいですか?それではごきげんよう、宮谷様。」
よしっ!一息で言い切ってやった!質問は受け付けん!
言い逃げ?ええ、そうですよ!!!だってこの男、面倒くさそうなんだもの!!!こういう男は気にせず何事も無かったように消え去るのが一番いい!!
後ろを向いて退散しようとするとがっ、と音がした。
ん?がっ?何?
訳が分からないまま音がした所―――腕に視線を向けると宮谷がしっかりと私の腕を掴んでいた。
「み、宮谷、様ぁ?」
ひきつる笑みを浮かべながら私は声をかける。
意訳は、この手はなんだよ、テメェ。早く離せです。
「俺、まだすみれちゃんと話したいなぁ」
そしてにっこり。
いや、話したいなぁじゃないし!!?何これ?どういう展開?!とりあえず離せよ!その腕離せや!!
今度はまーくんきてくれそうにないし・・・・・・。
どうする???!
「私、あなたに下の名前で呼ばれるほど親しい仲になった記憶はないのですが。」
とりあえず、そこは訂正しておこう。
「親しい仲だって〜、なんかイヤラシぃ言い方ー。」
ダメだ。全く聞かねぇよ、この男!!
人の話聞かねぇしニヤニヤしてるし!何これ?関わったことのない人種すぎてどうすればいいのかわかんねーー!
「ねぇ。」
私が頭の中がごっちゃごちゃになっていると、不意に宮谷の声が聞こえた。
頭をあげると先ほどのニヤついた笑みとは違う、より一層不気味な笑顔があった。
目が、笑ってない。
「なんですか?」
怖気づかないように私は頑張って相手の目を見る。
もう1度確認のために言っておくと、私は豆腐メンタルです。
今、実はすごい怖いです。この人の目、怖すぎます。
今すぐにげたいです。
「君は・・・、綺麗事や夢物語を語る人間をどう思う?」
宮谷の笑みが少し黒くなった気がした。
「別に。どうも、思いませんよ。」
今のこいつを刺激してもいいことはないと私の本能が告げてる。あ、ちなみに本能ってチキンスキルのことね。ホント、怖いの無理なんで。はい。
「俺はね、綺麗事や夢物語を語る人は大っ嫌いなんだよ。夢や希望を手に入れようと頑張った先に何がある?どこがゴールなの?理想論ってなんの役に立つの?ねぇ、そう思わない?」
そう言って私に問いかける宮谷の瞳は面白そうにこちらを見ながらも歪んでいた。
「そうですね。」
私が短くそう答えると宮谷はそこで初めて表情を少し崩した。
意外そうに、少しだけ目を開く。
「君はそういうの否定するのかと思ったよ」
「別に。私はそういうの否定する気も肯定する気もないですから。その人が満足するならいいんじゃないんですか。」
そう私が答えると宮谷の私の腕を握る手に力がこもった。
かなり痛い・・・。
「なら、綺麗事で生きてる人を歪めるのも自分の勝手かな?自分を傷つけた人にその傷を返すのは罪かな?」
宮谷の様子が明らかにおかしい・・・
この人、気づいてないのかな。普段の軽い雰囲気が一切ない。余裕が、無いの?
「それは違いますよ。それは、違う。」
下げかかっていた自分の頭をもう一度上げて頭一つ分くらい背の高い宮谷を見上げる。
「宮谷様、人の幸せなんて人それぞれです。人の不幸も人それぞれです。その人が何をもってそれを幸せと見るのか、不幸と見るのかそれは誰にも決められません。その人にとって辛いことでも周りにとってはそんなことか、で終わってしまうことかもしれません。」
1度、言葉を区切る。
「でも、自分がその世界で生きると決めたのなら私も外部の人も誰もそれを邪魔してはいけません。それを邪魔していい人なんていてはいけないんです。例えどんなに地位が高い人でも。」
実際、私は前世で仮面をかぶり続けて何も残らなかったけど、譲れないものならあった。
それだけは、誰にも傷つけられたくなかった。
「・・・君に何がわかる。」
え、嘘、逆ギレ??怒った?え、やばくね?なんかまずいこと言った?
焦る私だけど不思議と腕に込められた力はだんだんと弱々しくなっていく。
「毎日、毎日生きる価値なんてないと言われて生きてきたんだ。」
生きる価値なんてないと言われて?
「宮谷様、」
とうとう、腕から宮谷の手が離れた。きっと逃げるなら今が一番なのだろう。でも私は良くも悪くもこんなに不安定な人を放っておくことはできない。
「物事には必ず意味があります。それこそ宮谷様の嫌う綺麗事、でしょうが生きていて価値のない人間はいません。未来は誰にもわかりません。今は価値がなくともいつかは光り輝くかも知れません。それを否定していい人なんて誰もいません。」
「だから」と私は続ける。
「宮谷様、貴方に否定する権利がないように貴方を否定する権利は誰にもありません。
私は聖母でもなんでもないですし、綺麗事なんて本当は鼻くそつけてゴミ箱へどうぞ〜って感じです。
でも、少し、少しだけでも自分が信じられるものを見つければ少しは楽になれるんですよ。」
「信じ、られる、もの・・・」
宮谷の瞳がゆらりと揺れた。
「ゆっくりでいいですから、いつか見つけられるといいですね。」
思わず表情筋が緩む。まーくんと桃ちゃん以外の前で笑ったのどれ位ぶりかな?
私も宮谷にこういった以上は頑張って生きないと!!
前世の自分にめっちゃ自慢できるように、、、
目指せ、リア充!!
え、いい話した後に台無しだって?いやいや、リア充を目指すのも十分大切なんだよ。うふふ。
「それでは、ごきげんよう。」
何だか思い返すとなかなか恥ずかしいことを言っていた気がしなくもないけどまぁ、宮谷だってそのうち忘れるでしょ!
それはそうと年取ると考え変わるんだなぁ・・・、前世の10代の時なんて世界全部憎んでたもんなぁ・・・。
なんて感慨深くなっていた私は知らない。
後ろで宮谷が顔を真っ赤にさせていたことを。
「あの人、あんな風に笑うんだ」
「にしても、いくら何でも綺麗事をゴミ箱に捨てるのはダメだろwww」
◆◇◆
「くしゅんっ!」
「やだ〜、すーちゃんったら風邪?」
「かも・・・。」