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#6 ゴブリンとの死闘っぽいなにか

 修道女のエルネスタいわく、街はダンジョンを抜けた先にあるそうだ。


 レンタロウはエルネスタと一緒にダンジョンを探索していた。


 見るからに怪しいキノコなどを拾いつつ奥へと進む。


 やがて、岩だらけの広い空間が顔を出した。


 中はすこしひんやりしている。

 寒さに耐えかねたエルネスタが、持参したケバケバのセーターを着こむ。

 セーターは、異世界ニッポンから飛んできたものらしい。


「あれはなんですの?」


 道中に拾った毒々しいキノコを齧りながら、エルネスタが指をさした。


 3体の何かが、レンタロウらの様子を窺っている。


 尖った耳に鷲鼻(わしっぱな)

 ボロボロの腰巻を装着した濃い緑色の体。

 ゴブリンだ。


 30メートルくらい離れているが、視力が良いレンタロウには、ハッキリと見えている。


 一方のエルネスタは、クシャミ寸前のような顔をして目を細めていた。

 顔面にシワを寄せ、おじいちゃんのタマ袋について、おばあちゃんの知恵袋に質問する、ウメ干しを食べたパグのような表情__要するに、よくわからない面相だ。

 キレイ系の顔立ちなのに非常に勿体ないと、レンタロウは思う。


 ホワイトゴブリン族のボブ子が言っていた『緑のゴブリン(ホワイトゴブリンの下位種)』らしい。


「キター! 異世界ふしぎ発見!」


 ようやくモンスターらしきヤツに遭遇した。

 これぞ異世界生活なんだと、レンタロウは実感する。


「喜んでいる場合ではなくてよ? あいつら、私たちを通さない気ですわ!」


 またバトルか……。

 向こう側に見える出口らしき穴の前に立ちふさがるゴブリンども。

 一番背の高いゴブリンがバールのようなものを投げてきた。

 どいつもこいつも、とりあえず投げやがって。


 バールっぽい武器の投擲(とうてき)が攻撃開始の合図だったようだ。

 大小さまざまな3匹のゴブリンが、レンタロウに向けて小石をぶん投げてくる。

 プチプチ当たる石は小さいが、地味に痛い。

 よく見ると石ではない。BB弾だ。


「プラスチック製じゃねえか! 環境にやさしいBB弾に変更しろ。土に還るヤツにしろ!」

「レンタロウは何言っているのかしら? さっさとやっつけましょう」


 レンタロウは飛んできたBB弾を1発だけ拾う。

 少し離れたゴブリンに投げ返してみる。


 ゴブリンらも同じことをしてきた。


「エルネスタ、それを回収して投げ返せ! 全力で返品しろ!」

「了解ですわっ!」


 気が付けばゴブリンたちとの距離は、10メートルにまで縮んでいた。

 モノをぶん投げても届かない距離ではない。

 レンタロウは、地面に転がるBB弾を30発ほど回収し、まとめてゴブリンに投げ返す。


 数発だったBB弾が、数千発にまで膨れ上がった。

 右へ左へ飛び交う大量のBB弾。

 レンタロウとエルネスタは、むきになって投げ返す。

 ゴブリンも当然に応戦する。


 なんだか、ターン制の豆まき状態になっている。

 威力は低いけど数が多い。

 首から上に当たると結構イタイ……。


 レンタロウは、サバゲー用のゴーグルを装着して再び参戦する。


 飛んできたBB弾を回収しては投げ返すという行為を、レンタロウとエルネスタは、30分ほど繰り返した。


「ちょっとタイム!」


 レンタロウはゴブリンに向かって手をTの字にしてみせる。

 3匹のゴブリンはコソコソと相談すると、真ん中にいたゴブリンが白い歯を見せながら親指を立てた。


 なんだ。いいやつじゃないか。

 アホっぽいけど。


「おもしろいけどキリがない。そろそろ決着をつけよう」

「そうですわね。いっそのこと、弾に鎌を紛れ込ませて投げてみては?」

「いやいや。ゴブリン死んじゃうだろ」

「殺しちゃっていいですわ! 腰巻からワンパク小僧をポロリさせるなんて見苦しい! ゴブリンではありませんわ! ポロリンですわ!」


 エルネスタは、レンタロウを始末しそうな勢いでバールのようなものを振り回す。

 さらには、「ぎゃっふぁ~い!」とか言いながら、レンタロウの胸倉を掴み上下左右に大きく揺らしてくる。


「エルネスタ。声が大きいってば。ゴブリンが赤面してる……」


 エルネスタとゴブリンとの闘いは、すでに始まっていた。

 効果は絶大だったらしい。

 3匹のゴブリンが両手で顔を隠し、その場にしゃがみ込んでいる。


 恥ずかしいなら長ズボン穿けばいいのに……。

 やっぱり緑のゴブリンってアホなんだな。

 そんなことより、狂暴シスターが持っている武器的なものをなんとかしないと。


「バールのようなものを返して欲しいんだけど。一番持ってたらイカン人が手にしているのは恐怖なんで」

「いやですわ。ポロリンとレンタロウのとどめを刺すために私が持ってますわ!」

「ちょっと聞いて。僕はよそ者だから、この世界のゴブリンが悪いヤツなのかもわからない。だから殺せない。なんだか、あの3匹のゴブリンは悪いヤツには見えないんだよね。前に進めればいいんでしょ? 殺さずとも戦闘不能にすればいいだけの話っしょ? 緑のゴブリンってアホっぽいんだよね。僕に考えがある。ちょっと試させてよ」

「そこまで言うなら仕方ありませんわね。でも、ひと笑いさせてくれますわよね?」

「はい。がんばります……」

「そうですわ、レンタロウ。防御魔法をかけて差し上げますわ」


 あるならもっと早くにかけてよ……。

 大きなタメ息を吐くと、一抹の不安をいだきつつ、レンタロウはエルネスタのほうを向く。


「黒髪でやる気のなさそうなボンクラに、守護と昼食にはラーメンを……ラーメン」


 またもや、エルネスタは祈りに麺類を放り込んでくる。

 替え玉まで注文してきた。


 レンタロウは、エルネスタに借りたケバケバのセーターを持ってゴブリンどもの前に立つ。よく見ると、真ん中にいるゴブリンだけが5分刈りだった。


「ゴブ刈りだからゴブリンっていうの?」


 レンタロウの問いかけに、真ん中にいるゴブリンがポカンとした顔で首を横に振った。


「とりあえず横一列に並んで!」


 レンタロウはゴブリンを整列させてみたが、特に意味はない。

 3匹のゴブリンの腰巻に名札がついていることに気が付いた。


 どれどれ……。


 左から、(しょう)(しゅう)(りき)


 芳香剤かよっ!


 まあ、いいや……。

 さきほどから、しきりに体を掻いている小柄なゴブリンにケバケバ・セーターを着せてみる。


「アゴまで覆うタートルネックセーターの着心地はどう?」


 超短い丈のセーターを着用したゴブリンの顔から笑みがこぼれる。


「なんかね……首がチクチクするぅ!」


 ひとことだけ残し、1分と経たずに小柄なゴブリンが気を失った。

 レンタロウの思ったとおり、このゴブリンは敏感肌だったらしい。


「1匹目! いける!」


 倒れたゴブリンからケバケバ・セーターを脱がせ、次のターゲットに狙いを定める。

 ひとつ飛ばして、右にいるゴブリンに着せてみる。


 効果がない。

 脱がせたセーターをモミクシャにして、静電気(雷属性)を付加してグレードアップさせてみる。


「セーターを一度脱いで、また着てくれる? 胸元をゴシゴシしてみて」


 レンタロウは素早くゴブリンの背後に回る。

 着せて脱がせてを高速で繰り返す。


「お客様、よくお似合いですよ。着心地はいかがですか?」

「なんか、チクチクしてビリビリするぅ!」


 バチっと音がすると、ゴブリンがぶっ倒れた。


「2匹目!」


 後ろで見ているエルネスタの冷たい視線が背中に刺さって痛い。

 最後に残ったリーダーらしきゴブリンにも同じことを試みる。


「レディース・ブランド……だと? 甘い! 姉ちゃんのお古を散々着てきたこの俺に、そんな技が効くと思うてか? リボンがついた赤やピンクの服、ボタンが逆についたヒラヒラした服。スカートまで穿かされたこの俺にぃ!」


 小さいころの悲しい思い出を語りながら、自信満々の笑みを浮かべるゴブリンがヒザをつく。多少ダメージを負ったようだが、倒すまでには至らなかった。


「そうか、大変だったな。わかる。わかるよ、その気持ち……」


 まあ。ウソだけど。

 思わぬ強敵に、レンタロウは拳を握りしめる。

 考えろ……この猛者を殺さずに倒す方法を……。


「一度セーターを脱いでもらっていい?」


 セーターを裏返し、タグが出た状態にして再度ゴブリンに着てもらう。


「セーターと腰巻からハミ出した緑のタマが素敵ですよ!」


 レンタロウは、ゴブリンの尖った耳元でささやいてみる。


「いやだ……かっこ悪い……」


 いじめ、かっこ悪いみたいなことを言いながら、最後に残ったゴブリンが地面に沈む。


「こ、これを持っていけ。“ノブナガ”だ。この先で必要になる」


 リーダーらしきゴブリンが、息も絶え絶えに何かを差し出してきた。


「ドアノブじゃねぇか!」


 レンタロウはどこでも使えそうにない、ちょいとお洒落なドアノブを受け取った。

 ご丁寧にも、レースのドアノブ・カバーがついている。

 つるつる滑って、ノブを回すのに手こずりそうだ。


 手ごわい敵だったな……。

 ゴブリンくさいケバケバ・セーターで額に滲んだ汗をぬぐう。

 冷たい視線が待ち構えていることを覚悟して、レンタロウは恐々エルネスタのほうを振り返る。


 はい。いませんでした。


 ちょ、待てよ! と言いながら、レンタロウはエルネスタのあとを追った__。


 エルネスタが極大のビンボー揺すりをして、ドアの前で待っていた。

 ノブがないため、入れなかったらしい。


 ゴブリンに貰ったドアノブを差し込む。滑って回しにくい。

 何度やっても、ドアノブが回らない。

 3分ほど試したが、ドアは依然として開かない。


 しばらく黙ってレンタロウの様子を窺っていたエルネスタが、薄ら笑いで呟いた。


「ノブをつかんで引くタイプですのよ?」


 ドアは、あっさりと開いた……。


 ドアの先は、ハミデール王国の王都だった。

 もとの世界に戻る方法などの情報をゲットしようと、人の集まりそうな場所へとレンタロウは向かった。


 なけなしの硬貨・ゴブリンに渡されたハリセンと翻訳機を握りしめて――。


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