体育祭でこの気持ちを
一応大きなイベントとしては体育祭が最後のイベントです!
そして次話から体育祭が始まります!
最後までお付き合いいただけると幸いです。
「ね、ねぇ、どうしたの?」
「・・・」
【へんじがない。ただのしかばねのようだ。】
・・・じゃなかった!!!明らかに今はふざけちゃいけない雰囲気ですね。すみません。
前をずんずんと歩く零斗は私がどんなに慌てようが、質問しようが、現実逃避しようが、歩みを止める気配は一向にない。
結局、下駄箱での履き替えも、「何番?」と出席番号を聞かれて私が素直に答えてしまったせいで、靴を零斗に出してもらうハメになった。そしてその後は無言。
せめて、話をしたいのですけど・・・!!
少しだけ繋がれてる手に抵抗のつもりできゅっ、と力を入れると前を歩いていた零斗がゆっくりと止まった。
「・・・すみれちゃん」
零斗は私に背を向けたままポツリと言った。
「青木先生となにしてたの?」
その声にはいつものように優しさやおどけた明るさが一切なくて私は少し焦ってしまう。
「べ、別に何もしてない。私はただ一人でやるには量が多いかなと思って暇そうだった青木先生に手伝ってもらっただけで・・・」
「・・・桃ちゃんや誠くんは?」
「二人とも放課後に用事があるらしくて手伝えなかったのよ。」
「・・・」
質問するだけすると零斗はまた何も言わなくなってしまった。
「ね、ねぇ、何をそんなに怒ってるの?なにか気に触ることをしたんだったらごめんなさい。お願いだから機嫌を治して。」
いつもと違う零斗は本当に接しずらい。
なんだかんだ言ってあんまり親しくなかった一番最初の出会いの時も、球技大会の時も、日常でも、遊園地の時も、いつだって零斗がここまで機嫌を悪くして怒っていることは無かった。
・・・もう、どうすればいいって言うのよ。
ほとほと困り果てた私を見て零斗は「ふぅ」と息をついた。
「すみれちゃんは俺がなんで機嫌悪いか分かってないわけ?」
「え、えーと・・・。う、うるさくしすぎた?」
そんな訳はないと分かっていても他に理由が見当たらなくて取り敢えず俯きながらそう答えると零斗はまた「ふぅ」と息をついた。
「俺さ、本気ですみれちゃんのこと好きって言ったでしょ?」
「え、うん。」
「普通、好きな女の子が他の男子と、まして教師とイチャついてるの見たらイラつくと思うんだけど」
恐る恐る、顔を上げると零斗は真面目な顔でこっちを見ていた。
・・・それって、そんな言い方、私のこと本気で好きみたいじゃない・・・。あんなハーレムつくっておいて?あんなにほかの女子とヘラヘラしておいて?私が他の人と関わったらそんなに機嫌を悪くするの?
私は思わず自分の眉間にシワが寄るのが分かったけど直す気はないのでそのまま零斗を見つめる。
「自分は楽しくほかの女子でハーレムつくってたじゃない。」
少し責めるような口調になってしまう。
でも、私おかしくないよね?零斗自身がしてることを私がちょっとでもしたらダメって零斗本人から言われるなんて理不尽すぎる。
「あー、あれを見てたの?あれはハーレムでも何でもないよ。ただ、俺が実行委員で残るって言うの聞いた女の子が集まってきたから利用させてもらっただけ。どうせ断っても居座られるんだし。それに俺は早く終わらせてすみれちゃんの仕事を手伝おうと思ったんだよ。」
ため息混じりに言われた言葉に私は思わず「え?」と呟いた。
「早く仕事終わらせてすみれちゃんの仕事手伝おうと思ったらあの女の子たちが勝手に俺につきまとってきて、あいつらを連れたまますみれちゃんの教室に行きたくなかったから1回、帰るふりをしたの。で、あいつらにバレないように戻ってきたら教室ですみれちゃんと青木先生があんな体制でいたの。」
零斗の話を聞いてもしかしたら嘘かもしれないと心の片隅で思いながらも私は零斗の心遣いが嬉しくなる。
・・・零斗のことだから多分本当に私のことを気遣ってくれたんだろうな・・・。
私は素直にごめんなさい、と謝ろうとして「うん?待てよ。」と首をひねった。
「・・・・・・っていうことは!そ、その、零斗は本気で私のことを・・・?からかってるのではなく?」
ブツブツと独り言のつもりで呟いたそれはしっかりと零斗の耳に入ったらしく、零斗は過去最大のため息をついた。
「まさか、まだ信じてもらえてなかったとは・・・!!」
それだけを呟いて頭を抱え込む零斗。
「れ、零斗様?」
「・・・俺何回も言ったよ。本気だって。」
少し睨むようにうるっとした目で手の隙間から零斗の目がのぞく。
「て、てっきりからかってるのかと・・・」
第一、ヒロインに惚れてると思ってたし、私は悪役令嬢だし・・・。
とは言えずに私はグルグルと頭の中でさっきの言葉を反芻させる。
『本気』・・・かぁ、
その言葉でさっき、零斗を見かけた時の胸のもやもやを思い出す。
そして、それと同時に青木先生の言葉も。
『さっきの顔は嫉妬してる顔だったよ』
・・・嫉妬?私が?零斗に?
そ、それじゃあさっきの零斗のハーレムについての話を聞いてる時に胸からモヤモヤが消えたのって・・・、そういうこと?
・・・え、え、え、嘘。まって、え。
で、でも私前世、恋なんてしなかった。思いっきりの喪女だったのに・・・!人を信じようと思ったから?だからなの?!
そ、そりゃあー、零斗は優しいし、頼りにはなるけど・・・
でもそれって恋なの?んんんー?
自分の気持ちがわからなくて私が考え込んでいると不意に頭上で零斗の声が聞こえた。
「よし。分かった。俺は体育祭までに返事が欲しいって言ったけど、まずまずからかわれてたと思ったんでしょ?
・・・だったら俺が本気ですみれちゃんの事好きって証明するよ。体育祭で。」
・・・・・・え?
「どうやって?」
私の問いに零斗ははっきりと答える。
「俺が誠くんに体育祭、全部の競技で勝ったら、俺の気持ちを認めてすみれちゃんの答えを聞かせて。」
しっかりとこっちの目を見てくる零斗に私は少し狼狽えながらも「そんなの無理だよ!」と慌ててその答えを否定する。
「あのまーくんに全競技勝つなんて無理だよ!団体競技はともかく個人競技もあるのに!!」
私の焦った声とは裏腹に私の問いかけに答える零斗の声はとても落ち着いていた。
「だからだよ。すみれちゃんが絶対に無理だと思う状況だからこそ、俺は頑張る。それで正々堂々と君の気持ちを聞きたい。」
正直、人を信じることに極端に慣れていない私は恋とか愛とかは異次元だと思ってた。
でも・・・、この気持ちに名前がつくというのなら・・・、
賭けてみたい。この気持ちは本当に貴方と同じ気持ちなのか。
真っ直ぐとこちらに目を合わせてくる零斗を見て私も気持ちを決める。
「・・・分かりました。体育祭で零斗様がまーくんに勝ったら私も気持ちを伝えます。」
私が思いのほかきっぱりと言ったことに驚いたのか零斗は少し目を見張った後に「うん」と柔らかく微笑んだ。
「まぁ、俺は自業自得だしね。元々は俺があそこまで軽い気持ちで他の女の子達に手を出さなかったら良かったんだけどね〜。」
はは、と笑う零斗の笑顔はどことなく後悔がにじみ出ていてなんだか零斗を信じられない自分が情けなくて私が「すみません」と言おうとすると「でも」と零斗が続けた。
「あの時の俺がいなかったら俺はすみれちゃんとは会えてなかったかもしれないから、頑張るかー!!」
んーーと言いながら伸びをする零斗はいつも通りの零斗だった。
そして零斗は思い出したようににこ、と笑う。
「あ、さっきすみれちゃんが呟いた時、俺のこと、零斗って言ったでしょ?あれでいいから。次、様をつけたらお仕置きしちゃうからね」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで言われた私はこくこくと頷いた。
お仕置き、嫌だ。
体育祭へ向かってそれぞれが着々と準備を進めていた。




