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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

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「D級から始めるのが、常識だろうが」 

 冒険者ギルドは、朝から混んでいた。


 受付に三列。掲示板に人だかり。奥のテーブルでは冒険者が朝飯を食いながら騒いでいた。


「大きいな」


 魔王ネネが少しだけ声を落として言った。普段より小さく感じる。魔王の気配を抑えようとしているらしかった。


「変装しろとは言わんが、角は目立つ」


「角は我の誇りだ」


「そうか。じゃあ好きにしろ」


 田中はさっさと受付に向かった。


*****


 受付に、茶色い髪の女がいた。

 背筋が伸びている。書類の扱いが正確だった。頭のてっぺんからつま先まで、規則書でできているみたいな女性に感じた。


「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」 誰にでも印象良く感じる、受付嬢らしいトーンの声。


「登録したい」


「新規のご登録ですね」受付嬢が三人を見た。止まった。「……こちらの方々は、パーティでのご登録でしょうか」


「そうだ」


(……角が生えている。この方、魔族では……? でもニコニコして立っているし......)

(……とりあえず規則通り対応しよう。それが私の仕事だ)


「勇者様のご登録でしたら、専用窓口がございますが――」


「一般でいい」


「……は?」


「一般の窓口でいいと言った」


 受付嬢が止まった。

 田中を見た。どこからどう見ても普通の少年だった(※注 田中の外見は17歳。中身は46歳だ!)。


(……なぜ?)


「失礼ですが、ランクのご希望は。初回は通常E級からのスタートとなりますが――」


「D級でいい」


「……」


(……E級を飛ばしたいのではなく、D級でいいと言っている?)


「D級へのランク調整には、実技審査で相当の実力を証明していただく必要があります」


「審査はどこでやる」


「裏の訓練場です」


「わかった。先に手続きを教えろ。手順の話をしている」


 受付嬢は少し揺らいだ。


(騒ぐわけでも、怒鳴るわけでもない。純粋に、手順を聞いている)


「……登録証の発行費用は30Gです。年に一度、更新料が10Gかかります」


「身分証の再発行は」


「15Gです」


「なくさなければ不要だな?」


(なくさなければ……確かにそうですが……)


 横で、ネネが帳面を取り出した。


「登録……30G……更新……10G……」


 筆を走らせている。真剣だった。


(魔族の方が……メモを……真面目?)


「気にしないでください。この人の日課なので」


 エリュシアが静かに言った。


「……は、はあ」


*****


田中がポケットから箱を取り出し、タバコの残りを確認した。


「……減ったな」


 ネネが横から覗く。


「それ、何本あるんだ」


「あと、10本」


「……異世界では補充できんのか」


「できん」


 ネネは何も言わなかった。

 田中も何も言わなかった。


―――――

 

 手続きを終えて、掲示板を眺めていると、後ろから声がかかった。


「よう、新入り」


 振り返ると、大柄な冒険者が三人、テーブルから田中を見ていた。装備は重厚。C級からB級といった風体だった。


「どこの田舎から来た? D級志望って言ったか? ハハ、いきなり飛び級かよ」


 田中は振り返らなかった。


「無視かよ。新入りのくせに態度だけはいっちょ前だな」


それを聞いたネネが、抑えていた魔力を開放しようとしていた。


「ネネ」


 田中が言った。


「なんだ」


「放っておけ」


「……しかしあの者ども、無礼ではないか」


「下を見て動くやつは、いつまでも下だ」


 大柄な冒険者の顔色が変わった。


「……今、なんつった」


 田中がようやく振り返った。


「聞こえなかったか。もう一度言う。下を見て動くやつは、いつまでも下のままだ」


 沈黙――。一触即発。


 大柄な冒険者が立ち上がりかけた。その時、


「実技審査の時間です。こちらへどうぞ」


 受付嬢が割り込んだ。声は低かった。笑顔ではなかった。


 それだけで、大柄な冒険者は腰を下ろした。


(……場を制した。なかなかやりますね)


 エリュシアが少しだけ目を細めた。


*****


 裏の訓練場。


 審査員は四十代の男だった。目が鋭く、腕は確かそうだった。


「では実技を見せてもらいます。型でも実戦形式でも構いません」


「一番早く終わる方法でいいか」


「……どちらでも」


 田中が動いた。


 何をしたか、見えた者は少なかった。

 審査員の目に、田中が動いた、という残像だけが残った。

 次の瞬間、審査員の剣が田中の手の中にあった。


 奪った。ただそれだけだった。


 沈黙。


「D級でいいか」


 田中が剣を返しながら言った。


「……それは、D級では収まらないと――」


「D級でいい」


 審査員は何も言えなかった。


*****


「なぜD級でよいのだ」


 外に出ながら、ネネが聞いた。


「ランクは目安だ」


「それだけか」


「信用は実績で作る。最初から高く始めるやつは、足元を見ない」


「……足元を」


「高いところから落ちると、痛い。低いところから上がる方が確かだ。常識だろうが」


 ネネは少し考えた。


(……魔王軍に入れる前に、必ず試練を課していたのは我だった。あれも、同じことだったのかもしれない)


「……そうか」


 それだけ言った。


*****


 ギルドを出る際、受付嬢が登録証を差し出した。


「田中 剛様。D級登録、完了です」


「ありがとう。」


「これからよろしくお願いします。私は受付嬢のリッカ・ヨシュア・カトレイン――」

そこまで言うと――


「長い。ヨシコ(リッカ)さんだな。覚えた」


「……いえ、リッカなんですけど......」


(……なぜ覚えようとしないのですか。本当に。この人、本当に……)


「ヨシコさん。また来た時はクエストのおすすめを教えろ。安くて効率のいいやつだ」


「……善処します。あとリッカです。」


「頼む、ヨシコさん」


 田中は出て行った。ネネが帳面を閉じながら続いた。


「ヨシコ! また来る!」


「だーかーらーリッカですって!」


 エリュシアが最後に出た。


「……お手数をおかけしました、ヨシコさん」


「い、いえ……あの。リッカです。えーと」


「なんでしょう」


「あの方は……本当にD級でいいんですか。さっきの実技は、どう見ても――」


「私に聞かないでください、ヨシコさん――」


 エリュシアは静かに頭を下げて、外に出た。


 リッカは一人、カウンターの向こうに残った。


(……変な人)


(でも)


(……なんか、気になる。てかなんでヨシコなの!?)


*****


「次は鍛冶屋だ。昼に仕上がると言っていた」


「装備が楽しみだ」


「楽しみより機能を見ろ。動けるかどうかだ」


「……それを楽しみにしているのだが」


 田中は少しだけ黙った。


「……そうか」


 それだけ言った。


(……今の、少しだけ柔らかかった)


 エリュシアは思ったが、口には出さなかった。


 出せなかった。


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     「D級から始めるのが、常識だろうが」 了


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※おじさん解説!


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 本日、田中剛はD級冒険者になった。


 審査員の剣を奪うまでの時間、0.01秒以下と推定される。本来SSS、SSクラスの規格外である。


 しかし田中剛はD級でいいと言った。


 「信用は実績で作る」とは、製造管理の現場においては

 「まず期待値を低く設定し、確実に超えていく」戦術のことである。


 D級から始めることは、田中にとって最初の節約だったのかもしれない。


 また、おじさんは昭和脳なので横文字の人名が覚えられない。自分で決めつけたレトロな名前を勝手に名付けてしまうのである!

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※女神より一言


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 本日、私はD級冒険者の補佐になった。


 女神がD級の。


 神界への報告書に、この件をどう記載するか

 三十分考えたが、適切な書き方が見つからなかった。


 ……「特記事項あり」で提出します。

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