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最後の恋  作者: 七緒葉月
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今回は三人称視点です。

「先生、ちょっといいですか?」

 放課後の図書室。そろそろ部活が始まる頃だ。

「はい、あら新顔さんね」

「俺はお使いなもんで」

 そういって、拓巳は三積に手紙を渡す。

「あら、ラブレター?」

「さあ、お使いだから」

 二人して笑いあう。三積は手紙を受け取り封を開ける。

「あら高田さんからなのね。最近お休みしてるみたいだけれど、大丈夫なの?」

「風邪こじらせただけらしいから、たぶん大丈夫だと思う」

 話しながら、三積は手紙を読み終わる。

「えっと時間あるかな?私も高田さんに手紙を書きたいのだけれど」

「俺、これから部活なんですけど。サッカー部、遅刻は厳しいんで」

 サッカー部と聞いて三積は目を輝かせる。

「あら、サッカー部なの?じゃあ、部活終わったら渡辺くんと一緒に来てくれる?」

「え、渡辺先輩とですか?」

 引退していた先輩は気晴らしに週何度か部に足を運ぶ。今日はたまたまその日だったわけだが、なぜ司書の先生が渡辺先輩を知っているのか拓巳には疑問だった。

「そう、彼が借りてた本がちょうど今日返却期限だから、どうせ来ることになってるし」

「先輩、本を読む人だったんですね」

 拓巳は以外そうに言う。

「そうね、確かにそういう風には見えないわよね。でも、高田さんと同じ本をよく借りてたわよ」

「へえ、なつみが読むような本が読めるんだ」

 純粋に尊敬の目を向ける拓巳を見て、三積は笑いをこらえる。拓巳が本を苦手としているのがよくわかる。

「引き止めて悪かったわねえ。ほら、早く行かないと遅刻しちゃうわよ」

「あ、はい。じゃ後でよります」

 拓巳はあわててグラウンドへと向かう。


「高田さん、覚悟を決めたのねえ・・・」

 三積はなつみの書いた手紙を見ながら、独りつぶやく。


「先生、遅くなりました」

「いらっしゃい。待ってたわよ」

 三積の前にはなぜか本が何冊も詰まれている。

「先生、本返しにきたんだけど何その本の山」

「そろそろ渡辺くんは卒業でしょう?だから、新刊のどれかをプレゼントしようと思って」

「それはうれしいけど、司書の一存でそんなことやっていいの?」

 渡辺幸成はちょっと不審そうに三積を見つめる。

「もちろん駄目よ。なくなった本はばれないように私が補充しておくからいいの」

 いたずらっ子のような感じの三積を見て、拓巳はよく司書になれたよなあと思った。

「それって単に俺に本をくれればいいことじゃ・・・」

「あら駄目よ。それじゃあ図書室の思い出じゃなくて、私の思い出になるでしょう?私は学校の図書室の思い出をプレゼントしたいのだから。さあ、どれがいい?」

 本の山を見て、拓巳は拒否反応を起こしそうだった。

「なあ、先生俺は関係ないだろう?さっさと本を一冊渡してくれれば帰るからさあ」

「何だ、拓巳は本を読むのか?」

「まさか。俺は教科書読むので精一杯です」

 渡辺幸成は意外そうに拓巳を見たが、拓巳は即答で否定した。やっぱりという顔で渡辺幸成は笑う。

「だろうな。じゃあ誰かに頼まれたのか?」

「あ、はい。同じクラスのやつなんですけど。た・・」

「はいストップ。これから私が面白いことやろうと思ってるのを邪魔するのね、君は」

 三積はしゃべりかけた拓巳の口をふさぎ、耳元でささやく。

「それは渡辺君には関係のないことだからね。さ、選んでくれる?」

 その三積の行動を変だと思いながらも、渡辺幸成は一冊の本を選ぶ。

「その本でいいのね」

「ええ、次読もうと思ってた本だし。俺が集めてる作家のやつだし」

「じゃあ卒業式まで待っててね。小細工するし、思い出は卒業式までとっておいた方がいいでしょう?」

「え、そりゃ別にいいですけど。じゃあ、別の本借りてっていい?」

「どうぞどうぞ。あ、君はちょっとこっちに来てくれる?」

 そういって三積は拓巳を司書控え室に呼んだ。拓巳が別の方向を見ている隙に袋に、本を一冊入れる。そして三積は自分が書いた手紙を入れ封をした。

「じゃあ、これを高田さんまで配達お願いね。中見ちゃ駄目よ?」

「封をしているものをわざわざあけてまで見ようとはしませんよ。じゃ、俺帰りますから」

「あ、渡辺くんには高田さんのことしゃべっちゃ駄目よ」

 三積は本のことを言ったのだが、拓巳は病気のことだと勘違いしてしまった。

「先生、なんでなつみの病気の事知ってるんだよ」

「え、病気?風邪、じゃないの?」

 三積の反応で、拓巳は自分がいらぬことをしゃべったと気づく。

「ねえ、高田さん良くないの?」

「…いや、別にそんなことないです」

 目をそらす拓巳を見て三積は問いただすことをやめた。そして、何事もなかったかのようにふるまった。

「おつかれ様。高田さんによろしくね」


 拓巳が部屋の外に出るとちょうど渡辺幸成は本をかばんになおしていた。

「お、用事はすんだのか。一緒に帰るか?」

「あ、はい」

 渡辺幸成と1対1でいたことのない拓巳は何をしゃべればいいのかわからずただ黙っていた。渡辺幸成も何かをしゃべろうとしてやめる。

「拓巳はクラスは2組だったか?」

「あ、はい。そうっすけど」

 拓巳はなんでそんなことを聞くのか問いたかったが、どうも先輩に対しての遠慮があった。

「お前のクラスにさ、・・・あ、やっぱいいや。ごめんな」

 渡辺幸成は一度言いかけてやめる。拓巳はかなり気になったが、どうも緊張して言葉が出ない。

 そうこうするうちにバス停へとつく。

「俺、バスなんで」

「ああ、気をつけて帰れよ」

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