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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

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「王都を出る。高いからだ」

 王都で大金を得た。

 だが、金があるからといって、高い街に居続ける理由にはならない。

 節約勇者は、次に使うべき金と、残すべきMPをきっちり分けて考えていた。

 初クエストと謁見を終えた翌朝。宿の食堂で朝飯を食い終え、田中はいつものように帳面を広げていた。


 昨日の収入。プラチナ硬貨10枚。

 昨夜の宿代。食費。今朝の飯代。今後の移動費、補給費、装備修理費。


 数字を見て、田中は2人に一言だけ言った。


「......出るぞ」


 ネネが焼いたパンをかじりながら顔を上げた。


「……どこへだ」


「王都の外だ」


 エリュシアが目を(またたか)かせる。


「早くございませんか?」


「早くない。高い」


「理由が雑ですわ!」


「雑じゃない。王都は宿も飯も道具も高い。こういう場所に長居すると、金の減り方が鈍く見える」


 田中は帳面を閉じた。


「金がある時ほどすぐに動く。損切り(ロスカット)だ。(ネクスト)へ行く」


「プラチナが10枚もあるのだぞ?」


 ネネが信じられないものを見る顔をした。


「だからだ。あるからって使うのが一番駄目だ」


「……それは、少しわかる」


 ネネが真顔でうなずいた。


 エリュシアは小さく息を吐く。


「では、次の街まで転送魔法を使いましょう。街道を歩く必要はございません」


「使うな」


「なぜです!?」


MP(マナ)を移動で使うな。無駄だ」


 エリュシアが固まった。


「無駄……? 転送は効率的でございますよ?」


「歩ける距離を飛ぶな」


「勇者様がそんな徒歩前提で話します!?」


「いざって時に、1でも足りなかったらどうする」


 食堂が少しだけ静かになった。


 エリュシアが口を閉じる。


「移動で削った、たった”1”が、命取りになる。便利に慣れると判断が鈍る。常識だろうが」


「……」


(言い返せません……! すごく言い返したいのに、言い返せません……!)


 エリュシアは悔しそうに目を細め、やがて肩を落とした。


「……わかりました。徒歩で参りましょう」


「よし。旅支度だ」


*****


 王都の市場は朝から騒がしかった。


 田中は必要な物だけを迷いなく揃えていく。水袋、干し肉、固いパン、塩、紐、油紙、針、予備布。どれも地味で、見栄えはしない。だが、旅で必要になるものばかりだった。


 一方で、ネネは別の意味で真剣だった。


「これもいるな」

「それも必要だ」

「旅には甘味が要る」


 戻ってきたネネの両腕には、やたら大きな袋がぶら下がっていた。


「……何だその袋は」


「おやつだ」


「多い」


「旅には必要だ」


「いくら使った」


 ネネは少しだけ目を逸らした。


「たしか……200Gくらいだ」


「おやつに使う額じゃない」


「ハッ!に、にひゃくGも使ったのか我は!?」


「自分で買ったんだろうが」


 袋の口から、蜂蜜焼き菓子、砂糖のまぶされた果実、串焼き、木の実菓子、王都名物らしい包み菓子が見えている。


「だが、これは全部必要で――」


「必要じゃない。欲望だ」


「欲望をそんな顔で言うな」


 ネネは少し考え、それから袋の中に手を入れた。


「では一つ食べる」


「減らし方が違う」


 ぺし、と田中の指がネネの額を軽く弾いた。


「いたっ」


「返してこい」


「おやつを!?」


「全部じゃない。削れ」


「むう……」


 不満そうにしながら、ネネはしぶしぶ店の方へ戻っていった。


 エリュシアがその背中を見送りながら、小声で言う。


「千年魔王が、おやつを返品しに行かされております……」


「300Gは多い」


「そこなのですね……」


 しばらくして、ネネは袋を少しだけ軽くして戻ってきた。


「……150Gまで減らした」


「まだ多い」


「これ以上は無理だ」


「お前もしぶといな」


「努力した」


 田中は袋の重さを持ち上げて確かめ、それからネネを見た。


「次は()()()()()()()だからな」


「なぜおやつでそんな屈辱を受けねばならぬのだ……」


「欲望に負けたからだ」


 ネネは納得いかない顔のまま、袋を抱え直した。


 その数歩後ろで、エリュシアが小さく肩を震わせていた。


(魔王がおやつで叱られている光景、神界の資料に存在しないのですけれど……!)


*****


「日差しが強うございますね」


 街道に出る前、エリュシアが白く輝く細身の神具を取り出した。日傘らしい。金の装飾がついていて、いかにも神聖で、いかにも高そうだった。


「それはやめろ」


「なぜです」


「派手だ」


「派手ではありません。神聖です」


「同じだ。目立つ」


「同じではありません!」


 田中は市場の雑貨屋の前で足を止め、無骨な布張りの遮光具を持ち上げた。色は地味な灰色。見た目は農作業用のようで、まったくかわいくない。


「それにしろ」


「えっ」


「軽い。畳める。雨も防げる。壊れにくい」


「だ、ださいのですが」


「機能は足りてる」


「見た目が足りておりません!」


「見栄だ。削れ」


 エリュシアは数秒、真顔で固まった。


 だが試しに差してみると、妙に涼しい。布の角度もよく、陽射しをきっちり防ぐ。しかも軽い。


(ださい……!)

(ですが軽い……!)

(しかも妙に涼しい……!)

(機能だけ完璧なのがいちばん腹立たしいです!)


「……これで参ります」


「最初からそうしろ」


「言い方ってものがありますわよ!」


*****


 王都を出て、街道に入る。


 石畳は少し荒くなり、行き交う荷馬車も減った。王都の門が背後でだんだん小さくなっていく。


 移動中、田中がポケットを確認した。

 また数えている。


「何本だ」とネネ。


「3本」


「……少ないな」


「そうだな」


 エリュシアが少し考えてから言った。

 「……この世界には、似たようなものはないのですか」


()()()()というものがあるぞ」とネネ。


「知ってるか」


「城の近くで売っていた。高いが」


「いくらだ」


「……確か500ゴールド(いっぽん)


論外(アウト)だ」


 それだけ言って、田中は歩き続けた。

 ネネがエリュシアを見た。エリュシアが肩をすくめた。


 そんな話をしながら三人が街道を歩ていくと、道端に、水売りの屋台があった。


「水だよー! 冷たい水だよー!」


 値札を見て、田中が言った。


「(ためいき)……観光地価格だな」


 エリュシアが眉をひそめる。


「やはり、足元を見た商売では?」


「いや、商売としては悪くない」


「え?」


「喉が渇いた奴に、すぐ飲める水を置いてる。値が上がるのは当然だ」


「では問題ないのですか?」


「問題は、そこで買う前提で動く側だ」


「厳しい……!」


「準備してない方が悪い。雨水でも飲んどけ。沸かせばいける」


「いけませんよ!?」


「お前は、いざという時に文句を言ってから死ぬタイプだな」


「言い方が最悪です!」


 その横で、ネネが袋を抱えたままぽつりと言った。


「……150Gは、正しかった気がしてきた」


「だろうが」


「だが、甘味は必要だ」


「そこは譲らんのだな」


「譲れぬ」


 ネネは真剣だった。フンと鼻をならして腕を組んでいる。


 田中は少しだけ呆れたように鼻を鳴らし、それ以上は言わなかった。


(1000年魔王ともあろうものが、子供ですか。いや子供でしたね、中身)とエリが内心思った。


*****


 昼過ぎ。街道脇の木陰で、三人は一度足を止めた。


 ネネは袋を抱えたまま座り込み、深く息を吐く。


「……重い」


「当たり前だ。欲望を背負ってるからだ」


「うるさい……」


 エリュシアは例の灰色の遮光具を差したまま、不本意そうな顔で空を見ていた。


「……ださいですが、実用的ではあります」


「見た目を削ったからな」


「それを誇らしげに言わないでください」


 田中は地図と帳面を見比べる。


「次の宿場まで、今日中には着かん。途中で野営か、安い宿を拾う」


「王都に戻る気はないのか?」


 ネネが聞いた。


「ない」


「そこまでか」


「王都は住む場所じゃない。金をばらまく場所だ」


 エリュシアが少しだけ目を細めた。


「では、次はどういう街へ?」


 田中は帳面を閉じた。


「ちゃんと暮らせる街だ。宿代、飯代、修理代がまともな場所がいい」


「基準が徹底しておりますね……」


「当たり前だ。常識だろうが」


 そう言って田中は立ち上がる。


 ネネも、しぶしぶ重い袋を抱えて立ち上がった。


「次は本当に100Gまでにする」


「ほんとにおしりペンペンだからな」


「なぜそこだけ執行が早いのだ!」


「欲望に甘いからだ」


「甘味だけに、か?」


 ネネが少しだけ得意そうに言った。


 田中とエリュシアは、同時に無言になった。


「……今のは、少し面白かったのだが」


「黙って歩け」


「扱いが雑!」


 王都の喧騒は、もうだいぶ遠かった。


 その代わり、先にはまだ見ぬ宿場町と、まともな値段の飯と宿がある。


 田中は少しだけ歩幅を広げる。


「行くぞ」


「はいはい、参りますよ」

「待て、袋が重い」

「知らん。自分で買ったんだろうが」


 文句を言いながらも、二人はちゃんとついてくる。


 それでいい、と田中は思った。


――――――


 一方そのころ、ゾルグの『魔王様奪還作戦・転送魔法速攻版』は、

 田中が徒歩を選んだことで開始前に詰んでいた。



━━━━━━━━

※おじさん解説!

━━━━━━━━


 移動で大事なのは、速さではない。

 削っていいものと、削ってはいけないものを見極めることだ。


 田中剛は、金だけでなくMPまで「使ってよい予算」として見ている。


 移動で使った、たった1が、戦闘で足りなくなる。

 それは十分にありうる。RPGでも現実でも同じである。


 なお、魔王ネネは、おやつに300G使った。

 返品後、150Gまで減った。


 田中の評価は「まだ多い」であった。

 正しい。おやつは、300円(20Gくらい)まで。


━━━━━━━━━━━

※神界業務日報 第9回

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 担当勇者:田中 剛


 本日の特記事項:

 勇者が移動用転送魔法を却下。

 理由は「MPを移動で使うな。いざという時に1でも足りなかったらどうする」であった。


 私の所感:

 正しいのです。正しいのですが、女神を交通手段扱いしないでください。


 追記:

 本日、私は妙にださい遮光具を携行させられました。

 性能は極めて優秀でした。

 非常に腹立たしいです。


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※魔王の家計簿 第9回

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 今日の支出:

 おやつ 300G

 返品後 150G

 観光地の水 観光客用ボッタくりなので買っていない


 感想:

 おやつは必要だと思った。

 だが、持つと重かった。

 田中に「欲望を背負うと荷物は重い」と言われた。


 よくわからぬが、少しだけ納得した。

 なお、焼き菓子はうまかった。

 次はおしりペンペンらしい。理不尽だと思う。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     第9話 了

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