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卒業式に告白はつきものですよね?

作者: 首夏

なんか、題名とあらすじと内容が一致しない気がする。

 



 “禁断の愛”




 そう聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。


 禁断にも幅がある。

 例えば、血の繋がりがあるもの同士。

 同じ性を持つもの同士。

 時代を越えれば、身分差。



 まぁ、さまざまだ。

 それぞれの“禁断”の認識の違いもあるだろう。



 小説などでは“禁断の愛”なんてものを取り上げるものは千、万とある。

 中には、そういった類いをテーマにしたものが大好きだという方もいるだろう。



 だが、実際に体験したという人は少ないだろう。そこら中に“禁断”があったらたまったもんじゃない。



 勿論、私もそういった小説は結構好きだが、体験したいかと聞かれたら、即座にこう答える。


 結構です。


 現実と夢物語は違うのだ。現実にないと思っているから、夢物語を心置きなく楽しめるのだ。

 障害は二人の絆を強くするとか言わなくもないが、程々の障害が好ましい。

 世の中、愛だけじゃ生きていけないのだ。



 さて。

 無駄に訳の分からないことをグダグダ言ってるが、言いたいことは一つだ。




 ――先生と生徒ってどうよ。




 *



 女性、というより女子――女子高生の安芸 梓は深刻そうに――実際とても深刻なのだ――相手の目を見て言う。

「先生。私、思うんですけど」

「ん?」

「先生と生徒ってないと思うんですよね」

 男性――教師を生業としている周防 晴臣は少し考える素振りを見せて頷いた。

「俺もそう思う。」

「じゃあ、」

「それ、今関係あるか?」

 大の大人が小首を傾げる。

 そんな仕草して、可愛いとでもおもってんのか!それをしていいのは、限られた可愛い子や綺麗な子たちだけだ。

「大ありだろうが!」

 つい、周防の頭をはたく。可笑しい。言葉が通じないようだ。


 いけない。奴のペースに乗せられそうだ。

 少し、落ち着こう。


 少し整理してみよう。



 *



 事の発端は数時間前。



 梓はついに高校を卒業した。

 実に充実した三年間だった。きっとこの三年間の思い出は一生大事にしていくだろう。

 本命の国立大学の結果はまだだが、滑り止めの私大には一応合格通知をもらっている。まだ“受験生”は終わってないが、受かっても落ちても春からはまた新しい世界へ飛び込むことには変わりない。不安や寂しさと共に、期待で胸が一杯だ。

 自分にしては珍しく、ノスタルジックな気持ちだ。――あぁ、なんか青春ってかんじ。

 友人作りや勉学には精一杯励んだが、恋愛的な青春は残念ながら梓には訪れなかった。励んだおぼえもないので、しょうがない。大学生になってそのへんは後々考えればいい。人間、来るときには来るのだ。


 友人達と別れを惜しむなか、無粋な知らせが梓を現実に引き戻した。


 担任が梓を呼んでいる、と。


 はぁ?ふざけんな。こんな一生に一度の大事なときに呼び出しとは何様だ。担任様か。

 梓の担任――周防先生はこの学校では珍しく若い。厳しいときには厳しいが、基本生徒目線で話してくれる気さくな周防は、授業も分かりやすく、男女問わず人気がある。周防の授業やクラスになれた生徒は大喜びして、友人達に自慢するくらいだ。

 2年、3年と周防は梓の担任だった。梓がクラス委員をしていた関係で周防とはよく話した。

 今更呼び出しとは、何の用だろう。また、面倒な仕事でも押し付けるつもりだろうか。

 断ろうとすると、丁度その頃予定を入れていた親友からの突然のキャンセル。男子生徒からの呼び出しだ。

 卒業式と言えば、告白。

 梓には余り……全く関係のないことだが、なんせ梓の親友は可愛い。最後の数分くらい与えてやろう。私はこれからもこの親友とずーっと一緒にいるのだ。ずーっと。せいぜい、当たって砕けてくれたまえ。

 そう他人事のように思いながら、暇になってしまった時間を担任様にあげてやった。



 そして、今、それは重大な間違えだったと悟った。



 *



「先生、落ち着いて下さい」

 諌める梓に周防は全く動じない。

「俺は落ち着いてる」

「どこがですか。この体勢をみて下さい。」

 この体勢――これはどう見ても、周防が梓を机に押し倒している。

 もう一度言おう。周防は教師。梓は生徒。

「まぁ、迫ってるんだから当然だよな」

「馬鹿野郎」

 反射的に言葉を吐く梓に周防はわざとらしくため息をついた。

「お前…先生に暴言はよくないって言ってるだろ」

「…教師が生徒を押し倒しているのはいいんですか?“先生”?」

「よくないな。発見したら即110番通報だ」

「おっと。こんなところに携帯が」

 すかさず携帯を取り出す梓に、周防はするりとそれを奪い取り、片手でいじる。

「……なにやってんだ、ですか」

「いや?俺のメアドを入れとこうかなと」

「ふっ

 そこで赤外線通信しないところに時代の差を感じますね」

 わざとらしく鼻で笑う梓に、周防は全く反応しない。

「そうだなー。俺に片手で赤外線通信する技術はないわ」

「是非とも、両手で、して欲しい、ものです、ね!」

 ケラケラ笑う周防に、梓は痺れを切らして携帯をいじる周防を押しやる。が、非力な梓が力で周防に勝てるわけもなく。



 ――そして冒頭に戻る。



「ちょっと先生。真面目に話しましょう」

 梓は諦めたようにため息をつき、周防を見上げた。この体勢で真面目もくそもない気がするがいちいち突っ込んでたら日が暮れる。

 そんな梓に周防はにっこりと笑う。

 話をずらして逃げていたのは、梓だ。

「もう一度言いますよ?

 先生、私は生徒です。生徒に手を出さないで下さい」

「生徒だから手を出してるわけじゃなく、お前だから手を出してる」

 理由になっていない。馬鹿なのだろうか。

「それに、……だから今日まで我慢したんだろう?」

 周防は体を屈めて、梓の見えないところ――耳元で言った。要は、梓と周防の距離が更に近くなったということだ。

「い、意味が分かりません!今日とか関係ないし!」

「だってお前、卒業したじゃん。

 卒業まで長かったよなー。生徒達が卒業していくのは寂しいもんだが、お前に限っては早く卒業して欲しかった。矛盾してるよな」

 周防が笑う。自分の耳元で笑わないで欲しい。息がかかってくすぐったい。つい、首を竦める。ぐっと周防を押すと案外簡単に体を離してくれた。だが、距離が開いただけで体勢は変わらない。

「卒業したって生徒です!」

「そうだな。けど、卒業した生徒とくっつく教師はかなりいるぞ。」

「……そ、そうかもですが、」

「なに。ただ卒業からくっつくまでの時間が少し短いだけだ。問題ない」

 問題しかない。

 笑顔でいっているはずなのに、全く周防に穏やかな様子はない。和やかな会話をしてるように見えて、二人の間には緊張した空気が流れている。当たり前だ。

「せ、先生にはこんなガキより良い人が現れますよ。出逢いは突然訪れるものなんですよ?」

「馬鹿言え。教師の出逢いなんて限られてるんだよ。同職か、生徒。または、生徒の保護者。

 それくらい、お前だって知ってるだろ?」

 確かに、教師の出逢いは少ないと聞く。教師同士の結婚が多くなるのは当然だ。教師が合コン、とは響きは悪いが行われるべきかもしれない。……こうした事を招かないためにも。

「それにさぁ…なんで俺、惚れてる奴に他の女を勧められなきゃいけないわけ?」

 先生。顔が笑ってません。怖いですよ。

 今この状況をに顔を青くさせるべきか、赤くさせるべきか分からない。

 心なしか、周防の口調が少し…大分荒くなってる気がする。

 くそぅ、これを周防を慕っている生徒達に見せてやりたい。

 涙目になる梓をみて、周防は顔を反らした。下に反らしたので、梓の方から周防の顔は見えない。

「安芸…

 俺だって、教師と生徒なんて微妙な立ち位置でこんなこと、したくないんだ。安芸が困るのは分かってる。

 けど、やっぱり捕まえとかないわけにはいかなくてな。時間を置いてるうちにかっさわれたら困る。」

 顔が見えないので、周防の声だけを頼りにするしかない。


 そんな聴いたことないような声をするな。


 八つ当たりのように心の中で罵る。


 こういうとき、どう反応すればいいか分からない。分かるような人生は送ってこなかった。

 大体、いつからなのか。確かに普通の生徒より多く接する機会があった自覚はある。けど、それは委員など意図的なものではない。

 頭は意味もなくクルクルと回るのに、口は一向に開けない。ただ。ただ、体中が熱くなっていっていることは分かる。

 顔も赤く染まっている自覚はあるので、周防と同じように、つい俯く。取り敢えず、この距離をどうにかしたい。


「先生、…」

 梓の声を遮るように、周防は梓の頤を持ち上げ、上を向かせる。

 そっちだって俯いてたくせに。

「安芸。突き放すなら、こうだ。」


「“気持ち悪い”」


「っ!」

 周防は無表情で言いやった。

 ずるい。

「ずるい。」

 つい、声に出してしまう。眉間にぐっと力が入る。

 逃げ道を用意してるなんて。しかも、その逃げ道は曖昧にすることを許さない。イチかゼロ。

 そんな私を周防は困ったように苦笑した。

「大人はずるいもんなんだよ」

 本当だ。けど、それでも必死に曖昧な逃げ道を探す私もずるいのかもしれない。

 初めての告白に戸惑っている。しかも相手は――周防だ。これで、動揺するなという方が可笑しい。


 けど。けれど、――私は逃げる。

 これは、多分、甘えだ。

 子供にしか許されない甘え。

 高校生と大学生の壁は私の中では大きい。

 あと数日、子供でいさせて欲しい。


「先生」

「……あぁ」

「私達は先生と生徒です。それを越えるのは私のモラルに反します」

「…そうだな」

「私は…3月までは高校生です」

「おう…?」

「4月からはピチピチの大学生です」

「“ピチピチ”とか使う奴は“ピチピチ”だとは思わないがな」

 周防は張り詰めていた頬を緩める。

「うるさいです。

 4月からはあなたの生徒ではありません。“元”ではありますが。」

「……。」

「だから、だから…」

 顔を見ながら言わなくては、と思うのに、やはり耐えきれず俯く。額をそっと周防の胸にあてる。

「……4月に返事をします。」

 体を揺らす周防に、私だけが緊張しているわけじゃないことが分かり、ほっとする。

 パッと顔をあげ、はっきりとした声で言う。

「それまで、首を洗って待ってやがれ!

 覚悟しとけよ!」

 そう言い捨てると、無理矢理周防の手から逃げる。

 周防も動揺していたのか、簡単に抜け出せた。

 そして、ダッシュ。これこそ、言い逃げ。


 部屋から出て扉を閉めるとき、周防と梓の目があった。


 ――そんな甘い顔で笑ってんじゃねーよ!

 心中で悪態をつく梓。


 ――そんな可愛い顔をしないで欲しい。

 心中で呟く周防。






 ――――さて。


 二人の恋の行方は?





教師と生徒って“禁断”とまではいかないかもしれないけど、今回は禁断禁断言わせて貰いました。

現実に教師と、って私はあまり受け入れられないけど、そうだとしてもせめて時期を考えろよっていう私の理想。


すみません!卒業式の頃に国立の結果はまだ発表されてないですよね。そこのあたりを直しました。H27.3.13

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[一言] わぁヤ、ヤバい… 続きが読みたいです。 その後が気になります
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