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最後の恋  作者: 七緒葉月
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「なつみちゃん、最近元気ないね」

 いつもの診察で、勇造さんが気付いた。確かに最近考え込んでいることが多い。やっぱり気になっているのだ。

「病は気から、だよ。気持ちが弱まると進行が早くなる事もあるんだから」

「うん、わかってるよ」

 りっぱなお医者さんが迷信っぽい格言を言うのってちょっと変だと思いながら、うなづく。

 もうすぐ私の誕生日。16歳になる。体はだいぶん悪くなっている。でも、まだかろうじて生きているけれど。後1年持たないだろう。

「自分で期限を決めちゃ駄目だよ。絶対ってことはないんだから」

 私の心の中を見透かしたように、言う。

「世の中には、奇跡っていう言葉もあるんだから」

 真顔でそんなこと言われると笑ってしまう。

「勇造さんって医者なのに、非科学的な事よくいうよね」

「科学で証明できないことは世の中にたくさんあるんだよ。きっとね」

 勇造さんの笑顔が私に元気をくれる。でも、心の奥底では、やっぱり渡辺幸成という存在が滞っているのだ。




 いつものように図書室へ行き、本を物色していた。今日は特にこれといって決めてなかったから、時間をかけてぐるぐると棚を回った。

「何かピンと来ないなあ・・・」

 今日は諦めようかな。帰りに本屋さんにでも寄ってみるか。

「これ、どう?」

 後ろからいきなり声を掛けられた。

「まだ借りてないでしょ?」

 びっくりした。渡辺先輩だ。何で私が借りてないって知ってるんだろう。向こうは私のこと知ってるんだろうか。何か頭の中で考えがぐるぐるしてまとまらない。

「あれ、借りない?」

「い、いえ借ります。どうも」

 とりあえず、その本を受け取った。そっからまた言葉が出てこない。何て言ったらいいんだろう。

「じゃ、またね」

 手を振って、渡辺先輩は図書室を出ていった。どっと力が抜けて、その場に座り込んでしまった。あーびっくりした。

「高田さん、何やってんの?」

 三積先生が、座り込んだ私をのぞき込みにきた。当然今のやりとりは見ているはずだ。

「あ、三積先生。いや、ちょっとびっくりしただけで」

 何でこんなにびっくりしてるんだろう、私。下を向いて気を落ち着かせる。そうしないと、本気で大丈夫じゃなくなってしまう。

「意識しちゃってるのね、渡辺くんを」

 先生はまた、幼子を見る目で私を見つめている。

「まだ、自覚してないの?」

 何を、と聞く必要はない。私も薄々感づいているのだから。


 私は恋をしてしまっているのだ。


「どうしよう」

「え、何をどうするの。告白でもやる?」

 面白がっている三積先生は、私の病気を知らない。

「できるわけがない」

 もうすぐこの世からいなくなってしまうのに。

「なぜ?告白するだけならタダよ。それ以上を望むと授業料がもれなくついてくるけどね」

 そうだ、告白だけなら出来るじゃないか。そう思った端から否定の言葉が生まれてくる。


 もし万が一うまくいって付き合うことになってしまったら?先輩が私を好きになってくれても、私はいなくなる。

 もし、告白の前に病気のこと知ったら、同情して私と付き合おうとするかもしれない。同情なんてまっぴらだった。だから、学校にも友達にもすべて内緒にしてきたのだ。


 それ以上に私が告白して否定されるのが嫌だった。もし、断られてしまえば私は、これからを生きていけないかもしれない。

 いくら残りが少なくても、ちゃんと生きていきたいのだ。死を待つ生を過ごしたくはない。そのために逃げるんだ・・・。


「若いんだからいろんなことにチャレンジしなきゃね」

 そんなことを考えているとは知らない先生は気楽に言ってくれる。

「そうですね」

 平気な顔で私も答える。そうしないとばれてしまうから。この辺は年季入っているから、なれたもの。疑問すら気づかせない。

「じゃ、先生。さようなら」

「頑張ってね」

 三積先生はにこやかに見送ってくれた。



 私は頑張ることが出来ない・・・



 それから私は沈んでいたのだろう。気が付くと皆が優しく声をかけてくれていた。


「何かなつみが弱ってるところはじめてみたかも」


 と友達は笑った。確かに私は、気持ちを外に出すことを極力抑えていた。というよりもマイナスな気持ちを無視して自分の中でもなかったことにしていたのだ。そうじゃないと、期限付きの人生なんて生きられないと思ったから。なのに、なぜ私は今沈んだ気持ちを抱えているのだろう。そして、なぜ悪い気がしないのだろう。


 悩んでいる、迷っている自分は嫌いじゃない。


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