第三話
天空聖騎士を育てる学校は基本、小中高と一貫校である。
小学四年生までは座学を中心に教えられる。実戦もまだない。
小学五年生から実戦も加えられる。
「……言っている意味が分からん」
「そうですか。未空にはこれから初等部五年生の教官になってもらうのです」
いやいや、そういう意味ではない。
未空だってその意味ぐらいは分かる。
でも初等部五年生はまずいだろう。
「そういう意味じゃねーよ。高校生が小学生の教官になったら俺が周りからロリコンと呼ばれる」
今、この世界はロリコンを悪とする傾向がある。
さすがに未空もこれ以上悪いあだ名は勘弁してほしい。
「……さすがに考え過ぎです。ただ小学生の教官になっただけでロリコンにはなりません。それとも小学校の先生はみんなロリコンということなんですか」
真白は厳しい目で未空を見る。
確かにそれは違うかもしれない。
「……それはそうなんだけど」
でも未空はまだ高校生でそういうところは割り切れない。
だから未空の口調は歯切れが悪い。
「だから大丈夫です。なんの心配もありません」
真白の言う通り未空の考え過ぎなのかもしれない。
それにこれを承諾しなければ未空はここにいれなくなるかもしれないのだ。
「……分かったよ」
未空は渋々頷いた。
未空に拒否権はない。
まさにその通りだ。
もう一度天空聖騎士となるためにはここで過ごすことが大切だ。
「分かりました。そのように手続きをしておきます」
ここからの手続きは生徒会長である真白の役目だ。
未空は小学生の教官には納得していないがやるしかないだろう。
「全く、面倒なことを押し付けられたもんだ」
「未空、聞こえてますよ」
マジか。結構小声で呟いていたつもりだったのに。
真白の地獄耳、恐るべし。
「それはともかく良い気分転換にはなるでしょう」
「……」
確かにそうかもしれないという思いが未空の中にも微かにあった。
天空聖騎士のための力を失ってからは毎日が平穏だった。
もちろん、訓練はしていたものの実践はしていない。
いや、できないの方が正しい。
「……もう用がないなら俺は帰る」
「はい、もう大丈夫です」
未空は真白に自分の心が見透かされたようで恥ずかしかった。
さすが姉かと思う。
だから未空はここから早く出たかった。
未空が生徒会室のドアを開けて教室に戻る。
「……未空……待ってますから」
真白の願いは残念ながら未空の耳には届かなかった。