表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/41

「鍛冶屋は腕がいいが、値段も高い」

 翌朝。


 勇者である田中剛は日が昇る前に起きた。

 ――それが、習慣だから。


 魔王ネネはいびきをかいて、ぐっすり寝ていた。

 エリュシアは「女神は睡眠を必要としません」と言ったが、目の下に少し(くま)があった。


「おい鍛冶屋に行くぞ」


「今すぐですか?」


「当たり前だろうが」


*****


 街の一角に、「赤ひげ工房」という看板が出ていた。

 扉は重く、中からは金属を叩く音と、炉の熱気が漏れていた。


 入ると、でかい男が振り向かずに言った。


「まだ開店前だ。とっとと出ていけ――」


「知らん。お客様は神様だ。材料持ち込みで、工賃だけで鍛冶依頼がしたい」


 男が手を止めた。


 赤ひげの、がっしりした鍛冶師だった。年は五十近い。腕に無数の火傷の跡。目つきは悪い。


「……名前は」


「ロックだ」


(あなたは田中ではありませんか.....初対面には偽名なのですね......)エリュシアが思った。


「どこの生まれだ」


「遠い」


 鍛冶師がようやく振り返った。


「材料持ち込みは受けん。品質の保証ができない」


「品質の判定は俺がする。お前の意見など受け付けん」


 間。


「……お前が?」


 田中は懐から布を取り出した。

 昨日の道具屋で仕入れた素材と、道中で拾い集めたもの。スライムの固体部位、廃砦に転がっていた鉄くず、森で拾った硬質の樹皮。


 鍛冶師が無言でそれを手に取った。

 指で触れる。折り曲げる。光に透かす。


「……どこで拾った」


「道中だ」


「これ、スライムのコアじゃないか」


「固体化した部分だけ剥いだ。溶解しない。強度は鉄の一・三倍はある」


「……なぜそれがわかる」


「触ればわかる。常識だろうが」


 鍛冶師は長い間、素材を見ていた。


「……工賃だけでやれ、と言ったな」


「そう言った」


「いくらまで出す」


「妥当な額なら払う。()()()()()なら他に行く」


 鍛冶師は鼻で笑った。

 笑い方は悪かったが、目が少し変わっていた。


「面白い。受けてやる。ただし俺のやり方でやらせてもらう」


「仕上がりが同じなら文句はない」


「ガンツだ」


「田中だ」


 握手はしなかった。互いに名乗って、それで終わりだった。


(……なんか、この二人、似てる気がする)


 エリュシアは黙って見ていた。


*****


「ところで」


 田中がネネを見た。


「お前のあのヘンな鎧、持ってこい」


「は? なぜだ――」


「整備が必要だろうが」


「整備……?」


()()、いつ磨いた」


 ネネが黙った。


「……磨く?」


 ガンツが振り返った。

 静かな目で、ネネの漆黒の鎧を見た。


「……こっちに来い」


 ネネが近づくと、ガンツは鎧の継ぎ目に指を走らせた。


「錆が出かけてる。革の部分が乾いてひび割れてる。可動部に砂が噛んでる」


「そ、そのようなことは――」


「動ける鎧か、飾りかで分かれる。今のお前の鎧は飾りだ」


「飾り!? これは千年前に最高の職人が作った――」


「千年前の整備で今に対応できるか」


 バッサリ切られた。


無駄(ロス)だ。削れ(カット)


 横から田中が言った。


「……二方向から言われておる」


(……なんか、少し可哀想になってきた)


 エリュシアは思ったが、口には出さなかった。


「整備代は別でかかるぞ」


「払う。ネネ、家計簿に整備費の項目を作れ」


「今か!?」


「今だ。記録しないと忘れる」


 ネネはぶつぶつ言いながら、懐から小さな帳面を取り出した。

 昨日の夜から始めた家計簿だった。

 字は綺麗だった。ちょっとだけ意外だった。


(……真面目に書いてる。千年の魔王が家計簿を)


 エリュシアは感心して、再び口をつぐんだ。


*****


「おい。お前もだ」


 田中がエリュシアを見た。


「……私ですか」


「昨日、布を増やすと言ったな」


「言いました」


「ガンツ、この女神に動きやすい衣装を見繕ってくれ。胸と肩が出すぎてる」


「ちょっと待ってください!」


 エリュシアは一歩前に出た。


「なぜ鍛冶屋で衣装の話になるのですか。それに私の衣装は天界の正式な支給品で――」


「走れるのか」


「……」


「昨日も聞いたな。全力で」


「……」


 沈黙。


「だろうが――」


(悔しい。ものすごく悔しい。でも昨日から一度も反論できていない)


「……わかりました」


 諦めた。


 ガンツが無言で採寸を始めた。手際は良かった。こういう依頼にも慣れているらしい。


「動きやすさ優先でいいか」


「防御力も落とすな」


「そりゃ両立させるのが職人だろ」


「だから頼んでる」


 ガンツがわずかに頷いた。


(……この二人、会話が少ないのに話が進んでいる)


 エリュシアはそれをぼんやりと見ていた。


(なんでしょう、この妙な敗北感は……)


*****


「仕上がりは明日の昼だ」


 ガンツが言った。


「わかった。午前中は別で動く」


「何をするのだ?田中」


 ネネが書き終わった帳面を閉じながら聞いた。


「ギルドに行く」


「ギルド?」


「冒険者登録だ。こういうのだと常識だろう?身分証と情報収集が必要になる。パーティで動くなら全員登録が基本だろうが」


「魔王がギルドに……」


「問題があるか」


 魔王「……ない」

 女神「......ありません」


(魔王:大いにある気がするが。私の鎧は黒いし角は取れないし)

(女神:魔王が冒険者ギルドって.....ほんとこいつ、なんなんでしょう......でも言ってることは当たってるのよね)


 去り際で鍛冶屋の入り口で田中が言った。


「おいガンツ」


「なんだ」


「いい仕事をしろ」


「言われなくてもそうする」


 短い会話だった。それで十分だった。


*****


 工房を出ると、朝の光が石畳に落ちていた。


 ネネが帳面を開いたまま歩きながら言った。


「……鎧の整備費はどの項目に入れるのだ」


「装備修繕費か、業務委託料だな」


「装備修繕費。……装備修繕費」


 ネネは丁寧に書き込んだ。筆圧が強かった。真剣だった。


(千年間、誰も教えなかったことを、この男はたった二日で教えてしまっている)


 エリュシアは少し空を見た。


(……この方、本当に何者なのかしら)


(なぜか全部、正しいのが腹立ちますわ)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


     「鍛冶屋は腕がいいが、値段も高い」 了


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━

※おじさん解説!

━━━━━━━━━━━━━


 本日、田中剛は鍛冶師と会った。偽名を名乗った。


 交渉に要した時間は三分以下である。


 鍛冶師ガンツは口が悪いが腕は確かで、

 素材を見た瞬間に目が変わった。

 これを「職人の本能」という。


 なお、魔王の鎧は千年間一度も整備されていなかった。


 千年の支配者が鎧を磨いていなかった事実は、

 「部下に丸投げすると自分の足元が見えなくなる」という

 製造管理における典型的な失敗事例である。


━━━━━━━━━━━


※魔王より一言


━━━━━━━━━━━


 鎧を整備するという概念を知った。


 千年間、古くなったら新しいものを作らせていた。


 田中に話したら「無駄(ロス)だ。削れ(カット)」と言われた。


 正論だと思った。悔しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
― 新着の感想 ―
めちゃくちゃ面白かったです!発想が新鮮で、終始ニヤニヤしながら読んでしまいました。 勇者なのに中身がガチすぎて、「家計簿」「経費」みたいなワードが出てくるたびに笑ってしまいます。 なのに言ってることは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ