第16話
訳が分からず首を傾げる俺をよそに、雛菊さんが顔色を変えて立ち上がる。
浦和君に詰め寄った。
「こいつに瓜二つで、着物をきた男が歩いていたのか!?」
「お、おう。幽霊みてぇにフラフラ歩いてたな。……もしかして別人?」
「別人別人。俺昨日の夜は一歩も外出てないよ。ちなみにどんな着物?」
「青っぽくて、うす汚れてた」
「そっか。ありがとう」
「おー。じゃな!」
浦和君が出ていく。
立夏が、口を開いた。
「…………案外早く、所在が知れたな」
「でもさ、幽霊ってこんなに視えるものなの?」
「いえ」
淳の質問に答えたのは、やっぱり暁だ。
「元々、人間には、幽霊が視える者と視えない者がいます。そもそも幽霊は物に触れられません」
「らしいな。そのあたり、意識だけ蘇らせた私にはよく分からんが」
雛菊さんが言うには。
あの世にはエライ人がいて、その人に意識だけ蘇らせてもらい、この世にいる知り合いに、泥と土で人形を作ってもらい、それに入っているとのこと。
それでさっき、淳が土臭いって言っていたのか。
その知り合いって何者なんだよ、と思いつつも、立夏の言葉に耳を傾ける。
「傀儡を作る手法に似ているな。それで? 浦和が夜生光辰とやらを視えたのは、浦和が視える質なのか、夜生光辰が何かをしているのか、どちらだ?」
「光辰にそんな技術はない。から、単にあの青年が視えるだけだろう」
「浦和君って視えない人だと思ってましたけど…………そもそも、死者が視えるだの実体を持つだのが有り得るなんて、知りませんでしたからね」
「そうか」
立夏が、何事か考えている。そして、何かを考えていた淳が、口を開いた。
「夜生光辰さんがどこで死んだか、知ってる?」
「塔で。あと数時間したら、牢から出してもらえるはずだったのに」
「そっか。ねえ、みんな」
塔での地震。空野先生が言っていた、地盤沈下だろうか。
淳が、笑みを見せた。
「考えてもみてよ。何で、塔に居たはずの光辰さんがこの町にいるのさ?」
「どうやって、塔から出たんだ?」
「そう。それに…………」
淳が、忌ま忌ましいのか、眉を潜めた。
「あの塔から、酷い臭いがするんだ。腐臭だよ、人間の」
「取り出せなくて、僕の祖先が供養のためにお経を唱えたと聞きました」
「ならどうして、夜生光辰は成仏していない?」
「光辰は身体が丈夫なんだ。下手をすれば、想…………知り合いよりも。再生はしないが。だから、経を唱えられたときには、光辰はまだ生きていたのかもしれない、」
話を聞いていて、俺は思わず、雛菊さんの口を押さえた。
「…………涙を溜めるくらい辛いのに、無理してまで話さなくてもいいですよ」
「……………………そう、なのか?」
「ええ。俺達で考えますから。空野先生はご存知ですよね?」
「想馬を知っているのか!?」
「俺達、先生の教え子なんです。空野先生に連絡をとって、来てもらいます」
俺が言う横で、亮が携帯で先生の番号に電話をかけている。
「空野先生? 詩呂ん家までちょっと来てくんねーかな?」
「亮、いけた?」
「おう。結局、フルボッコにして警察に突き出したらしーぜ。事情も全部話して、ナイフも提出して」
「うーん。…………さすが空野先生」
雛菊さんを、ソファーに座らせる。
「お疲れ様でした。今は休んでいてください。……ね、塔の谷って、跳躍で飛び越えられるほど狭かったっけ?」
「いや。もし飛べるなら…………人間離れしているぞ。夜生雛菊、夜生光辰は人間だったのか?」
「人間、だった。ただ、昔に変なものを飲み込んだことならある」
「何を飲み込んだんですか?」
「悪魔の石」
「「「あくまのいし?」」」
なんじゃそら、と亮が身を乗り出す。
でも、雛菊さんもよくは知らないらしい。
「私の父上が持っていたものだ。それを家臣であった男に奪われて、取り戻すさいに間違って飲み込んだらしい」
「飲み込んじゃったんだ!?」
「なんかヤバそうだけどよ、遺伝とかしてねーよな!?」
「してると思うぞ?」
「してんのかよ!!」
そのとき。
淳が静かに手を突き出した。
「静かに。そとに居る」




