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#8 なんで謁見の間が和室なんだよっ!

「なんで和室なんだよっ!」


 謁見の間に通されたレンタロウが叫ぶ。

 低めに発したその声は、ムダに広い空間に消えていった。


「よく来てくれた。長旅ご苦労であった」


 レンタロウに労いの言葉をかけたのは、“玉座っぽい座椅子”に鎮座したハミデール国王だ。


 赤いカボチャのようなボリューミーな王冠が残念さを醸し出す。

 グリンと上にカールしたヒゲを蓄えた面長の顔。

 国王が(しゃ)に構えると、トランプのカードの絵そのもの。


 キングかよ! いや、キングか……。

 ハミデール国王を見たレンタロウの率直な感想だった。


 いや、ちょっと待てよ。

 僕が誤召喚されたのって、国王が原因じゃなかったっけ?

 酔った勢いで作曲家の龍廉太郎を呼べとか、女神に命令したのって、ハミデール国王じゃん……。


 鶯色の壁に囲まれた和風テイストの謁見の間は、なんとかドーム3個ぶんの広さがある。

 レンタロウがくぐり抜けてきた大きな扉が霞んでみえる。

 スーパー銭湯の宴会場にでも来たのかという錯覚に陥ってしまう。


 広い空間にポツンと佇む、点と点。

 少年とおじさんとの間で、沈黙という名の会話が繰り広げられている。


「あの大きな穴は一体なんです?」


 レンタロウは、細めた目を天井に向ける。

 その距離、60メートル。

 見上げた首が、へし折れそうだ。


「ワシと愛娘の共同作業と言っても良いかもしれん」

「どういうことです?」

「そなたは、“たかいたかい”を知っているかな?」

「ちびっ子の両わきを支えて、高く持ち上げてやる遊びのことですか?」

「高すぎたらしい。娘を天井にぶつけてしまったというワケでな。美しい肌にキズひとつ付かなかったところをみると、さすがワシの娘といったところか」


 幼いころの王女を60メートル上空にブン投げたという国王が、頑丈な娘自慢をしてくる。


 レンタロウは、再び天井を見上げる。

 何度確認しても見事な大穴だ。

 というより、人の形をしたミゾか。

 王女がどれだけの衝撃でぶつかったか、容易に想像できる。


「ウワサをすれば、娘が来たようだ」


 破顔したハミデール国王が、遠く離れた扉を見据える。


「とぅっとぅ、とぅるぅ~ん!」


 豪奢な扉が開くと同時、少女の透き通るような声が飛んでくる。


 “おほほ笑い”をしながら、少女が畳の上を進んでくる。座椅子ごと。

 座椅子は、王族パワーで動くらしい。

 排ガスもない。

 魔力消費も一切ない。

 かなりエコな乗り物っぽい。


「って、おい! どこ行くんだよ!」


 つっこみを入れたレンタロウの横を、とぅるんっと少女が通り過ぎていった。


 やはり王族。座椅子にはブレーキがなかった。

 高そうなひじ掛けは装備されているのに。


 少女を搭載した座椅子は、100メートル先の壁面に激突する。

 大股を広げてすっころんだ少女は、れっきとしたハミデール王国の第一王女である。


「街で見かけた、フィーバーしたパチンコ台少女か……」


 レンタロウは嘆息まじりで、思いついた言葉を口にした。

 サプライズ的に登場した王女の姿を、レンタロウはジットリとした目で眺めている。


「自己紹介をしてなかったわね。わたしは『アンネローゼ・ドコミテンダー・ボディスポンジ」

「スポンジ? 硬め? やわらかめ?」

「わたしの名前を最後までお聞きなさい……続きから言うわね……スコティッシュフォールド・ショートヘアー」

「まだあるのかよ……なまえ長いね……で、なんて呼べばいいの?」

「“民クソ”からは『ドコミ』って呼ばれてるわ!」


 おい、民草たみくそに謝れ!


 レンタロウに背をむけ、王女はだれもいない空間に話しかけていた。


 どこ見てんだよ、この王女。

 ああ、だから『ドコミ』なのか……。

 なまえが長すぎる。いっそのこと、『寿限未ジュゲミ』とかでいいんじゃないかね……。


 愛娘(ドコミ王女)に触発されたのか、ハミデール国王が動き出した。

 リクライニング機能つきの座椅子に正座したままで移動する。

 赤い絨毯の張り付いた10段ある階段を、ガッタンゴットンと下りてくる。


「来てもらったのは、ほかでもない。アホ女神が誤って召喚したレンタロウ。そなたに頼みたいことがあってな」


 地面に到達した国王が、巨大な宝石がくっついた杖で畳をコンと突く。

 ガッツリと畳にぶっ刺さった杖が抜けなくなっている。


「あれま……抜けないね……」


 諦めた様子の国王は、杖を深く押しこんだ。


 長めのジョイスティックかよ、と思いながら、


「謹んで辞退します!」


 レンタロウは、秒でお断りをいれる。


 王族からの頼みごとなど、ロクなことがないと思ったからだ。

 いや、誤召喚の元凶からの依頼など、拒否して当然だ。


「報酬は、これでどうかな、ユルドルで」


 ハミデール国王が、レンタロウに向かって5本+1の指を立ててみせる。

 金額を口に出さないのは演出だろうか。

 受け取る側によっては、解釈が分かれそうだ。


「国王がサングラスの魔法使いを召喚するアレですか?」

「500万1ユルドルという意味だ」

「はい、よろこんで!」


 ハミデール王国の通貨単位は『ユルドル』。

 ゆるい米ドルということらしい。


 レンタロウは光速で国王からの依頼を承諾する。

 彼の表情に迷いはない。

 500万ユルドルで、国民的な駄菓子(ゆるい棒)が5億本ほど買えるからだ。

 ゆるい棒は、食物繊維たっぷりの菓子。

 1本でお腹を壊すという、ダイエットにぴったりの逸品だ。


 棒でジャングルジムでも作ろうか……。

 何味がいいんだろう……。


 いまになって少しイヤな予感がこみ上げてきた。

 ムチャ振りだったら断ればいいか……。


 レンタロウの様子をうかがっていた国王が口を開いた。


「そなたは追放!」


 王からの依頼は、レンタロウが国を出ていくことだったらしい。

 罪状は、王族への暴行(殺人未遂)。

 本来なら極刑だが、国外追放で済んだらしい。

 王妃(ズル女)、王女がフォローしてくれたと、国王が付け加えた。


 帰り際、明細書を渡された。


    ~ 明細書(月刊 女神通信 増刊号) ~


 ◆プロローグ

 レンタロウさん、お久しぶりです!

 女神でーす!

 法務と経理も担当してます。

 王様ったら、女神使いが荒いんですよ……。


 明細書を発行したんで、ご査収くださいな。


 ◆明細


 誤召喚の賠償金(慰謝料):1ユルドル


 人命救助(王女の救出):500万ユルドル


 計:500万1ユルドル


 追伸(PS1)

  女神通信は月イチでお知らせ。毎月1日発行で~す!

  次回(特集号)は、レンタロウさんと、カタクリ子ちゃんのステータスを教えます!


 追伸(PS2)

  お支払方法:指を鳴らしてください。その場でお支払いします。


 追伸(PS3)

  支給品:鈍器のようなもの300です。


 追伸(PS4)

  えっと……。


 レンタロウは、明細書を丸めて投げ捨てた。


 オカネをどうやって持って帰ろうかと悩みつつ、指示どおり、指を鳴らしてみる。


 謁見の間の天井(地上60メートル)から、500万1ユルドルが落ちてきた……。


 遅れて、鈍器のようなものが、これでれもかと舞い落ちる。

 数は300本。


「要らねぇ……」


 数秒後。

 空気嫁のカタクリ子DXが落ちてきた。


 レンタロウが天井を見上げる。

 薄ら笑いで手を振っている修道女のエルネスタが居た……。


「カタクリ子さん……畳に刺さってるじゃん……。いいや、帰ろう」



 ~ 後日談 ~


 抜けなくなった空気嫁(カタクリ子DX)がある謁見の間は、ちょっとした観光名所になったらしい。


 伝説の空気嫁を引っこ抜いた勇者には、300万ユルドルがもらえるというイベントが開催された。


 ことの始まりは、国王の「すんげぇ邪魔だから、どかして!」という一言だった。


 空気嫁は誰にも引っこ抜けず、イベントは閉幕したようだ。


 数日後、レンタロウの召喚により、空気嫁があっさりとスッポ抜けたのはいうまでもない。


 伝説の空気嫁を引っこ抜いた勇者&出禁を食らった不敬な輩として、レンタロウの名は後世まで語り継がれるのだった。


 報奨金の300万ユルドルは、レンタロウの定期預金口座に振り込まれた。


 300万ユルドル報奨金に所得税を引かれていたことに、レンタロウがぶち切れたのは、ここだけの話である。


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