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最後の恋  作者: 七緒葉月
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 結局、何も進展しないまま、春がすぐそこまで近づいていた。私が16歳を迎え、渡辺幸成が卒業を迎える春がすぐそこにあった。



「もうすぐ春だね」

「なつみちゃん、誕生日プレゼント何がいい?」


 勇造さんはいつもプレゼントをくれると言うけれど、いつも断っていた。私はプレゼントよりも勇造さんが一生懸命治療方法を探してくれていることが、私へのプレゼントだと思っていたから。


「そうね。お手紙セットが欲しいな。便箋と封筒とペン」

「安上がりだね。もっと高価なものをねだられるかと思ったよ」


 勇造さんは私が今まで断っていたから、今回も断るのだろうと思っていたのだろう。少し驚いた顔をして、その後とても複雑な顔をした。きっと私が何をその手紙に書くのかわかったのだろう。


「ね、水色のがいいな。空の色、海の色で」

「わかったよ、次の診察の時までに買っておこう」

「ありがとう、勇造さん」


 今までのありがとうをこめて。



 そして、私は2月入ってすぐに、学校にいけなくなった。


「なつみ、やっぱりみんな心配してるぞ」


 拓巳くんはお見舞いがてら学校の様子を教えてくれる。


「やっぱり?でも、誰にも教えないでね。みんなには風邪こじらせたって言っといて」

「わかった。そういや司書の先生がなつみに新刊入ったからって伝えてくれって」


 驚いた。三積先生がわざわざ伝言頼むなんて。それよりも驚いたのは、拓巳くんが司書の先生の伝言を携えてることだ。


「拓巳くん図書室行ったの?」


 活字は苦手と豪語してるし、サッカー部の練習で本を読む暇なんかない。


「いや、担任経由で伝言回ってきた。俺が図書室なんかに行くわけないだろう」


 やっぱり。拓巳くんにかぎって図書室に行くわけはないか。渡辺幸成じゃないし。あの人はどう思っているのだろう。私のことなんか知らないかな。


「あ、ねえ暇だったら新刊借りてきてくれる?」

「え・・・」


 思いっきり嫌な顔。


「いいじゃない。暇してるのよ」

「わかったよ。1冊でいいのか?」

「うん、そのとき手紙渡してくれる?それで借りる本がわかると思うから」

「了解、無理はするなよ?」


 あ、また勇造さんと同じ笑い方。


「何笑ってんだよ」

「ん、だって勇造さんとおんなじ笑い方なんだもん」


 拓巳くんは私がくすくす笑っているのを呆れた顔で見ている。


「そりゃ兄弟だからなあ。似るだろう」

「それもそうね」

「じゃ、俺自主練があるから。明日学校行く前に寄るからおきてろよ」

「うん。がんばってね」


 勇造さんと拓巳くんの笑みは、私の最後が近いのを知っていて悲しいけれど表には出せない、そんな微笑み方。だから私はいつも、悲しくなってしまうのを隠すように笑ってしまうのだ。


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