第8話
「ねぇねぇ始追さんって、どこの生まれ?」
「知らない。両親は旅の空で俺の事産んだって聞いたし」
「旅行?」
「違う違う。駆け落ち」
「「駆け落ち!?」」
「うん」
淳の席は俺の隣に決まった。で、彼女を取り囲んでクラスメートが質問している。
「前はどこの中学校?」
「ド田舎」
「何県?」
「えー? けっこう色んな県を転々としたよ?」
「その割に訛りは無いね?」
「うん。母さんがこの口調だったから」
「お母さんはどこの人だったの?」
「知らない。教えてくれなかったんだ」
聞いていて、思った。
淳は、具体的な場所は何一つ答えていない。
それと。
「ねえ淳」
「彰? 呼んだ?」
「『教えてくれなかった』………………何で過去形?」
ずばり聞くと、クラスメートから息を呑む音がする。
対して淳は苦笑していた。
「母さん、病気にかかっちゃってさ。病院に送られたんだ。…………かれこれ数年は会ってない」
「そう。お大事にね。手紙とか書いてあげるんだよ」
本当に、親とは連絡をとるべきだったと思っている。
淳は少し目を見開いてから、笑った。
「ありがとう。…………そういえばさ、彰、部活の案内してくれない?」
「いいけど…………今日は俺も部活あるから、始めだけ寄らせてくれないかな?」
「全然いいよ。むしろ、お願いしてんの俺の方だし。何て部活?」
「トランプ研究会」
俺達は「トランプ研究会」という名前の部活に属している。トランプに関するありとあらゆることを研究するために活動している。
今までに、トランプの歴史を調べたり、ゲームの種類を調べたり、毎日スピードを練習していれば一週間で何秒早くなるか、なんてくだらないこともやった。
活動は火曜日と木曜日。ちなみに今日は火曜日だ。
部員は俺、亮、晶子、暁、詩呂ともう一人。また会ったときに説明する。
「略してトラ研」
「虎拳………………」
ちょっと違う気もするけど、まあいいか。
そう思っていると、他のクラスメートも騒ぎはじめた。
「いやいや、うちの馬術部も見てよ!」「郷土研究会ここにあり!」「手芸部も!」「文芸同好会!」
「皆落ち着いて。今日活動してる部活全部回るから」
淳の後ろに後光が差した気がした。
でも、お母さんに何かあるらしい。
とっさに話を変えられた。それも、さりげなく。
まぁ、いいか。