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恐怖の花を枯らせましょう

作者: ぬ~

『恐怖の花を咲かせましょう』の続編的な話です。ですので予めそちらをご覧の上、読み進めてください。

話をしようか。

いや、前と同じように怖い話にはならないと思う。


幽霊、って信じるか?

俺は、まぁ、どっちかと言うと肯定側かな。けど、あんなものは人間の認識しだいだと思うんだ。

前に話をしたときにも言ったけど、人間は簡単に恐怖を育ててしまう。

あれも結局、“認識”の次第で変わってくると思うんだ。

例えば、部屋に入る前。

その部屋の中に何かが“居る”と信じた場合、もうそこには何かが“居る”んだ。

解るかな?言ってること。

つまり、その人が“そう”だ、と信じてしまえば、違う事も“そう”にしか成らない、という事だ。

だから、ある人が部屋に入ったとき、そこに何かが“居る”と信じきってしまえば、他の人がどう思おうとその人にとってはその部屋に何かが“居る”事になるんだ。

ただの影が動いたように見えた。布団の皺が人の顔に見えた。そう思った時点で、それは“在る”モノになってしまう。

幾ら他の人間が“無い”と思おうが、それはその人にとっては関係ない。

それを踏まえた上で、

ここで一つ、話をしよう。

これは僕の友人と、その友人の話だ。

仮に僕の友人をAとして、Aの友人をBとしようか。

ある日Aは、Bに話をした。

Bは怖がりだったから、Aはそれをからかおうと思って、作り話をしたんだ。


『“あの世”と“この世”って知ってるよな?』

そうAが語り始めた時点で、Bの顔は少し引きつっていた。

それが楽しくて、Aは続ける。

『“あの世”ってのは“天国”と“地獄”に別れていて、“天国”は上、“地獄”は下にあると考えられてるんだ。知ってたか?』

AはBに尋ねたが、Bは顔を顰めるだけで答えなかった。

構わず、Aは続ける。

『だから、いいか?これから言う事を、“絶対にやっちゃいけないぞ”』と。

ただ怖い話をされると思っていたBは、まさかのAの忠告に少し驚いたような顔をした。

そして、『うん』と頷いて、Bの話に耳を傾けることにした。

『いいか?“地獄”っていうのは、天国と違って生きた人間を引きずりこもうとする亡者で一杯だ。だから、もしも仮に下に階がある場合、。そう考えてしまった時点で、そこから下の階は全て地獄への入り口になってしまう。その状態で下の階に降りていくと、地獄に魂を持っていかれてしまうんだ。それも、水場に近づいちゃあダメだ。水場には霊が集まりやすいからな。海とかで死者がでるのはそういう事からなのさ』

解るか?とAはBに言った。

Bは黙って首を横に振った。

Aの言っていることは、つまりこういう事だった。

Aが居る場所を2階だとする。その時、Aは2階の事を“この世”と認識してはいけない、という事だ。2階を“この世”としてしまうと、そこから下の階は全て“地獄”となってしまう。だから、下の階に降りていくと“地獄”に魂を取られる。という事らしい。

そんな馬鹿な、と普通の人は思うだろうが、怖がりのBはそうは思わなかった。

Aの話を真に受けたBは、『解った』と神妙な面持ちで頷いた。


AがBの死を聞いたのは、その話をした次の日の事だったよ。

Bは下の階の、トイレの入り口の手前で白目を剥いて死んでいたそうだ。

恐怖に歪んだ顔で死んでいたBを、ご家族の方が見つけたのさ。

どういう事かわかるかい?

BはAの言った話を本当の話だ、と信じて疑わなかった。

だから、あの嘘の話はBにとって“本当”の話になったのさ。

多分Bは、トイレに行きたかったんだろう。

夜、静かな夜。トイレは一階にしかない。さぁ、降りよう。

そう思ったとき、Aの話を思い出したんだろう。

『今居る場所を“この世”として認識してはダメなんだ』

その話を思い出した時点で、Bはもうその階を“この世”として認識してしまった。

前の話の通り、こういう場合人間はどんどん泥沼にはまっていってしまう。一度考えるとどんどんそればかり考えてしまう。

怖かったろう。が、降りないわけにはいかない。

Bは恐怖を堪えて下の階に、“地獄”に向かって降りていった。

そしてトイレの扉を開けようとドアノブを回して押すか押さないかの手前、

ふと、Aの話の続きを思いだしたんだろう。

『水場には霊が集まりやすい』

水場。

ミズバ。

その瞬間、Bの脳裏には色々な“恐怖”の花が咲いた事だろう。

そして、“見た”。

トイレの扉が開いた先。

そこに“無い”ものを“見た”んだ。

他の人にはなんでもない場所に、Bは確かに“何”かを“見た”んだ。


解るかい?

人は認識次第で“無い”ものを“在る”としてしまう。

だから恐怖というものに飲み込まれる。

だから、そう、簡単な事だ。

何も考え無い事。“それ”を“そう”と思わないこと。

それが恐怖の花を枯らせる方法だ。

それをちゃんと理解したうえで、咲きそうな花を、もしく咲いてしまった花を枯らせて行こう。

何も考えない。何も信じない。

それが一番、何も感じずに生きていく方法でしょう。

と、いう事で、楽しんで頂ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 突出したものはないけれど安定した面白さがありました。 他の話もぜひ読んでみたいです。
[一言] 思い込み はこの世の精神的な恐怖の根源的なモノだと思う。恐怖の対象となるソレを恐怖の対象として思い込んで、はじめてそれを恐れる。よく考えれば当たり前のことだけど、それを読み物としてストーリー…
[一言] 前作に続いて分かり易く共感を呼ぶ話だと思います。 とても納得できて良かったです。
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