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第二話  異なる人間

   第二話  異なる人間


 円が下降し続けるなか、少年はしきりに何か発しているようだった。でも、私たちには聞こえない。

私は右手を下ろし、彼がこちらに来るのを待った。

円は床まで下降すると停止した。再び動き出した円は、円の直径を縮めながら少年の頭上まで上昇する。円が縮みきり、球体になると音もなく破裂した。

「…れか居ないのかよ。」

少年の声は途端にこの世界に響いた。それはこの世界に受け入れられたから。

「さっきまで何も聞こえなかったの。何か言いたいなら今から言って。」

勝手に呼び出しといて、この言い方はどうだろう。

「ここはどこだよ。なんで人形が喋ってんだ。」

少年は質問を私たちにぶつけてくる。無理もない。勝手に連れて来られたんだから。

「ここは、あなたの居た世界とはまた別の世界よ。今居る場所はお城の中ね。それと、この世界では私たちが人間よ。」

私は自分の右手を少年に見せながら続けた。

「私のように、ね。そして、あなたは人間では無い人の形をした存在。つまり、この世界ではあなたが人形ということ。」

「良くわからないよ。なんで僕がここに居るんだよ。元の世界に帰してよ。」

少年は私に懇願する。帰してもいい。けど、私はあなたが必要なんだから。

「嫌よ。用が済むまで帰さないんだから。それと、あなたがこっちに来る前に居た世界からあなたの存在を消しといたわ。つまり、今あなたはどの世界にも属さない存在なの。まあ、あなたが帰るときには元に戻すから安心しといて。」

私は左手を腰に当てて、続けた。

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はソフィー。この城の王女よ。後ろに居るのは執事のピエール。」

私は自分と執事であるピエールを少年に紹介した。そして、少年を軽く睨みつけてながら続けた。

「こっちが自己紹介したんだから、そっちも自己紹介してよ。」

「僕はアランだよ。用って何。それになんで僕なの。」

アランは自分の名前を言いながら私に質問をする。声からやっていられないという気持ちが伝わってきた。しかたないよね、全部こっちの勝手だもの。

「アランって言うんだ。そうなんだ。あなたにした理由は、あなたが私と同い年ぐらいの人間だと思ったから。あとは、男で運動能力が高そうだからかな。」

私が円の中で探していたときは名前なんて気にしてなかった。名前なんて要らない。必要なのは人間であることとそれなりの運動能力を持っていること。

「だから、用って何。」

アランが再度私に聞いてくる。そういえば、アランである理由しか言ってないよね。

「私が変わる為に手伝ってほしいの。そのためにあなたが必要なの。だから、私が変わるまであなたを元の世界に帰せないわ。」

 私はアランを呼んだ理由を言う。情報は少ないけど間違ってはいない。

「ちょ、ちょっとそれ勝手すぎるよ。それに、どこで男だってことと運動能力の高さが使えるの。」

アランが私に聞いてくる。そういえば、その辺言ってない。

「そのあたりは念のためよ。深く考えないで。」

それから、私はアランの全身を足から頭までゆっくりと見て言った。

「その服装はこっちでは止めといたほうがいいわね。」

アランの服は、呼んだ時間がまずかったのか外へ出られるような服ではなかった。私は、ピエールを見て続けた。

「ピエール。彼に新しい服を用意してあげて。動きやすいものを選ぶのよ。」

「かしこまりました。では、すぐに採寸をしましょう。」

ピエールは一度部屋を出ると、測りを持って戻ってきた。そして、アランの体を測る。

「合う服を探してきますので、少々お待ちください。」

 ピエールはそう言うと部屋を出て行った。

私は、再びアランを見る。

「あなたも、その場で突っ立ってるのも良くないでしょ。そこの椅子に座って頂戴。私も色々聞きたいことがあるの。」

私はアランを部屋の一角にある椅子へ座るよう促した。アランが座ると、私はテーブルを挟んだ椅子に座る。彼は一度大きくため息をついた。

「えっと、ソフィー。君が変わるために、具体的には何をすればいいの。」

 アランが私をじっと見て言った。

「あら、やる気になったの。よかったわ。」

私は笑顔でアランに応じる。内心はほっとしている状態だ。本気で、嫌だと言い続けるなら、人間の選択ミスとして再度見つけなければならない。

「気が進まないけど。君を変えなきゃ帰れないんでしょ。だったら、するよ。」

 アランはテーブルに両腕を交差するように置き、その上にあごを乗せた。

「どうにせよ良かったわ。あ、そうそう。私が死んでもあなたは帰れないから注意してね。この世界で死ぬっていうのは、体の六割以上が燃えたり腐ったり消滅したりした状態を言うわ。その時点で本人はもう二度と動かない。それが死よ。ちなみにあなたは、あなたの世界にある死のルールが適用されるはず。あなたがこっちで死ねば、送り帰す必要も無くなるから楽ね。」

私はテーブルに肘をついて言った。

「その言い方ひどい。」

アランは腕からあごを離して言った。

「もしもの時よ。必要なんだから死なれちゃ困るわ。」

私はアランを視界外に追いやった状態で言った。そして、アランを見て続ける。

「さっきも言ったけど、あなたに聞きたいことあるの。」

「僕に聞かれても、わからないものはわからないよ。それでいいなら。」

アランは椅子を引いて、背筋を伸ばす。しかし、テーブルに置いた腕はそのままだ。

「それでいいわ。私はあなたたちのことが知りたいの。ねえ、教えてよ。」

私はテーブルの上に身を乗り出して言った。

その時、部屋の扉を誰かが開く音が聞こえた。すぐに扉を見れば、ピエールが服を持って入ってくる。

「ピエール。入るときは必ずノックをしなさい。それでなくとも、今の状況は。」

私はテーブルに手をついて立つと、部屋に入ってきたピエールに声を荒げた。

私は声を発した後、すぐに手で口を押さえた。この声を聞いた者が、異変を感じてこの部屋に来るかもしれない。この状況を見られては、私が不利になる。

「も、申し訳ありません。」

部屋の入り口で深々とお辞儀をするピエール。

「もっと、緊張感を持って。」

私は部屋の奥へと移動するピエールに近づいて言った。そして、手を腰に当てて続ける。

「あなたが私たちと一緒に居るところを他の人に見られたら、あなたも危険なのよ。今後気をつけて。」

 私はそれだけ言うと、体を反転させて自分の席に戻った。

「以後気をつけます。」

 ピエールの返事が聞こえたが、無視した。今はピエールとやりとりをしたいわけじゃない。

「さあ、さっさと話して…。」

私は椅子に座りながらアランに言う。その時、扉をノックする音が聞こえた。

「誰か来た。アランはベッドの下に隠れて。」

私が小声で言うと、アランは指示通りベッドの下に隠れた。それを確認すると、私は彼を隠すようにベッドに座った。

「入って良いわ。」

私の声とともに、兵士が一人入ってくる。

「失礼します。こちらにピエール様はいらっしゃいますか。」

 兵士はそう言いながら部屋を見渡した。私はどきどきした。ここでアランが見つかったら、さてどうなるのだろう。結果兵士はアランを発見せず、端にいるピエールを見つけた。

「ピエール様。こちらにいらっしゃったのですか。王様がお呼びです。」

「わかりました。すぐ向かいます。」

ピエールは兵士の言葉に返答した。兵士は一礼すると私の部屋を出て行った。ピエールは扉を開け、兵士が遠ざかったことを確認すると私を見た。

「ソフィー様。王様がお呼びですので行ってきます。それと、アラン君はこちらの服を着てください。それでは、行ってきます。」

 ピエールはそう言うと、扉を開けて部屋を出て行った。

私はピエールが扉を閉めたことを確認すると、ベッドから立ち上がる。そして、しゃがみこんでアランが居るベッドの下に手を伸ばした。

「ねえ、早く聞かせてよ。あなたたちのこと。」

アランは差し出した私の手を掴んだ。

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