自己嫌悪と自分の気持ち
真面目回です、
次の話はもしかしたら視点が違うかもしれないです。
「うーん、そろそろお腹減ってきたね〜。」
「そうですね、ご飯食べましょうか。」
ジェットコースターを乗った後もいくつかのアトラクションに乗った私たちはかなり疲れていた。
時刻は1時。お昼の時間としても丁度いい時間だ。
私達はパンフレットに書かれた遊園地内の飲食店コーナーに向かった。
可愛い建物が並ぶその通りはこの遊園地での飲食店コーナーだ。
遊園地っぽく飲食店の外見は可愛らしい。
私と宮谷は少し店を巡った後にそれぞれの食べたいものを見つけて買った。
「すみれちゃん、何にしたのー?」
「私はオムライスです。」
「あ、確かにそれも美味しそうだね〜。俺はパスタ〜。」
ニッコリと笑う宮谷の手元には半熟卵が乗ったカルボナーラが置いてあった。
うわ・・・、カルボナーラも美味しそー・・・。
オムライスにしたの早まったかな・・・。
なんてボーッとしながらカルボナーラを見てるといつの間にか空いていた私の口に何か濃厚なものが入ってきた。
「はい、カルボナーラ。」
いきなりのことで何が起こったかわからないまま口をもごもごさせていると宮谷がニッコリと笑った。
「間接キス、しちゃったね?」
その言葉の意味を数秒考えてから思う。
・・・本当にこいつはタチが悪い。
人が真っ赤になるのをわかっててやってるんだから。
「いきなり口に入れないでください。びっくりしたじゃないですか。カルボナーラご馳走様です。」
あえて間接キスのくだりは無視してそう言うと宮谷は「すみれちゃんは意地悪だなぁ〜」なんて言ってきた。
意地悪はどっちだ、この野郎!
ちなみに現時点ではあのピンクの手錠は外されている。
というのも飲食店コーナーに入る時に入り口で外してもらった。
恐らく食べやすさなどを考慮してくれたのだろう。
でもね、手錠がなくてもイチャイチャイベントは来るのですよ。
そう、いまも。
「じゃあすみれちゃんも!」
そう言って宮谷は私にスプーンを差し出してくる。
「何ですか?」
私がわざととぼけても宮谷は騙されない。くそっ!!
「何ですか?じゃないでしょ!すみれちゃんだってオムライス買う時に言われたでしょ?このイベントに参加してる人が次にやらなきゃいけないこと。」
そう、私は確かに言われましたよ。オムライスを買う時に店にいた若い女の店員さんに。
「このイベントに参加されている方ですよね?飲食店コーナーでのイベントは『あーん』ですよ!」
と。
・・・もうなんの羞恥プレイだよー!!
「ほらほら、はやーくーー、俺はもうやったよ?」
ニマニマと実に、実に!楽しそうにこっちを見てくる宮谷の顔を殴っても今ばかりは許される気がする。
「・・・口開けて」
あまりの恥ずかしさとイラつきに私は普段の敬語も忘れて宮谷にぶっきらぼうに伝える。
さっさと開けろやぁ!!こんちくしょう!こうなったらヤケなんだよ!まさか遊園地遊びに来てこんな砂糖吐くようなことすると思わないじゃん?!!
こんなリア充みたいなことすると思わないじゃん?!!
「あーん」
なんて私が心の中で大嵐を吹き荒らしてる間に宮谷は可愛らしい声を出しながら口を開けた。
「・・・ふんっ!」
とりゃあ!!!と勢いよく宮谷の口の中にトロトロのオムライスを突っ込むと宮谷は多少びっくりしたものの私の真っ赤になっているであろう顔を見てニッコリと笑う。
「美味しいよ。すごく。」
・・・だからこいつさぁ、絶対分かってやってるよね?!!
お前、無駄にイケボな声で変な雰囲気出さないで欲しいんですけどっ?!
ってかこいつが言うとなんか卑猥なんですけど・・・!!
恋愛経験値0飛び越えてマイナスの私的にはオムライスを食べさせるという行為だけで真っ赤なのに挙句の果てこいつがそんなふうに言ってくるからなんだかいたたまれなくなってきた。
くそぅっ!!絶対いつかこいつにぎゃふん(古い)と言わせてやる!!
なんて思いながらミッション遂行するお昼だった。
◇◆◇
それからもお化け屋敷(リア充爆発しろよ)や、コーヒーカップ(リア充爆発しろよ)、アドベンチャーゲーム(リア充爆発しろよ)などでも着々とミッションをクリアした私たちはすっかりと疲れ果てていた。
いつの間にか周りも暗くなっていて遊園地は夜桜を綺麗にライトアップしている。
「いや〜、流石に1日中遊ぶのは疲れたね〜。」
「はい。でもだいぶミッション成功しましたよ・・・。恥に耐えながら・・・。」
私の蚊のなくような声に宮谷はあはは、と笑った。
ぐぬぬ、笑い事じゃないぞ!割と真面目に泣きそうになったことあったからな!
一人愚痴りながらも私はパンフレットの印を見てミッションがあと一つだということに気づく。
「宮谷様、最後はやはり王道ですよ・・・」
「んー?あと行ってないのって・・・、観覧車かー。確かに王道だね〜。」
何のひねりもない最後だがまぁ、王道だから仕方ないかな〜。
なんて思いながら私は2組のカップルが上手くいっているか考えた。
このイベントが終わったらゆっくり聞こう。
「じゃ、いこっか。」
「はい!」
桃ちゃんとマークん、それとなみさんと杉原のことを考えて少しだけ元気が出た私は宮谷の言葉に元気よく答えた。
ごとん、と音がして観覧車か動き始めた。
狭い箱の中で私と宮谷は向き合っている。
気まずいような、心地よいような沈黙の中、先に口を開いたのは宮谷だった。
「・・・すみれちゃん、楽しかった?」
なぜか少し困ったように眉を下げながら笑う宮谷を見て私は首をかしげた。
「ええ、私はとても楽しかったですよ。宮谷様はお疲れですか?」
「え?楽しかった?」
宮谷は私の心配する声には答えず、驚いたように目を開いた。
「え?えぇ。宮谷様、私のことスグからかうし、変態ですし、チャラいですけど、一緒にいてとても楽しかったです。」
にこり、と私が微笑むと宮谷は「そう・・・」と嬉しそうに呟いた。
「俺さ、ちょっと余裕ぶった振りしてたけど、実は結構心配してたんだよ。」
「何をですか?」
宮谷程のモテ男だったらデートだってそれなりにしてるだろうし、何よりも女性の扱いにはたけているでしょ?
「俺とのデートつまんないかな〜って。」
そう思っていた私だったから宮谷の言葉にはびっくりした。
小さく呟く宮谷はまるで小さな子供が知らない場所に放り出されたかのように頼りない弱々しい顔をしていた。
「すみれちゃんは軽蔑するかもしれないけど、俺が関わった女は全員体目的だよ。俺も相手もね。だからさ、こうやって純粋にデートするのって初めてなんだ。前回だって杉原に邪魔されたけどすみれちゃんがつまらないと思ってたらどうしようってすごく不安だった。」
宮谷の言い方といつもと違う雰囲気に私はドキリとする。
それじゃぁ、その言い方はまるで、宮谷が私のことを・・・
そこまで考えて私はその考えを頭の中から追い出すために拳を強く握る。
違う。そんなんじゃない。
勘違いしてはダメだ。
「とても・・・楽しかったです。私もあまりこういう経験がなかったのでむしろこっちが楽しませられたか心配なくらいですよ。」
なんとか宮谷の、いや、この場の雰囲気を変えたくて私は少しだけ前世のようにあはは〜、と緩く笑った。
そしてその後に自分でも思っていた以上の自己嫌悪を感じた。
それにびっくりしながら私は考える。
・・・この世界の人はあまりに私に優しい。
だから私は少しずつ前世から身に纏っていた笑顔の鎧を、
作り笑いの鎧を棄てようとしてる。
そこまで考えて私はそれを、その感情を、とても怖く感じた。
「すみれちゃん。」
はっ、として顔を見上げると正面には真剣な顔をした宮谷がいた。
「君はまだ、俺に抱え込んでいるものを一緒に持たせてはくれないんだね。」
「・・・っ」
何も答えない私に宮谷はふーっ、と息をついた。
呼吸がしずらい。
宮谷のその反応で私は気づいてしまった。
私はまだ、人のことを信用していない。
あんなになみさんと約束したのに。
みんなはこんなに優しくしてくれているのに。
私はどうしようもなく人を信じるのが怖い。
距離が近い人だったら近い人ほど捨てられたくなくて、本当の気持ちを押し殺してしまう。
本当はもっと頼りたいのに。
本当は一緒に背負いこんでほしいのに。
どうして私にはそれが出来ないんだろう。
人間が当たり前にする『信頼』という行動が、気持ちが私にはとても難しく、怖かった。
私の膝からパンフレットが落ちる。
『観覧車でのラブイベントは、頂上でキス♡』
やたら原色が使われたそのパンフレットが酷く場違いな気がして私の顔は歪んだ。
結局、キスなんて出来るわけもなく、私たちは観覧車を降りた。
頭の片隅であぁ、景品もらえないや。なんて冷静に考えながら私は係員の人に外された手錠を見る。
繋がりが途切れた自分の腕を。
このイベントが始まる前に皆で決めていた集合場所に私と宮谷は無言で向かっていた。
重苦しい空気。
前を歩く宮谷は暗闇に紛れ込んでしまいそうだった。
と、不意に前を歩く宮谷が夜桜の下でピタリと立ち止まる。
「ねぇ、」
「・・・・・・何ですか?」
私の問いかけに宮谷はゆっくりと振り向く。
夜桜を背にこちらを見る宮谷はとても綺麗だった。
「俺さ、すみれちゃんのこと本気だよ。」
私は今度ばかりは何を?とは問わなかった。
いっぱいいっぱいだった。
私は人をどうやっても信頼できず、信用出来ないという事が分かって、宮谷に傷つけた顔をさせて、
誰を信じればいいのか分からない。
ふと、桃ちゃんに暴言を言ってしまった時のことを思い出す。
あの時と、同じだ。
私は今、向き合ってくれている宮谷にさえも、『土足で私の心に入ってくるな』と思っている。
怖い、と。そう、思っている。
ざあっ、と風が吹いて桜吹雪がおきる。
私はどうしようもなく弱くて・・・、
宮谷から逃げた。
からかいだと思っていた普段のあの言葉ももしかしたら宮谷は本気で言っていてくれたのかもしれない。
私が本当に一人で殻に閉じこもっているときも助けてくれた。
なみさんは何回もこの世界でも私の相談にのってくれようとしてくれた。
桃ちゃんはまた勘違いされたくないからとはにかみながら溢れんばかりに好意を伝えてくれている。
まーくんは少しつんつんしていても困ったことがあったら言って、と心配した声で私の方を叩いてくれた。
杉原はなんだかんだ言って面倒見がいいのか私の相談に乗ろうとしてくれる。
それなのに自分は何も返せてないことが嫌で、
また下を向いてしまう自分が嫌で、
人を信用することが、信頼することが怖いと思ってしまう自分が嫌で、
私は何も言わずに宮谷の横を通り抜けて逃げる。
涙が滲んでしまうけど、私には傷つく権利もない。
ぐっと、零れそうになる涙をこらえた。
「ごめんなさい、宮谷」
小さく宮谷には聞こえないくらい本当に小さく呟いた。
「助けられなくてごめんね、すみれちゃん。」
彼女と同様に誰にいうでもなく呟いたその言葉は風と桜に消されてゆく。
彼は俯いたまま暫くその場で立ち止まっていた。




