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とある少年達の日常  作者: 蝶佐崎
第一章:4月
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第13話



「っ、」


 息を吸い、鋭く息を吐くと同時に地面を蹴り、跳躍する。あっという間に黒服達の前に立っていた淳は、慌ててナイフを構えた彼らに怖じけづくことなく、体をそちらに向かわせた。

 一人目の肩を打つ。二人目の足をひっかける。三人目が後ろから殴りかかってきたので枝を宙に投げ腕を持ち一本背負いを決める。

 四人でまとまって襲い掛かってきた。

 四対一、しかも相手は全員ガタイの良いおっさんなんて危なすぎる。


「淳!」


 声を出すと、立夏が安心しろ、と俺を止めた。


「奴はこいつらなど楽に倒す」

「立夏の言う通り」


 静かに言った彼女は落下してきた枝をとり、構えることもなく向かってきた四人を見る。

 囲まれた淳は何かを考えていた。


「ねえ暁」


 聞かれた暁がはい、と言葉を返した瞬間に四人が動く。

 同時に四方向から振り下ろされたナイフを跳ぶことで避け、そのナイフの上に立つ。

 なんて軽いんだろう。


「ここってまだオモテだよね。人を傷つけちゃダメかな」

「駄目ですね」

「あー………………」


 淳は面倒なのか、嫌そうに首を曲げた。


「プチって()っちゃいそうで怖いんだけど」

「お前が手加減する所など、初めて見たな」

「当たり前。奴らに手加減したらこっちの命が危ないだろ」

「加勢しようか?」

「いや。…………すり傷ぐらいならいいよね?」


 淳はナイフの上から四人の頭を蹴った。

 降り、今だ立つ三人のもとに向かう。


「おい」


 びくり、と三人が肩を揺らした。淳は苦笑を漏らしたけど、


「なにボーッと突っ立ってるんだ!? ああ!?」


 地獄から這いのぼったような声で言い放つ。

 腹を打つ。蹴りで吹き飛ばす。最後、拳で相手の鳩尾を殴った。

 これで立っているのは、俺達とあの中国人のおっさんだけになった。

 が、淳は彼まで気絶させる気は無いらしい。


「ヨイショ」


 枝を捨ててその場に座った淳は、まだ事態を把握できていないおっさんに笑いかけた。


「ねえおじさん。その、雛菊を知っている人のコトを教えてはくれないかな?」

「あ、」


 おっさんの顔が青ざめた。

 がたがたと震え出し、淳から少しでも離れようと後ずさる。


「な、なぜ、」

「君達がそんなに強くなかった。それだけだ。さ、答えて」

「ひ、」


 腰が抜けたのか、おっさんは座り込む。それでも淳から離れようと手と足をばたつかせ、


「おい」


 いつの間にか彼の目の前に立っていた淳に頭をつかまれた。


「さっさと答えろよ」


 誰も、声を出せない。

 淳の醸し出す、ゾッとした雰囲気に。

 そのとき、立夏が溜め息をつきながら歩き出した。


「脅すな」

「何で?」

「言葉を話せないほど、萎縮しているだろう」


 淳は落ち着いた顔で、立夏を観る。立夏は平静を装っているが、三年の付き合いからして、かなり緊張していることがわかる。

 彼女とは知り合いのようだったけど、あまり親しくもなかったのかな?

 風が吹く。

 やがて、淳は肩をすくめて頷いた。


「わかったよ」

「悪いな」

「いや? 代わりに、君に全部任せるから」


 立夏が嫌そうに顔を歪めた。はっきりとめんどくさいと書いてある。

 けど、諦めたらしい立夏は座り込んだままのおっさんに歩み寄る。

 が、


「く、来るなっ!」


 懐から出した銃を向けられ、静止した。

 おっさんはまだガタガタと震えている。

 亮がおい、と呻いた。


「やばいんじゃねーの」

「確かにやばいな」

「立夏。軽口叩いてる隙など無いぞ? 早くしないと、」

「ああ。だからやばい(・・・)と表現した」


 詩呂に言葉を返した立夏が、おっさんに笑みを向けた。


「あんたの身体の無事がな」

「…………?」


 理解できなかったらしい。亮と晶子も首を傾げている。

 けど、俺は理解した。

 してしまった。

 考えてみれば、おかしかったんだ。

 あの人が、生徒が危機に晒されているのに助けに来ないなんて、有り得ないんだ。

 笑い声が響く。

 淳が、腹を抱えていた。


「タイムリミット、だよ。残念賞」


 立夏が頭を押さえた。


可哀相に(・・・・)。今どの辺りにおられる?」

「四キロ。三千五百メートル。三キロ。二千五百メートル」


 あれ。

 五百メートルごとに飛んでないか?


「てか淳、怪我はない?」

「ないよ。あと五百メートル。あとゼロメートル」


 ズン!

 土煙が立ち上る。

 馴染みのシルエットが、砂に隠れたおっさんのそばに立っていた。


「こいつは?」

「マフィアです」

「ナイフを持っていたようだが……そばに転がる者共はお前達が倒したのか?」

「始追淳が」

「始追、怪我は無いか?」

「ありません」

「ならいい。岸」


 彼は、いや。

 空野先生は、容赦なくおっさんの髪を掴み上げて、おっさんに同情の眼差しを向ける立夏に尋ねた。


「こいつが、主格だな?」

「少なくとも、今回においてはそうです」

「そうか。中平、お前のお父上と連絡はつくか?」

「はい。でも、警察にしょっぴいた方が楽でしょう?」

「暴行の後が残っていたら根掘り葉掘り聞かれるだろうが」


 犯罪者かと思うような事をさらりと言った先生は晶子に電話を促し、おっさんを至近距離から殴り飛ばした。

 亮が震えている。


「いてーぞ、アレは」


 やられたことがあるらしい。

 詩呂も残念そうな顔でおっさんを見ている。

 どうなるかは分からないが、少なくとも俺達が大人しく警察に引き渡すよりは残酷なことになると分かっている。

 思わず、俺も合唱した。

 おっさんが、わめく。


「お、お()は、|ただひはひくのほとをききたはっただへへ(ただひなぎくのことをききたかっただけで)」


 ピタリと、殴り掛かる拳の形のまま、先生が身体の動きを止めた。


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