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#2 女騎士、ネコパンチで壁に埋まる

 注文は任せるという話になり、適当な飲み物を見繕(みつくろ)うことにした。

 お任せとか、なんでもいいと言われるのが一番面倒なんだよ……。


 5リットル入るジョッキにタピオカを移す。

 今朝仕入れたばかりの紅茶スライムを絞り出した。

 続けてミルクスライムを少々投入。

 ちょっと小ぶりのガムシロップ・スライムを添えて終わり。

 当店おすすめ“タピオカ・ミルク・スライムティー”の完成だ。


 薄茶色の液体にタピオカの黒い粒が沈む。

 タケノコのぶつぶつみたいで気持ち悪い。

 自分なら絶対に頼まない品だろうな……。


 重さ10キロを超える飲み物(商品)を持つと腕にくる。

 レンタロウは、腕全体をプルプルさせながら、フロアへと運んだ。


「おい、メリッサ。私のパンツを降ろすな!」


 へんな想像をかき立てる音声が、レンタロウの聴覚を刺激する。


 おぎゃあ! と何かが生まれたような甲高い悲鳴があがる。


 すげぇ音がしたけど何ごとだ?

 慌ててフロアに来てみると、チーターが申しわけなさそうに壁のほうを眺めていた。


「こら、キヨコ。手加減しなさいって言ったろ? ほらごらん。お客さんが壁にめり込んでるじゃないか」


 究極のバイトテロ……。

 こうした事故が起こるため、来店するお客さんには鎧兜(よろいかぶと)の着用を勧めている。これが店名『アーマー&ヘルメット』の由来だ。


「騎士さん。大丈夫ですか? それと壁も」

「問題ない。壁は知らんが」


 女騎士は、めり込んだ壁からムングと脱出する。

 ちなみに、壁の素材は超合金。


 空いているソファーに腰を沈める。

 カブトを脱ぐと、押し込められていた金色の髪がハラリと肩口に乗った。


 改めて見るとキレイ系だ。

 目が切れ長のせいかキツそうに見えるが、話してみると存外気さくだったりする。

 お姉さま系好きの男子には(たま)らんだろう。


「この痴女は簡単に死なねえぞ! ちょっとおかしいけどな!」


 さっきからテーブルをかじっているメリッサ。お前もだ!


「良いネコパンチだった。少々面食らったが、次はそうはいかんぞ!」


 怒るどころかむしろ喜んでいる様子の女騎士は、涙目になったチーターの頭をゴリゴリとなでる。


 普段から体を鍛えていそうな女騎士を、パンチ一発で壁にうずめたチーター(メス)の名は『キヨコ』。苗字は水前寺だ。


「もとは野生だったのだろう? よく飼いならしたものだな。(しつけ)のコツをぜひ聞いてみたいものだ。やはり、グーでいったのか?」

「女子と動物には暴力はふるいませんて」


 最初のころは、よく殴られていた。おかげで怪我が絶えなかった。

 躾は特にしていない。レンタロウと動物との信頼関係とでも言おうか。

 強いて言えば、動物を空腹状態でお客さんの前に出さないことだ。


「躾に関しては追々訊くとしよう。ところで店主。こちらに来て座らんか?」

「おお、こっち来い店主。メリッサに座るといいぞ。性欲みたしてやっから!」

「業務中ですので」


 まだ死にたくない。

 お願いしたいのは山々だが、サキュバスにハマった人の悲惨な末路を、レンタロウは知っている。


「ほかに客はおらんだろ。まあ、そのサキュバスに座るがいい」


 レンタロウがサキュバスに腰かけた時だ。

 ふたたび女騎士が口を開く。


「そうだ。まだお前の名を聞いていなかったな」

「そうでしたね。改めまして、滝岡連太郎たきおか れんたろうといいます」

「タピオカ・レンタル・ビデオ? はて? 聞きなれない言葉だな」


 ビデオは、どこかへ返却してくれ……。

 さきほどから至るところをまさぐる“肉座布団”という名のサキュバスも返却したい。

 このサキュバス、なんかヌルヌルするし……。


日本(にっぽん)という国から来ました」

「ニシ・ニッポリ? そういえば、お前と似たような色の髪をした少女がいてな。名はなんといったか……。すまん、失念した。魔術師をしているとか。お前と同じニッポリ? から来たようなことを言っていた。興味があるなら“ハミデール王国”に行くといい」

「機会があれば……」


 レンタロウはハミデール王国から追放された。

 行きたくても行けないのだ。


「ところで、アデライド・ショウユ・トッテクレメンス様。いま着ている派手なピンク色の鎧兜は戦闘用ですか?」

「アデランスかアデルと呼んでくれていい。これか。見てわからんか? 外出用に決まっているだろう」

「いや、わからんて……。戦闘用も別にあるとか?」

「もちろんだ。お前は鎧に興味があるのか? ちなみに、戦闘用の鎧は純金製だ。戦場では目立ちたくないのでな。もっとも、最近は使っていないがな」


 女騎士もポヤリンとした感じの人らしい。

 鎧マニアのようだ。

 訊いてもいないことを話しだした。


「就寝用は黒だ。外出・食事など用途に応じて鎧を変えていてな――」

「鎧を着て寝るんですか? なんだか缶詰になった夢とか見そうですね」

「息苦しくて目が覚めることがある。缶詰で思い出した。外食の際はな、青い兜にパールピンクの鎧、またその逆など、気分に合わせて組み合わせを変えている。どうだ?」


 南国のでかいフルーツを思い浮かべてしまう。


「兜・左右の腕と脚、すべて色違いのコーディネートを試みていてな。その格好で街に出ると、もれなく子どもにイジられる!」


 戦隊ヒーローを、ひとりで(まかな)っている感じだろうか。


「なんでまた、そんなに鎧を集めているのですか?」

「ハミデール王国の実情を知っておろう?」


 アデルはハミデール国王に仕える騎士だ。


「なんとなくは……」

「店主よ、ここには武器がねえんだぞ」


 唐突に何を言い出すんだ、この全身ワイセツ物……。


「どうやって戦うんです?」

「戦わねえぞ」

「そうだな。メリッサの言う通りだ。まずは武器がない理由を説明してやろう。私の住むハミデール王国はここ数百年、戦をしておらん。『ズリオチール王国』との関係も良好でな。戦争・紛争とは無縁なのだ。ズリオチール王国も平和そのものなのだ。ハミデール王国はもちろん、各国でも武器の製造が禁止されている。武器の携行も禁止されていてな。いざこざが起きたらグーでいく!」


 アデルはパンチの仕草をしながら、『数百年前の武器や兵器がどこかに残っているかもしれん』と付け加えた。


「モンスター狩りはしないんですか?」

「スライムを狩ることはあるが武器は使わない。少々凶暴なモンスターは生息しているが特に問題は起きていない。ゆえに、討伐することはない」

「冒険者ギルドみたいな組織はないんですかね?」

「冒険者は存在するが僅かだ。ギルドはあるにはあるが、大きいものは存在していないと記憶している」


 そうしたなか、平和ボケしたアデルは防具にお金をかけるようになり、鎧コーディネートに目覚めたようだ。


「なあ、連たん。メリッサな、顔面偏差値『85』のこれがほしいぞ」


 何に使うのか理解していない様子で、カタクリ子を小脇に抱えるメリッサ。

 持って帰る気満々じゃねえか!


「しばらく貸してあげますよ。顔面が微妙なんで」


 空気嫁(ラブドール)が萌えるゴミなのか、燃えないゴミなのか、レンタロウには判断できない。預かってくれるなら好都合だ。


「おお! 連たん、いいやつ。お礼にこれやるぞ!」


 メリッサは両胸からバンソウコウをはがし、レンタロウの両目に貼った。

 頼むから眼球に直接貼らないでくれ……。


「なんだ? 連太郎はメリッサにえらく気に入られたようだな。高くもなく低くもない身長、何を考えているのか分からない、やる気のなさそうな顔と黒髪が気に入ったのかもしれんな」

「そうだな。メリッサな、野っぱらをパンイチで叫びながら走り回って、穴に落ちるアホな連たんが気に入ったぞ」

「メリッサは、しばらくズリオチール王国(この国)にいる。連太郎、その間コイツの相手をしてやってくれないか?」

「丁重にお断りします!」

「おう! メリッサも下半身の相手してやっからな!」

「いえ、シモのお世話は結構です……」

「遠慮するな、連太郎。椅子にするなり移動手段にするなり好きに使っていい。ソイツはもちろん、総じてサキュバスはドMだからな!」

「騎士さんは、なに言ってくれてんすか? 見返りが高くつきそうなんでやめときますよ」

「メリッサをスケベな椅子にしていいかんな! 性欲も満たしてやっからよ!」


 そんなことはいい。

 眼球に貼られたバンソウコウと、あふれる涙のおかげで何も見えない……。


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