表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/41

「スライムに、全力で挑むな」

 初クエストはスライム退治。

 ですが田中にとって大事なのは、討伐より素材でした。

 魔王ネネ、早くも社会の厳しさを学びます。

 クエストへの出発前、田中が一服していた。

 ネネが黙って隣に立つ。

 エリュシアが少し離れたところで待っている。


「それ、吸いすぎではないか」とネネ。


「一本だ」


「毎日一本か?」


「……そうでもない」


 ネネは特に何も言わなかった。

――――


 王都の石畳(いしだたみ)が途切れ、土道に変わったあたりから、空気が湿(しめ)ってきた。

 道の先には浅い水たまりが点々と光り、泥の匂いが鼻につく。


「よりにもよって、こんなぬかるんだ場所なのか」

 ネネが露骨に眉をひそめた。


「だから安い」

 田中は前を向いたまま答える。


「安い理由がそれでよいのか」

「他が嫌がる。なら狙い目だ」

「嫌な理屈だな」

「金になる理屈だ」


 後ろを歩くエリュシアが小さく息をついた。


(発想が徹頭徹尾、生活者なのですよ……)


 湿地の手前で、田中が立ち止まる。


「ここから先、全力を出すな」

「なぜだ」

「素材が飛ぶ」

「またそれか」

「まただ」


 ネネが胸を張る。


「スライムごとき、我が魔法で一掃すれば終わりだ」

「だからだ。(つぶ)すな。溶かすな。飛ばすな」

「注文が多い!」

「素材が金になる」


 エリュシアが額を押さえた。


「勇者様、戦闘前の説明が全部お金基準なのですが」

「当然だ」

「当然ではありません」

「常識だろうが」


 田中は湿地の(ふち)にしゃがみ込み、泥に指を入れた。水面の揺れ、ぬかるみの浅い跡、粘液の筋を目で追う。


「いるな」

「どこだ」

「そこだ」


 拾った棒で水たまりをつつくと、半透明の(かたまり)がぬるりと盛り上がった。


「うわ」

 エリュシアが半歩下がる。


 拳二つ分ほどのスライムだった。青とも緑ともつかない濁った身体の奥に、小さな核が見える。


「雑魚だな」

「雑魚でも沈めば終わりだ」


 田中は棒を構えた。


「ネネ、押すだけでいい」

「倒しきらぬのか」

「俺が仕留める」

「私は?」

「足場担当」

「足場?!」

「俺たちが滑りそうなら()()

「女神の存在を動詞扱いしないでくれます!?」


 文句を言いながらも、エリュシアは指先に光を宿した。


「今だ」


 ネネが小さな闇弾を撃つ。スライムは横に弾かれ、核があらわになる。田中が一歩踏み込み、棒の先でそこだけを叩いた。


 ぱしゃ、と水が跳ねる。

 スライムの動きが止まった。


「おお」

「押すだけでいいと言っただろ」

「なるほど」


 エリュシアが足元に光を落とす。ぬかるみの表面が一瞬だけ固まった。


「その程度ならできます」

「十分だ」

「褒めていませんよね、今の」

「してる」

「雑です」


 最初の数体は、その調子でうまくいった。

 ネネが押し、エリュシアが足場を支え、田中が核を叩く。地味だが安定している。


「どうだ。なかなかよいではないか。フッフ」

 五体目を仕留めたところで、ネネが少し得意げに顎を上げた。


「そうだな」

「もっと褒めてもよいぞ」

「まだ早い」

「厳しいな、お前は」


 そのとき、少し離れた水場で、ぼこぼこと泡が立った。


「ふは。今度は多いな」

「......抑えろ」

「わかっておる♪」


 そう言った声が、少し楽しそうだった。


(あっ、これはたぶん()()()()()です)

 エリュシアがそう思った瞬間、ネネが片手を前へ出した。


「ふはは! 見よ!わが力!!」

「待て」


 遅かった。

 黒い魔力が湿地を走り、現れかけていたスライムをまとめて吹き飛ばす。水と泥と半透明の粘液が、べちゃっと四方へ散った。


 しん、と場が静まる。


「ふはは! 見たか!」

「見た」

「どうだ!」

「飛んだな」

「……何がだ?」

「当然、金が」

「うっ」


 田中がネネに歩み寄る。


 こつんっ☆


「あだっ!?」

 ネネが額を押さえた。田中がネネに軽くゲンコツを食らわせた。


「全力を出すなと言っただろうが」

「だ、だが一瞬で終わったぞ!」

「素材も終わった」


 エリュシアが胸の前で手を握る。


(正しい。正しいのですが、魔王を気軽に小突かないでいただけます!?)


 田中は散った粘液を棒でつついた。


「状態が悪い。買い取りが落ちる」

「そ、そんなに違うのか?」

「違う」

「……むう」


 ネネがしゅんとする。


「次は抑える」

「最初からそうしろ」

「わ、わかっておる!」


 だが、そのすぐあと。


「このくらいか!」

 今度は小さめの闇弾が飛ぶ。さっきよりは弱い。だが弱いだけで、弱すぎはしなかった。二体まとめて潰れ、また泥の中へ散る。


 田中が無言でそちらを見る。


 ネネが固まった。


「……い、今のは抑えたぞ」

「ネネ」

「はい」

「こっち向け」

「え」


 田中はネネの肩を掴み、くるりと体の向きを変えたかと思うと、腰に手を当てお尻を突き出させた。


「な、何をする無礼者め」

「悪いことした子は()()()()()()だ。常識だろうが」

「そ、そんなの、常識ではない!」


 ぺん。ぺん。


「~~~っ!?!?」


 ネネが跳ねた。

 エリュシアが一歩下がる。


「ちょっ……!?」

(やったーーー!? 本当にやったーーー!?最高ステータスの勇者様がお尻ペンペン!普通に痛いよあれ!!)


「次から気をつけろ」

 田中は真顔だ。


 ネネは真っ赤な顔で鎧の尻を押さえた。たかがお尻ペンペン。されど痛いはず。


「う、うぅ……わかった……」

「よし。続けるぞ」

「切り替えが早い!」

「戦闘中だ」

「それはそうだが!」


 だが、そのあとは明らかに変わった。


「ネネ、右」

「こうか?」

「それでいい」


 小さな闇弾がスライムを押し出す。

 エリュシアが足場を支え、田中が核を叩く。


「前」

「当然です」

「助かる」

「雑に感謝しないでください」


 最後の一体を仕留めると、湿地に静けさが戻った。


「回収する」

「ここからか?」

「ここからだ」

 ネネが眉をひそめる。


「全部持って帰るのですか」

 エリュシアも嫌そうな顔をした。


「当然だ」

「倒して終わりではないのだな」

「倒して終わりなら赤字だ」


 田中は状態のいい素材と値が落ちる素材を仕分けていく。


「これが上。こっちは下。さっき飛ばした分はさらに下」

「うぐ」

「次から覚えろ」

「……うむ」


 結局、三人で回収した。


―――― 

 ギルドへ戻る頃には、日が少し傾いていた。

 泥をある程度落としてから中へ入った。


 「ヨシコー、帰ったぞ」 素材袋をリッカに渡すと、彼女は素材袋を見て目を丸くした。


「……こんなに?あと――リッカです。」

「取れた」


 袋を開いたリッカの表情がさらに固まる。


「状態もかなりいいですね」

「飛ばさなければ取れる」

「いえ、そういう意味ではなくてですね……」


 横でネネが帳面を開く。


「討伐報酬……素材売却……」

「書くな。まだだ」

「大事だぞ」

「査定が先だ」

「うむ、そうか」


 通常の討伐報酬に素材売却分が乗る。飛ばした分は安かったが、全体では十分に黒字だった。


「……こちらが討伐報酬で、こちらが素材買い取り分です」

 金額を見て、ネネの目が光る。


「黒字だな」

「黒字だ」


 田中がうなずく。


「ネネ、今のはいい」

「そ、そうであろう」

「悪くない」


 ネネの頬が少し赤くなった。


(また褒めた……)

 エリュシアがなんとも言えない顔で視線を逸らす。


 リッカは帳簿を書きながら、三人を見た。


「初回でここまでやるとは思いませんでした」

「やれるだろ」

「……普通は、もう少し勢いで押すものです」

「無駄だ」

「そう返しますよね、やっぱり」


 少しだけ、リッカが笑った。


 ギルドを出ると、夕方の王都はまだ騒がしい。

 今日黒字でも、宿代や食費で削られる額は大きい。


 田中が小さく息を吐く。


「やっぱり王都は高い」

「またそれですか」

「事実だ」

「今日は黒字だったではありませんか」

「だからだ。黒字が消える」


 ネネが帳面を閉じて、ふむ、と考える。


「では、もっと安い場所へ移るのか?」

「次の手を考える」


 それだけ言って、田中は歩き出した。


 ネネがその横につく。エリュシアも半歩遅れて続く。

 新しい装備は、もう少しだけ身体に馴染んできていた。


「……ほんとうに、困った勇者様ですね」

 エリュシアは誰にも聞こえない声で、そう呟いた。


――

 ここは魔王城。腹心ゾルグが四天王の3人と頭を抱えていた。


「魔王様が帰ってこない……!」

「奪還計画を立てねば」


そんなの絶対に不要だと一目でわかる過大な作戦ボードを豪奢な机一杯に広げ、

四天王たちとあーでもないこーでもないと無駄な時間が過ぎていくのであった......。

※おじさん解説!


 昔のゲームって、雑魚敵でもちゃんと倒し方を考えたんですよ。

 全力で消し飛ばすより、被弾しない、消耗しない、得する。そっちのほうが大事でした。

 あと「倒して終わりじゃなく、ちゃんと拾う」のも現場感です。常識だろうが。


※神界業務日報 第7回


 本日の特記事項。

 勇者が初級依頼にて、討伐報酬より素材売却益を重視する戦闘行動を実施。

 理屈は通っておりますが、やはり勇者としてどうかと思います。


 なお、魔王が二度やらかしました。

 一度目は軽く小突かれ、二度目は……記録したくありません。

 ですが、原因は完全に魔王側です。非常に悔しいです。


※魔王の家計簿 第7回


 本日の収支。

 討伐報酬、素材売却、合計黒字。

 ただし途中で我が二度ほど失敗し、価値を下げた。反省はしている。少しだけだが。


 本日の学び。

 雑魚でも全力はよくない。

 飛ばしたのはスライムではなく金である。

 あと、二度目は本当に油断した。


 本日の追記。

 お尻ペンペンは常識ではない。

 断じて常識ではない。

 ……だが、黒字だったので今日は許す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ