第2話
ときどき視点が変わります。
今回はさっそく、江崎亮で。
宣言通り、|俺(亮)は追試四回目でやっと赤点を免れた。
さっき放課後終了の鐘が鳴ったところだ。…………六時を過ぎちまったぜ。泣いてなんかないぞ!
「斎藤道三とか義龍とか知らねーし! 戦国は織田信長と豊臣秀吉と前田利家で充分だろ!」
「前田利家を知っていたら徳川家康ぐらい出てくるだろう。何故三点しか取れない」
空野先生はさっさと俺がまき散らかした赤点の回答を片付けている。
「追試問題を作る俺も疲れたわ。さっさと帰れ帰れ」
「言われなくても帰りますっての。あ、そうだ」
亮は晶子の話を彼に尋ねた。
「マフィアが来てるってマジ?」
「俺に聞かれても知らん」
俺は、空野先生にまつわる七不思議を思い出した。たしか、先生は高校が設立した頃から存在するっつーもので。出生も生い立ちも不明、年齢でさえも不明。でも見た目は二十代後半に見える。
でも、地元の大人は全員、空野先生の教え子……なんだよなあ。
「そういや先生って、どこ出身?」
好奇心に負けて聞いてみると、彼は黙り込んだ。
「あー……あんまり触れてほしくなかったか?」
「そうじゃないんだが……よく分からん。物心が付いた時には拾われていた」
「何でこの学校の教師に来たんだよ?」
「知り合いに頼まれた。何でも……駄目だ、忘れた」
「…………その知り合いはこの町の人なのかよ?」
「いや、違う。……いつも屋敷で酒を飲んでおられる」
あの人に逆らうとロクなことがないからな、逆らわないのが一番だ。
そう言ってのけた空野先生が立ち上がったそのとき、不意に揺れが起きた。
声をあげる間もなく、揺れは収まる。
俺達は思わず、顔を見合わした。