第14話
おっさんの変な話し方は、殴られて歯が何本か逝ったからだと思う。
「雛菊? お前達、雛菊さんを知っているのか?」
「詩呂が、そういう名前の女性を拾ったんです」
「そうか。上条」
「何でしょう」
「雛菊さんとは、古い知り合いだ。今日はこいつらをどこかに埋める必要があるから無理だが……機会があれば会いたい。別の日に、お前の家を訪ねるぞ」
「分かりました」
埋めるというワードをさりげなく使った空野先生。それを華麗に無視した詩呂。
うーん。物騒だなあ。
先生は手をあげてから、黒服の襟首を掴んだり背負ったりして、十一人全員を捕獲すると、道を歩いていった。
「手伝いましょうか?」
「いらん」
イヤ、空野先生って凄いね本当に。
詩呂はそれを見送って、じゃ、と足を進めた。
「家に行くか」
門をくぐり、しばらく両端に刈られた芝生が並ぶ道を歩く。
やがて、煉瓦でてきた、ドでかいお屋敷が見えてきた。詩呂のお家だ。
「失礼しまーす」
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
詩呂が扉を開けると、若い男性が頭を下げていた。上条家の執事、麻雲さんだ。凄い美形な上に長身。
詩呂は麻雲さんに鞄を預けて、奥に見える階段に向かう。
「ああ。麻雲、みんなを応接間に通しておいてくれ。雛菊さんを連れて降りてくる」
「畏まりました。皆様、鞄をどうぞ」
「ありがとうございます」
ソツなく鞄を持った麻雲さんがカッコイイ。男である俺でもそう思う。美形は何してもキレイってやつだろうね。
麻雲さんは鞄を抱えたまま、応接間に案内して下さった。
広い部屋で、隅に高そうなモノがガラスケースに入れられて置いてある。船とか仮面とか巻物とか、その他モロモロ。
あっちには近寄らないと心に決めた。こっちはソファーに座るだけでもおっかなびっくりなんだからね!
鞄をどこかに置いた麻雲さんは、いつの間にかお茶の入った湯呑みをお盆に乗せて、俺達に配っている。
三人分余った。麻雲さんはそれをテーブルに置いて、扉のそばに立った。飲まないのかな?
淳が鼻を抑え、眉を潜めている。
「土臭い」
扉が開いた。
「ごめん、遅くなった。くつろいでいるか?」
「詩呂」
「わりーけど、全くダメ」
詩呂が女性を引っ張って入ってくる。女性は俯いているせいで、顔が分からない。
でも、緊張しきりで全くくつろいでいないのは本当だ。亮なんて珍しく静かだったし。晶子は辺りを見回してばかりいる。暁もだ。淳は冷や汗をかいたまま微動だにしない。カチンコチンに固まっている。
ただ、この中でも立夏は肝が据わっているというのか、豪胆だった。
「詩呂、そいつが雛菊か?」
「そうだ」
呼ばれて、雛菊さんが顔をあげる。
その顔を見て、思わず叫んでしまった。
「優子!?」「優子さん!?」
「あれ?」「なんでよ?」
高い鼻。くっきりした顔立ち。大きい目。長いまつげ。
俺の妹、優子にそっくりだった。