第17話
何が、と言いたい。
でも、淳の顔があまりに険しくて、口すら出せない。
「外から、微かだけど腐臭みたいな、嫌な臭いがする」
「光辰か?」
「幽霊に肉体はありません」
「じゃあ、」
「まさか。奴らか?」
立夏が、緊張した顔で、淳を見た。
「奴ら?」
「アンデッドみたいな奴らがね、存在するんだよ」
淳がピリピリと緊張しながら、窓に近付く。扉が開いて、竹刀を持った麻雲さんが入ってくる。
「私がやります」
「いや。向こうがどう出るのか、それが知りたい」
「ですが」
「大丈夫。もうすぐ空野先生も来るよ」
淳が、ほっと笑った。
「先生に気付いて逃げた」
「おい!」
外から聞こえた空野先生の声に、何故か力を抜いて座り込みたくなった。
「無事か? インターホンを鳴らさずに直行したが」
「ハイ。傷一つありません」
「そうか。中に入るぞ。それから、門のところで人間を一人拾った。琴花と名乗っているが、入れてもいいか?」
「どうぞ。すぐ左に正面玄関があります」
麻雲さんが玄関に二人を迎えに行く。
にしても、琴花さんだったわけか。隣で暁も目を丸くしている。
暁も知り合い多いからなあ。
「もしかして、あとから来るというのは……琴花のことだったんですか?」
「ああ。マフィアの事で聞きたくてね。奴は今、ちょうど良いことに西部管轄の親分衆だ」
「ラッキーなんだか、ラッキーじゃねぇんだか」
ぼやいた声に振り返り、相変わらずの彼に声をかけた。
「琴花さん。お久し振りです」
「お、彰!」
スーツ姿に金髪碧眼のイギリス人である琴花さん。本名はヴェネッサなんとか。
彼はウラの世界から離れられなくなった人間だ。元々、英国マフィアだったらしいし。
琴花さんは明るく笑って、手を挙げた。
「久し振りだなあ。何年振りだ?」
「四年です」
「案外経ってなかったか。おいカラノ、ありがとうよ」
「ああ」
空野先生は琴花さんに生返事を返しながら、雛菊さんにぎこちなく微笑んだ。
「お久しぶりです。雛菊さん」
「やはり想馬か! 相変わらず長生きだな!」
「ええ、お蔭様で」
「何だそれは、皮肉か?」
「本音八割皮肉二割と考えて頂ければ」
「む…………まあいい」
先生に抱き着いた雛菊さん。それを見て暁と亮がこそこそと話す。
「なあ、アレじゃね?」
「亮もそう思いますか?」
「当たり前だ、ホラ…………」
二人が声をそろえて言う。
「「愛人」」
「阿呆が」
二人の頭にたんこふが乗った。