係決めします
学校行事の前、教室は修羅場と化す。
人々は望まない役割に嘆き、その救いようのない状況に絶望する―――。
「すーちゃん、また変な事考えてるでしょ。」
「あ、バレた?」
ちょっと厨二病路線で黄昏ていた私にまーくんから氷帝に相応しい冷たい目で見られる。
そんな目で見ちゃやーよ、ウフッ♡
なんて冗談は置いておいて。と、
私のテンションがおかしいのには訳がある。
別に普段からこんなテンションなわけじゃないからね?本当だからね?!
というのも、ただ今、体育祭に向けて係決めをしている真っ最中なのです。
そして私、実は実行委員になってしまったのでふ。
最近ずっと忙しくしているなみさんとそれを手伝う杉原を見ながら私は「うわ〜、大変やーん。なみさんたち頑張れ〜」なんてちょっと他人事のように見ていたからかなぁ。
私は罰が当たった。
決戦は突然だった。
五時間目、眠気を誘う魔の時間帯に担任が突然言い放った一言でみんなのテンションは一気に下がった。
「この時間は体育祭の係を決めます。」
みんなのその時の表情の変わりようよ。
大体の子が日向ぼっこをしてる猫みたいだったのにその一言で皆様口角ダダ下がり。先生も面倒くさそう。
うん、面倒臭いもんね。
まぁ、先生が面倒くさそうにしてるのはいつもなんですけど。
私たちのテンションは下がりながらも先生は言葉を続ける。
「よし、じゃあまずは実行委員から決めていくぞ。誰かやりたい人いるか?」
・・・・・・。
沈黙が教室を包み込む。
ちなみにこの学園の体育祭は先輩方から聞くには仕事量がえげつないらしい。
だから誰もやりたがらない。
そんな係なのになみさんは凄い速さで嫌な顔せずに仕事をしていく。
本当になみさん、すごいよなぁ・・・。
なんて呑気に思っていた私は突如、先生からの攻撃にあう。
「委員会とか部活何もない人は何人いる?えーと・・・。
龍宮寺と、桃井と、北条か・・・。3人の中で誰か出来る人いるか?」
先生ぇぇぇぇーーーーーー!!!!!!
何故だ!何故そういうやり方をする!!ここはあれですよ!あのー、そうだっ!生徒の尊重性を鍛えるためにもやっぱり立候補制にしようよ〜。もう、マジでー。
なんて意見は心の中だけに抑えて私はどうやって実行委員を回避しようか考える。
「先生、すみません。私、できないです。」
おずおずと本当に申し訳なさそうに手を挙げたのは桃ちゃんだった。
・・・あれ?まって、もしかしてこれってイベントだっけ?
私は記憶をひっくり返す。
・・・遊園地での好感度上昇イベントでいい雰囲気になった後、ヒロインと誠様はどういう雰囲気になるんだっけ・・・。
えーと・・・。
しばらく考えた後に私は「あっ!」と思い出した。
そうだ!!体育祭は確か嫉妬イベントだった気がする!!
体育祭で係決めの前にクラスの女子から頼まれた桃ちゃんとその他の手芸の上手い女子がハチマキに刺繍してくれるんだよね・・・。
で、その段階でほかの攻略対象とか仲良くなったり、なかなか誠様と会えなくてゲームでは誠様が嫉妬するっていう・・・。
それに・・・、このイベント、何よりも調節が難しい。
このイベントはかなり、エンドに関わってくる。
ここで桃ちゃんが他の男子と関わりすぎると選択肢を間違えたことになって誠様はヤンデレルートに入る。
でも逆にバッドエンドが怖くて誠様と一緒にいすぎても嫉妬イベントが起きないで好感度は上がらないまま最後、友情エンドに近くなってしまう。
・・・うーん。桃ちゃんができないって言ったってことはもうハチマキの話は受け入れてるってことだよね・・・。
案の定、桃ちゃんができないってと言った理由はハチマキの事だった。
「そうか、それなら仕方ない。龍宮寺か、北条どっちか出来ないのかー?」
・・・。
これ、ゲームだとまーくんも出来ないんだよね。
まーくんは最初は渋々受け入れようとするんだけど、その結果ヒロインのいない隙を狙った女子がすごい勢いで誠様にくっついて仕事が出来なくなってそれを見たヒロインが嫉妬するっていう・・・。
そう、このイベントは桃ちゃんとまーくんのどちらにとっても嫉妬イベントになるのだ!!
まぁ、ゲームの中では私はそのくっついてる女子の方なんだけどね、あはは・・・。
ということでですね。私、詰んでるんですよ。どちらにしても体育祭実行委員になってしまうんです。
ガーンと絶望しているとまーくんが手を挙げた。
「先生、申し訳ありませんが俺もできません。他に頼まれてることがあって出来ないんです。」
・・・あれ?ゲームと違う。この時はまーくんは本当はやる筈なのに。
「ん?頼まれてることってなんだ?」
先生が私が思っていることと同じことをまーくんに質問する。
「実は・・・、応援団を頼まれてしまって・・・。」
まーくんはそう言うと恥ずかしそうに顔を伏せる。
えーーーーー?!!聞いてないよぉぉ?!!!
ていうか、そんなの無かったはず?!!ゲームとズレてる!?
私はパニックになりながらこっそりとまーくんに話しかける。
「ちょっと、まーくん。そんなのいつ頼まれたのよ!」
「ん、先輩から頼まれたのよ。私も最初は断ろうと思ったのよ?目立ちたくないし・・・。でも桃ちゃんが好きなタイプは男らしい人って言うの聞いて・・・。」
モジモジとして顔を赤らめるまーくんはそれはそれは美しい。
なにこれ、国宝級?私、女子やめていい?
「それで受けたの?」
「うん。喜ぶかな・・・って。」
何それ、可愛い。
あんたら2人なんなの。どっちも可愛いって何?
美男美女なだけじゃなくて中身まで素晴らしいってどういうことよ。マジ無理。うぇーい。マジ卍。
テンション迷子になっていた私だけどチラチラと桃ちゃんの方を見てるまーくんを見て私も腹をくくることにした。
「では、私が実行委員やります。」
私が素直に手を上げると先生は心底安心した顔をした。
「あ、そうか?やってくれるか。ありがとうな。もし1人では無理だと思ったら俺とか友達がとか頼れよ。」
「分かりましたわ。お心遣い感謝致します。」
という流れで私は実行委員になった。
先生の最後の「俺を頼れよ」発言にキュンとしたのは内緒ね。
だって先生カッコイイんだものー!!
実は先生は隠しキャラだったりする。
一度、攻略対象を全クリしないと開かないルートだったから安心していたけど、あの包容力と普段はだるそうなのにこういう時はしっかりするっていうギャップがたまらなくイケメンなんですよ!!!
なので今回は、実行委員の仕事は嫌だけど先生と個人的なやり取りを出来るのは嬉しい。
ちょっと役得なんです・・・!
という嬉しさと面倒くささが混ざったせいで私のテンションはおかしかった。
その後、係は順調に決まっていき、あっという間に1時間が終わった。
と、休み時間に零斗が教室に来た。
放課後に来るのはしょっちゅうだったけどこういう授業間の短い休みに零斗が来るのは珍しかかったので私は驚きながらも扉に向かう。
「どうしたの?」
「すみれちゃんのクラスってもう体育祭の係決まった?」
「うん。ちょうど五時間目に終わったばっかだけど・・・。」
私の言葉に零斗は目を輝かせる。
「すみれちゃん、なんの係になった?」
「実行委員よ。」
「まじかー!めっちゃ大変じゃんか!じゃあ俺も実行委員になろーっと。」
零斗があまりに軽く言うので私はびっくりして「え"」と思わず令嬢らしからぬ声が出た。
「言ったよね?本気で狙いに行くって。俺、少しでもすみれちゃんと一緒にいたいから。」
最後の「一緒にいたいから」を吐息混じりに耳元で囁かれた私は顔が真っ赤になるのを感じた。
もう、いい加減こいつのセリフに赤くなるのやめたい・・・。
キッ、と私が睨んでも零斗は全く効いてないようで蕩けるような笑顔で「可愛いなぁ」と呟いた。
こいつはマジで1回眼科行った方がいい。
いや、今世の私は美人だとは思うけどね?!でもこいつちょっと目に変なフィルターかかってると思う。
零斗は時計を見て「そろそろ行くね。じゃあね。」と私の頭をポンポンした後に自分の教室へと帰っていった。
くっそ。あいつ帰る時までイケメンとか腹立つな・・・!
顔の赤みが引かないまま零斗の後ろ姿を睨んでいると「北条さん!」という声が聞こえた。
ギ ク リ
この声は・・・。
私は恐る恐る声の方向へと向く。
「矢野宮様・・・」
そこにはにこにこと屈託のない笑顔を浮かべた矢野宮がこちらへ向かってきていた。
・・・あいつがこっちに来るだけで廊下がざわめくからマジでやめて。私の豆腐メンタルが・・・!
他クラスの女子から羨望と嫉妬の視線を浴びながら私はニッコリと笑う。
「ごきげんよう、矢野宮様。」
「こんにちは!北条さん、もう体育祭の係決まった?」
・・・こいつもかよ。
他クラスの女子からの冷たい視線とは正反対のドンマイ、とでも言うような生暖かい視線を背中で感じる。
うん。うちのクラスめっちゃいい人ばっか。
でもその視線を向けてくれるのならちょっと助けてくれてもいいんじゃない?
ちらりと背後を振り向くとクラスの男子はドンマイという顔。女子はキラキラとした好奇心だらけの顔だった。
女子って恋バナ好きだよね。うん。
私はその視線を受けながら矢野宮に振り返る。
「えぇ。私は実行委員でした。」
「マジで?!大変じゃん!俺も実行委員なんだよね〜!頑張ろうな!」
「え、そうなんですか?頑張りましょうね。」
零斗とは違ったタイプだったので少し戸惑ったけど私は戦友になるであろう矢野宮と握手をした。
矢野宮は顔を真っ赤にさせていたけど・・・。
君は、モテる顔をしているのに女の子慣れしてないのかな・・・?
矢野宮はその後、教室へと戻っていった。
その後も何事もなく授業は進む。
ふふふ。少しだけ楽しみかも、体育祭。
私は前世では感じなかった行事を楽しむという感覚を嬉しく思いながら暖かな風を受けて授業を聞いていた。




