第21話
二日前の、夜中。父さんと優子はもう二階に上がって眠っていたとき。
窓をしめようとしていた俺は、外から聞こえる声に、少しだけ、聞き耳をたててしまったんだよね。
間の悪いことに。
それで「塔」だの「結界」だのって言葉が聞こえてね。
「まあ、魔がさした、ってやつなんだろうね」
家から出て、鍵を閉めてついていったんだから。
でも、ついてった先で黒服と出くわして、彼らがウラの事を知らなくて、オモテでの犯罪もご法度だって知らなくて、いきなり発砲されたのはビビった。
慌てて逃げても追い掛けてきたし。
「そういや、晶子に報告しようと思ってたんだった。…………忘れてたよ」
「え、彰まさかフツーに今まで忘れてたの!?」
「忘れてた」
忘れてたような、言わなかったような。
だってさ、もし言ったら。
「彰っ!」
亮が気づいちゃうしね。
亮は泣きそうな顔で俺を見て、俺の手を握った。
「お前、その、頭を、」
「亮。ちょっと静かにね? 話したいことはまだあるから」
「でも!」
俺にしがみつく亮。
暁や晶子は、亮が「何か怪我してるんじゃないだろうな、彰!?」のつもりでしがみついてると思ってる。
詩呂と立夏は「またやってる」としか受け取らない。
淳は…………………………
「彰。もしかして君と亮って、どっかで繋がってたりする? 何て言うか…………何かあったら分かるくらいには」
「そんなわけ、」
「そうなんだぜ!」
やっぱり、気付かれた。そんな気がしたんだよね。
気付かないようにさりげなくしてたんだけどなあ。このせいでパーだよ。
「そうだったの!?」
「でも一ッ回もそういうこと言いませんでしたよね!?」
「確かに」
「そんなマジック、あるのか」
「マジックじゃねーよ! って空野先生、」
先生には、いろいろとお世話にもなったので話してある。
ので、今も先生はとても落ち着き払って俺達を見ていた。
「ああ。知っていた。お前達が一度死にかけてから、そうなったんだったな?」
「まあ、概ねはそんな感じです。えー……黙っててゴメン」
暁にデコピンされた。
ドゴン。
一瞬意識が飛んだ。
「ちょ、暁ヒドイって!」
「酷いのは君でしょう! 僕達にも話してくださいよ! 悔しいじゃありませんか」
「同感」
晶子がうんうんとうなずいている。立夏がそれで、と俺を見た。
「話を本題に戻すぞ。あとで殴らせろ」
そうそう。殴られるのは嫌だけど。
まだ、亮がさっき何て言ったのか、気づいてほしくないんだよね、俺。
切り札のなかの、切り札だから。
切り札って言っても、両刃の剣だけど。
「奴の会話と、その時にいた者と、黒服について話してくれ」
俺は、記憶を探る。
『主に言われた通りに、塔から出たぞ』
『うん。結界がちゃんと破られてるしね。そのお陰で俺達も直接ここに来れるし。大成功』
『他には何をすればいい?』
『ん? 何も』
『は?』
『何もしなくていいよ。自由気ままに暮らしていい。俺達と戦おうってんなら止めてほしいけど、それ以外ならお好きにどうぞ』
『自由って、何だ?』
『何でも好きな事をしてもいいってこと』
『好きな事って、何だ』
『ああ、なるほど。……好きな事ってのはね。人それぞれなんだけど………………何かがしたいって思うことはない?』
『………………………………………………。人』
『人?』
『脳に、時々、女性が笑っている姿が映る。名前は雛菊、着物を着ていて、黒髪黒目で、可愛いんだ。このひとに会いたい。会って、話がしたい』
うん。たしかこんな感じ。
そりゃ雛菊って名前に聞き覚えあるはずだよ。この頃ボケてきたのかもしれない。
話したら、立夏が呆れ顔になっている。
「お前…………あまりにも忘れ物が多くはないか?」
「あ、立夏もそう思う? 脳のトレーニングとかもした方がいいかな?」
「聞くな。…………しかし、お前の記憶のお陰で色々と繋がった。夜生光辰の話の相手、特徴は分かるか?」
「分かる分かる。青い髪に、金色の目だった」
「アタリだ」
淳が膝を叩いた。苦そうに笑っている。
「異界の者だ。名前はプレイフル=レイジ。軍師役みたいなやつだ」
「正真正銘、策士だな。また何か企んでいるのか………………まあいい」
立夏が首を回す。
そして雛菊さんを見て、気まずそうに目をそらした。
「夜生雛菊。お前の夫の死体を動かしているのは、夫の魂ではない。異界の者だ」
「は? よく分からないぞ」
「先ほど淳が説明しただろう? あの、アンデッドだ」
「もしかして、夜生光辰さんの魂はまだ塔のなかでさ迷っていて、体だけが別の魂を放り込まれてあちらこちらを動き回っている?」
俺が聞くと、立夏は満足そうに頷く。合っているみたいだ。
一方、雛菊さんは不愉快なのか眉をひそめた。
そりゃあ潜めると思うよ。旦那の死体が勝手に使われてるんだから。
「本当なのか?」
「予想だからまだ確信はないがな。異界の者になった輩は、身体能力がいくらか上がる。それに任せて塔を出たとも考えられるからな」
「いや、待て」
ここで制止を入れたのは空野先生だ。
「俺の恩人に、この町には異界の者は出現できないと聞いたが?」
「そうなんですか?」
「らしい。実際、見たことも無かったが」
「じゃあプレイフルはどうやってこの町に?」
「分からん。何かが起きたんだろうが………………」
「そもそも、どうしてこの町には出現できないんですか?」
「知らんことばかり聞くな」
膨れた空野先生は、そうだと空を仰ぐ。
「アンヌさんの所に行って、聞くか?」




