【第一話】幽霊加えた新生活
「あんた誰?」
考えも無しに出た言葉がそれだった。失礼であろうと何であろうと、人の家に勝手に上がりこんでいる目の前の相手は「住居不法侵入」に該当するし、いきなり驚かせてびっくりした此方側にとっては良い迷惑だ。
「私?私の名前は『東 優香』!享年19歳の美少女大学生でーす!」
百歩譲ろう。百歩譲ったとして、彼女の容姿も、服装も可愛らしいし、初対面だが他人っぽさを感じさせない親しげな言動で話しかけてきたので返事がしやすかった。だけど、美少女を自称するのはいかがなものだろうか。そこだけが、そこだけが納得のいかない部分であった。勿論、警告して穏便に出て行ってもらうつもりだ。
「人の家に勝手に入り込んで…住居不法侵入だぞ。10数えるからその間に去ってくれ。いーち…」
「私、幽霊なの」
笑顔で驚かし美少女を自称した相手は、突然真面目な顔で一言呟いた。その直後、ああ、こいつが「事故物件」の主なんだなと納得した。
「1ヶ月前、事故で、この家で死んだの。あなたみたいな、私が見える人をずっと待ってたの。ずっと探してたんだよ?もし、この家に住まなくてもついて行こうって思ってた。今みたいに驚かしても、見えない人には無視されて…最初は気さくにやってきたけど、だんだん、悲しくなってきて…うっ…えぐっ…」
「分かった分かった!分かったから泣くなって!寂しかったんだよな?一緒に誰かといたかったんだよな?一緒にいてやるから!な?」
「ホント!?」
と、さっきまで凄く動揺してしまうほどの泣き顔をケロッと笑顔に変えてきたので、勢いでとんでもない事を言ってしまったと、気づいた後悔で顔が引きつってしまった。
彼女、『東 優香』と会話をして情報や、死亡した経緯を得る事ができた。
彼女は同じ『相馬大学』に在学していて、この部屋で一人暮らしをしていたという。2年生に進級し、そして1ヶ月前まで遡る。1ヶ月前、台所で脚立を使って食器を片付けていたところ、食器を持ちすぎた重みで後ろにもたれ、そのまま倒れて洗い場の角に後頭部をぶつけ、そのまま帰らぬ人となってしまった。気が付くと、目の前では抜け殻と化した自分に抱きつき泣き叫ぶ母と、目を閉じ歯を食いしばって涙を流すまいとする父の姿があったという。
「思ったんだが…それって、誰もが経験するのか?誰もが経験するなら、つらいもんだろ?」
「分からないよ…でも、死んだ人ってさ、死んだ後はすぐに天国に行っちゃうらしいよ。この世に未練を残した人間だけが留まれるんだって」
しばらく沈黙が続いた。お互いに何と言ったらいいか、気まずい雰囲気になってしまった。
「あああぁーっ!!」
と、いきなり優香が叫ぶので、びっくりして体が跳ねてしまった。その勢いでソファから転げ落ちてしまった。
「もう6時半だよ!『それいけ!エンチョーさん』が始まっちゃうよ!テレビテレビ!」
優香が叫ぶなり、リモコンを取り出しテレビを操作し始めた。
「って、え…?」
そのリモコンは宙を浮き、ピコピコと勝手にボタンを動かしている。有り得ない現象を目の当たりにしてしまった。
「あ、びっくりしちゃった?これね、ポルターガイストっていうの。よく心霊特集で勝手に物が動いたりするでしょ?あれなんだよね~。最初は鉛筆を動かすのにも体力を使い果たすくらいだったけど、今じゃ多少重い物も動かせるようになったんだよね!どうだ!えっへん!」
両手を腰に当てて自慢げに説明しているのだが、信じられない光景にツッコミをする事もできなかった。リモコンが浮いてテレビが勝手に動く…多分、他人に説明しても誰にも信じてもらえないだろう。『それいけ!エンチョーさん』のテーマ曲も、驚きで全く耳に入らなかった。
「なんか寝たばっかりなのに疲れてきた…とりあえず夕飯でも買いに行くか」
「あ、私ご飯作れるよ!一緒におかずを選びに行こー!…とその前に」
顔を固定するように軽く抑えられ、一瞬だけ唇に柔らかい何かが当たったかのように感じた。ちょうど瞬きをして、目を閉じていた一瞬だった。目の前の優香は、顔を赤らんで目を逸らしている。
もしかして…もしかして今のって…?




