優勝卍
さてと。自分の気持ちの整理の仕方がわかったとはいえ、だからと言って特に何をするわけでもなく、私はグラウンドへと戻った。
体育祭が終わったらなみさんにもお礼を言っておこう。なんてことを考えながら。
私がグラウンドに戻ると同時に次の競技の『選手リレー』で体育祭が終わるというアナウンスが聞こえてきた。
・・・終わるのかぁ。すっっごいあっという間だった。
色んな意味で楽しかったし、自分に向き合えたし。
比較的軽やかな足取りで私は応援のために自分の席へと向かった。
席につくと桃ちゃんがハラハラとした様子でグラウンドを見ていた。
こころなしか、頬は火照っていた。
あぁ、可愛い。天使だ。
「桃ちゃんそんなに見つめてどうしたの?」
私が悶えるのを必死に我慢しながら話しかけると桃ちゃんは「あ」と声を上げた。
「すみれ様!!誠様達がこのリレーで勝たないと私たちのチームは負けが決定してるんです・・・」
「そうなの?」
「はい。だから誠様も頑張ってくるって張り切ってました。それに・・・」
言いずらそうにこちらを見てくる桃ちゃんに私は「なに?」と聞く。
「誠様、まだ今年の体育祭で1回も宮谷様に勝ってないんです。だからすごい闘志を燃やしてました・・・」
「・・・あ〜」
まーくん、負けず嫌いだもんね・・・。うん。
「優勝できるといいね。」
「はい!」
元気よく返事をした桃ちゃんはグラウンドにいるまーくんに手を振った。
んんん、可愛いっ!!
それから数分後、選手の入場があり、それぞれのスタート位置へと配置される。
「・・・始まるわね。」
「はい・・・。」
緊張した面持ちの桃ちゃんのとなりに並んで私もグラウンドに意識を集中させた。
チームの中にいたまーくんの立ち位置はアンカーだった。
そして、その隣に並んでいるのは零斗。
最後の決着は直接対決で終わるのね・・・。
私はリレーがスタートするのをただひたすらに待った。
『それでは只今から、選手リレーを行います。スターターの方はスタート位置についてください。』
アナウンスが流れ始め、人の波が少しずつ動き出す。
私たちのクラスからも1人、足の速い男子がスタートの位置へと出てきた。
・・・頑張れ!
『on your mark』
アナウンスに従ってそれぞれのクラスの選手がスタート位置につく。
『set』
時が止まったような静寂が訪れ、選手達はいつでも走り出せる体制へとうつる。
パンっ!
大きなピストルの音と共に止まっていた時が動き出すように一気に歓声と走る音が聞こえてきた。
最初に抜き出たのは私のクラスと零斗のクラス。
その後から矢野宮のクラス、そしてほかのクラスが追ってくる。
よしよしよしっ!!出だしは好調!!!頑張れ〜!!!
思わず私もそして周りのみんなも祈るような体制で見守る。
頑張れ、頑張れ!!
50mほど走ったところで走者が変わった。バトンパスだ。
あ!零斗のクラスに抜かされた・・・!
私達のクラスよりバトンパスがスムーズに出来ていた零斗のクラスは私達のクラスを抜かした。
あーーー!もうっ!あと少しで追いつけそうなのに!頑張れ!
私は暑さも忘れて応援する。
もう、汗だっらだら・・・。悲惨すぎる
隣にいる桃ちゃん真剣な表情で応援していた。
「すみれ様!あと少しで誠様ですよ!!!」
「桃ちゃん・・・、まーくんまではあと三人いるからね。あと少し待ってね。」
恋人が出るのを見たいのはわかるけどあと3人も走る人がいるのを『あと少し』とは言えないんじゃないかな?
「はいっ!あ、もう少しで抜かせそう!頑張れー!!!」
元気な返事をした桃ちゃんはその後、再び応援に戻った。
気づくと私達のクラスと零斗のクラス以外はかなりの差がついたままレースが続いている。
このまま逃げ切れれば・・・!!
走者が交代した。
折角零斗達のクラスを抜かしたもののまたもやバトンパスで差がついてしまった。
・・・ぐぬぬぬ。バトンパスって難しい・・・!
そんな事がもう1度続き、とうとうあと1人でアンカーに走順が回ってくるところまできた。
「・・・どうして足の速さでいえば私たちのクラスの方が優位に見えるのになかなか差が開かないんでしょう?」
唐突に桃ちゃんがポツリと呟いた。
「・・・多分、普通に走順を変えたり、走り方を変えただけじゃ私達のクラスのリレー選手には勝てないから、足の速さで勝てないんだったらそれ以外のところで勝てばいいと考えたのでしょうね。」
「つまり、それがバトンパスって事ですか?」
ももちゃんの問いかけに私は大きく頷いた。
「そう。そのわずかな差があるせいでなかなか距離が開かないでいる。」
「な、なるほど・・・」
桃ちゃんが隣でふむふむと頷いているのを見て私は素直に悶えながらレースの行先を見守る。
そして・・・いよいよ、アンカーへのバトンパス
という所で現段階で2位のクラス―――――零斗達のクラスの選手が
転倒した。周りが一気に騒然とする。
私も予想外の出来事に目を瞠った。
というのも転倒した選手はまだバトンパスの線を超えていないため、落ちてしまったバトンをアンカーである零斗が拾うことは出来ない。
つまり、選手が立ち上がり、バトンを拾って零斗に渡すまでは零斗は走り出すことが出来ないのだ。
最後のアンカーの選手は1人で200m走る。
まーくんはもう走り始めているし、他のクラスも続々と零斗達のクラスを抜いて零斗達のクラスは一気に最下位になってしまった。
それでも、転倒した選手は痛みをこらえて必死に立ち上がってバトンを渡した。
零斗はそのバトンを渡された時、ひたすらに「ゴメン」と謝りながら渡す選手に怒鳴るでもなく、嘆くわけでもなく、茶化すわけでもなく、ただ一言、「任せとけ」と言って笑った。
とても、綺麗な笑みだった。
だが、それも一瞬の出来事。零斗はあっという間にスピードを上げて行き、1人、また1人とすごい勢いで抜いていく。
「すごっ・・・」
私は思わず呟いていた。
彼が走る姿は外見の善し悪しを抜いてさえ、とても美しかった。
もうダメだ、あのクラスは気の毒だったな。
そんなことを呟いていた生徒さえ、熱い歓声を上げてレースの行方を見守る。
頑張れ、頑張れ。
気づけば心の中でそう唱えていた。
いつも私が自分の殻にこもってしまった時そばにいてくれた。
何度も拒否したのに、笑い飛ばしてくれた。
自分の気持ちを表現するのが下手くそな私に真っ直ぐ向き合ってくれた。
私はあなたに多くの暖かい気持ちをもらった。
今度は私が、
既に2位を抜かしそうな勢いで走る零斗を見る。
ゆっくりと目を瞑った時、胸にあった気持ちはただ一つ
私は、零斗が好きなんだ。
雅にぃ、貴方が言っていたことは本当だね。
今、すとんと気持ちが落ちてきた。
もう1度顔を上げると零斗は2位の人と並行して走っている。
2位の人は矢野宮だ。
頑張って・・・!
私は手をメガホンにようにして精一杯叫んだ。
「頑張れ!」
零斗が何とか矢野宮を抜いてまーくんの背中を目指す。
零斗はぐんぐんとスピードを上げていくもののゴールは既にまーくんの目の前だ。
どっちが勝つ・・・?
少しずつ、零斗がまーくんに近づく・・・。
あと少し、あと、少し・・・
本当に僅かなさでゴールテープを切ったのは、
私たちのクラス、まーくんだった。
◇◆◇
リレーが終わったあと、閉会式や、点数発表があった。
総合順位は私達のクラスと零斗達のクラスが同率1位。
矢野宮達のクラスが3位だった。
まーくんは閉会式の後、「あいつは本当に強い・・・」と笑いながら呟いていた。
まぁ、そんなシリアスな雰囲気も桃ちゃんの顔見た瞬間デッレデレになった顔のせいで一瞬で崩れたけどね。
優勝してハイになったせいか、みんなのテンションがすっごく高い。
まぁ、かくいう私もうぇーい、パリピっす!やぁぁぁぁいーーー!!!ふぉぉぉ!!!マジ卍。優勝卍
っていう感じのテンションなんだけれども私、まだ伝えなきゃいけないことあるからはしゃぐのは後でにしておきます!
同率1位だったクラスに行くのは個人的に気まずい気がするので私はそっーと、零斗のクラスを覗く。
まぁ、案の定こっちも私達のクラスとおなじ様なテンションだった。
パリピがいっぱいいるよぉ〜・・・。それを覗いてる私ってかなり絵面的に不審者じゃね・・・?
もう手遅れな気もするけど改めて周りに人がいないか見渡す。
私のこの、奇行(?)は誰にも見られてないよね・・・?!
と、微かに声がする。
私の耳は地獄耳なんだよ☆
声のする方にいたのは零斗と先ほど転倒した選手だった。
選手の膝には大きな絆創膏が貼ってある。
「怪我大丈夫だった?」
「あ、うん。本当にごめんな。なんか今回の体育祭零斗すごく頑張ってたのに・・・、本当の本当にごめんっ!」
選手の生徒が顔の前に手を合わせて本当に申し訳なさそうに頭を下げていたのが見えた。
「いや、別にお前が転んでなかったらあそこまで力出せてなかったかもしれないしー、だいじょぶ、だいじょーぶ!」
わざと、ほにゃあとしてるのは零斗なりの気遣いなんだろうな・・・。ほんと、優しいよね。
と考えてから私は、ん?と首を傾げる。
・・・ちょっと自分、恋心自覚したからっていきなりキモくない?
なーにが、零斗なりの気遣いなんだろうな・・・だよっ?!ほんと、優しいよね。とか何様っ?!!てか何目線?!!
それこそ、乙ゲーのヒロインみたいなお花畑思考じゃないの!!!いや、桃ちゃんはそんな思考じゃないけどっ!
ちょっとキモイ〜、自分がキモイ〜!!
と、自分のキモさに悶え、自己嫌悪に陥っていた私は突如「ありがとうな、」という声がして私は我に返った。
あ、やべ。話し終わったのかな?
私が覗くと選手の生徒は既に零斗に別れを告げていた。
なんか、最近私、人のこと影から覗いてばっかじゃない?
ちょっと自分が自分で心配だよ・・・。
なーんて考えているといきなり、「あ"ぁ"!」という声が聞こえてきた。
え"、なんの音?
見ると、そこには「くそっ!」と吐き捨てるように怒鳴る零斗の声がした。
「なんで最後の最後で負けちゃうかな・・・。完全に俺の力不足じゃねーかよ・・・。本当に、俺ダセー。」
ポツリと零斗の小さな呟きが聞こえた。
・・・さっきの選手の生徒が転んだことを憎むんじゃなくて自分を責めてるところが零斗らしいよね
なんて思いながら私は何でもないふりをして零斗の前に現れた。
「あ、すみれちゃん・・・」
「ごきげんよう。」
「うん。あの、さ・・・。ごめん。勝てなかった。あんだけ偉そうに宣言してごめんね。」
申し訳なさそうにへらっと笑う零斗に私は無言で小さな紙を渡した。
「え・・・、何これ?」
困惑する零斗に私はにっこりと微笑んだ。
「体育祭、お疲れ様でした。その紙に書いてある場所にキャンプファイヤーの時、来て。」
「え・・・っと、俺、負けたよ?」
状況が飲み込めていないのかきょとんとする零斗が少し面白くて私はますます笑ってしまう。
あぁ、だめだ。行事が終わったあとのテンションに私も呑まれてるみたい・・・。ちょっとしたことですごいテンション上がちゃうわ・・・
「確かに最後の最後は負けちゃったかもしれないけど、なんであれだけ頑張ってくれた人の気持ちを疑えるのよ。今まで信じられなくてごめんね。今はちゃんと信じてます。
頑張ってくれてありがとう。」
と、ここまでを一息で言った私の顔はいつもの私のように無表情じゃなくてニッコニコの笑顔!!
何故かって?この特有の雰囲気と優勝のおかげで上がりに上がったテンション!!そして今まで悩んでいた自分の気持ちがはっきりしたことによる喜びよっ!!
下手すればふぉぉぉぉぉ!とか叫び出しかねない私を見て零斗に「えーと、とりあえずなんかすみれちゃんテンション高いね」と言われた。
テヘペロ☆
「じゃあ信じてくれたってことでいいの?」
「はい!気持ちに整理もつきました。今まで待たせてすみません。じゃあ、また後で。」
私は零斗に手を振って歩き出す。
1度後ろを振り向くとポカーンとしていた零斗が立っていて美形はあんな顔をしても美形なのかー、とどうでもいいことを思っていた。
キャンプファイヤーまであと少し。
私はドキドキとワクワクとバクバクが混ざった不思議な気持ちでいた。
楽しいような、嬉しいような、怖いような。
そんな気持ちで。
お読みいただきありがとうございます。
あと1、2話で終わる予定です!




