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とある少年達の日常  作者: 蝶佐崎
第一章:4月
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第12話


 学校の帰り道。

 淳はトランプ研究会に入部してくれた。なんでもあのダルさがいいらしい。


「時々、部員じゃない子も混ざってやってるんだよ」

「誰でもウェルカム」

「いーねーそういうの大好き」


 入部届けは明日、先生に出すとして。

 今これから、俺達は詩呂の家にいる「雛菊」さんに会いに行くことになった。

 というのも、


「雛菊どのだが、何故か名前しか明かしてくれない。あとは、人を探しているとしか。済まないとは思うが……私も祖父に養ってもらっている身だ。いつまでも身許不明の者を家に住まわせるわけにはいかない」

「だから、俺達も呼んで何か情報をしぼりだせないかって?」

「ああ。……女人にそのようなことはしたくないのだがな」


 まあ、そんなこんなで、詩呂の家に向かおうと思っていたところだった。

 詩呂の家は、ご両親がいない。ある日旅行に行ったきり、帰ってこなかったそうだ。そのせいで彼女も一時期グレたようなものなんだけど。

 で、今は父方のお祖父さんお祖母さんが面倒を見てくれているらしい。

 学校を出て、詩呂の家の方に足を向けたそのとき。


「あのー」

「はい?」


 呼びかけられてそちらを向いて、黒い服のおっさんを確認した。

 淳を見ると、無表情だ。

 昨日の奴らかもしれない。

 詩呂も淳の様子に気付いたらしく、少し重心を傾けて臨戦態勢になった。


「何かご用でも?」

「いえ!」


 慌てるおっさん。日本語が達者だけど、中国人の顔立ちだ。

 さらに、詩呂の気配がガラリと変わっている。

 この気配は懐かしい。

 グレていたころの気配だ。

 詩呂がそういう気配を醸し出す相手は、今ではウラの人間しかいない。

 つまり相手は、中国やくざ(チャイニーズマフィア)と考えていいのかもしれない。


「ただね、あなたがたが雛菊、とおっしゃっていたので呼び止めただけなのですよ」

「雛菊を知っていらっしゃる? また、何故?」

「私の知り合いに、その方を探している者がおりまして」


 探している。

 「雛菊」さんはウラの人間なのだろうか。


中国人(チャイニーズ)さん」


 じっと黙っていた暁が、口を開いた。


「あなた、どこの組の者です?」

「組、ですか…………失礼ながら、そういったものを言うのはあまり 」

「では、どの親分衆の管轄に? それも言いたくなければ……ウラのどの辺りに拠点をお持ちの方々ですか?」


 暁は、寺の子供だ。

 お寺は、オモテとウラの境に建っている。そのせいか、ウラからも供養の仕事が回ってくる。暁も、寺の手伝いに出ることがある。

 その過程で、知ったらしい。

 おっさんは、冷や汗をかきながら、そうですねえと言った。


「親分衆の管轄には入っていません。ウラというのが、白い線で引かれた向こう側なのであれば…………我々は白い線のすぐそばに居ますよ」

「………………そうですか」


 暁は、やさしく笑った。何だか怖い。


「昨夜、雛菊さんと名乗る女性を夢に見まして。その話をしていただけのことです」

「そうですか。……いや、失礼しました。それでは」


 おっさんは去っていった。

 詩呂が歩きだしながら暁を呼ぶ。


「何故、嘘をついたんだ?」

「だってさっきの人達、晶子の言ってた『逃げてきたばかりの危ないマフィア』なんですもん。そんな人達に渡すなんて危ないでしょう」

「何でそいつらだってわかったんだよ?」

「ウラは、一人の頭を持つ四人の親分が地域ごとに取り仕切っています。管轄に入っていないのは、まだ来たばかりの彼らだけ。あとは、そうですね…………………………ウラの人間はね、絶対オモテ(こちら)ではウラの話をしないんですよ」


 へえー、と晶子が目を丸くしている。

 淳は何故か黙り込んだままだ。立夏は考え込んでいる。

 歩きながら、さっきの件について話した。


「マフィアか…………もう(チャカ)刃物(ドス)も持たないと決めたからな。ウラにはもう入らない」

「マフィアはまだ、オモテで犯罪を犯しちゃいけないって知らないかもしれないわ。危なくなったら、家族と雛菊さんを連れてウチに来なさい。警察すぐに動員できるから」

「ありがとう、晶子。だが、一番近い警察に逃げ込むよ」

「…………その方がいいわね」

「さすが署長の娘、と言ってもいいか?」

「どうぞ」

「さすがしょちょーのむすめぇー」

「亮、あんたふざけてるの?」

「かなり」


 晶子が亮を殴った。

 それを無視した立夏が、口を開く。


「………………おい」

「立夏、どうしたの?」

「尾行されている」


 最後の言葉だけ、隣にいた俺にささやいた。思わず立ち止まりかけて、立夏に肩を掴まれ、押される。


「歩き続けろ」

「どうしたんだよ?」


 亮に聞かれて、同じ内容をささやく。亮はつるんでいた晶子にささやき、晶子は詩呂にささやき、詩呂は暁にささやいた。淳は立夏にささやかれている。

 淳は驚いていない。


「………………公園に行かねーか?」

「いいわね。のども渇いたし」


 公園に逃げ込む。淳が深く息を吐いた。


「……黒服のせいでこの公園に来てばっかなんだけど」

「災難だね」

「何かあったのか!?」

「昨日、彼らにピンクの世界に連れていかれそうになってさ、ここで撃退した」


 立夏のまわりにどす黒いオーラが渦巻く。

 ブツブツ言ってるけど怖いので話しかけないふれない。

 淳は空を見上げて、目を閉じた。


「十人」

「は?」

「十人、さっきの奴と一緒にこっちに向かってる」


 言われて、思わずまわりを見回したけど、誰もいない。

 淳は目を閉じたままだ。


「生れつき、五感が鋭いんだ。目で見えるほどには近づいてないから、耳で足音を聞いてる」

「足音…………他にも人間なんていっぱいいるわよ?」

「一度会った人間の容姿、匂い、足音、気配なら忘れない」


 静かにそう言い切った淳が来た、と目を開ける。彼女は太い枝をひとつ拾い、左手に持つ。

 淳の視線の先に、ナイフを持つ黒服の男達がさっきのおっさんも合わせて十一人、立っていた。


「酷いなあ。

嘘をついてたんじゃないか」


 おっさんの声と共に、黒服がナイフをちらつかせる。

 いや、ちらつかせようとしていた。

 淳が行動を起こすまでは。


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