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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「お前も捨て駒だろうが」

 その朝、フィオは石を拾っていなかった。


 広場の端に立っていた。石の袋を持っていた。でも地面を見ていなかった。


 どこか遠くを見ていた。


 田中が来た。グラがその肩の上にいる。フィオが振り向いた。彼と目が合った。


 今日は――始まらなかった。


 二人とも、動かなかった。


 しばらく、そのままだった。


「……今日は投げないのか」と田中。


「……気分じゃない」


「そうか」


 田中がフィオの横に立った。同じ方向を向いた。


 朝の王都が動き始めていた。荷車の音。露店の声。石畳の上を人が歩いている。


 二人とも、しばらく黙っていた。


******


「……なぜ、ここに来た」とフィオが言った。


「お前に会いに来た」


「何の用だ」


「顔を見に来た」


 フィオが少し止まった。


「顔」


「そうだ」


 田中がフィオを見た。正面から見た。


「……捨て駒(すてごま)の顔だ」


 フィオが固まった。


 何も言わなかった。


「命令で動いてる。失敗しても続ける。それ以外の選択肢がない顔だ」


「……」


「俺も二十三年、同じ顔をしていた」


 フィオが田中を見た。


「……二十三年」


「そうだ」


「負け続けたのか」


「負け続けた」


 沈黙。


「……それでも続けたのか」


「続けた。正しいことをするたびに、俺だけ負けた。()()()()()()()


 フィオが少し目を細めた。


「……なぜだ」


(ただ)しかったからだ」


 それだけ言って、田中は前を向いた。


「お前も同じだろうが」


 フィオが動かなかった。


 (……同じ)


 (違う、と言おうとした)


 (言えなかった)


 (同じだった)


 石の袋を持つ手が、少しだけ緩んだ。


******


「……誰に命令されてきた」とフィオ。


「神界だろうが」と田中。


 フィオが止まった。


「……なぜわかる」


「顔だ。それとお前のチートが俺のチートと同じだ。同じ型のチートを別世界の勇者に渡して使い捨てにする。神界のやり方だ」


 フィオが少し間を置いた。


「……知っていたのか」


「途中から気づいた」


「なぜ言わなかった」


「お前が言う前に言っても意味がない」


 フィオが田中を見た。


「……俺は、向こうの世界で失敗した」


「そうか」


「資金が尽きた。神界に見捨てられた。この世界に送られてきた。使(つか)い直しだ」


「知ってる」


「知ってて、石を投げ合っていたのか」


「練習になった。収益も出た」


 フィオが少し笑った。笑ったのを、すぐに消した。


「……お前は、おかしい」


「そうか」


「普通じゃない」


「そうだな」


「……なんで」フィオの声が少し低くなった。「なんで、そんなに平気なんだ。神界に二十三年、使われ続けて。負け続けて。なんで」


 田中が少し間を置いた。


「平気じゃなかった」


 フィオが黙った。


「平気じゃなかった。ただ、正しかったから続けた。それだけだ」


 沈黙が二人を包む――それは、長い沈黙だった。


 フィオが石の袋を地面に置いた。


「……俺も、正しいと思ってやってきた」


「そうだろうな」


「でも負けた」


「そうだな」


「……それでも」


 フィオが田中を見た。


「お前は、続けるのか」


「当然だろうが」


 フィオが少しだけうつむいた。


 肩が、わずかに揺れた。


 一度だけ。


 すぐに止まった。


 (……泣くな)


 (泣いてどうする)


 (でも)


 (十六年分が)


 (少しだけ)


 グラが田中の肩から飛んで、フィオの肩に乗った。


 「グゥ」と鳴いた。


 フィオは動かなかった。


 グラがもう一度「グゥ」と鳴いた。


「……なんだ、こいつ」


「慰めてるんだろ」と田中。


「翼竜が慰めるのか」


「するらしい、こいつは賢い。使える」


 フィオがグラを見た。グラが目を細めた。


 フィオが小さく息を吐き、少しだけ、笑った。


******


 少し経ってから、田中が言った。


「本当の名前はなんだったか、忘れた」


「……フィオナ・ヴァル・クレスだ」


「やはり長い。フィオだ」


「……短くするな」


「フィオだ」


 フィオが少し間を置いた。


「……まあ、いい」


「それと」


 田中がフィオを見た。


SNK(エスエヌケー)さんだ」


「何だ、それは」


「後で説明する。強い。でも資金不足で倒れた。そういう会社だ」


「……会社?」


「昭和のゲームの話だ。気にするな」


 フィオが少し考えた。


「……侮辱か」


「最大級の敬意(リスペクト)だ」


 フィオがしばらく田中を見た。


「……わかった。受け取る」


******


「パーティに入れ」と田中。


「断る」


「そうか」


「俺は俺でやる」


「わかった」


 フィオが少し止まった。


「……引き止めないのか」


「お前が決めることだ」


「……」


「ただ、困ったら来い。石はタダだ」


 フィオが田中を見た。


「……師匠とは呼ばない」


「どっちでもいい」


「田中と呼ぶ」


「そうしろ」


 フィオが石の袋を拾い上げた。


「……またくる」


「来い」


 フィオが歩き始めた。


 グラが田中の肩に戻った。


「グゥ」と鳴いた。


「……そうだな」と田中が言った。


 何に対して言ったのか、グラにしかわからなかった。


******


 少し離れた建物の陰で、アルスが見ていた。


 今日は、いつもの腹筋をしていなかった。

 ただ立って、見ていた。


 (……負け続けた)


 (それでもやった)


 (正しかったから)


 アルスが少しだけ俯いた。


 『勇者らしくあらねばならない』という言葉が、頭の中にあった。ずっとあった。入団したその日からあった。


 (師匠は)


 (そんなこと、一度も言わなかった)


 (正しければいい、と言った)


 (それだけだ、と言った)


 アルスが顔を上げた。


 田中はもう歩き始めていた。前を向いていた。振り返らなかった。


 アルスが小さく息を吸った。


 また腹筋を始めた。


 ぴょんぴょんしながら、ついていった。


******


 エリュシアは、少し離れた場所から全部見ていた。


 近づかなかった。


 近づけなかった。


 (……二十三年分)


 (私が処理しました)


 (全部、全却下で処理されました)


 (私は書類の末端でただ処理していただけです)


 (でも処理していた)


 (全部)


 (……ごめんなさい、田中)


 声には出なかった。


 出せなかった。


 田中が前を向いて歩いていた。


 その背中を見ていた。


 (……それでもやる、と言いました)


 (正しかったから、と言いました)


 (私には、その言葉に答える資格がまだありません)


 (でも)


 (……いつか)


 それだけ思って、後を追った。


******


**その頃、神界では――**


 ウルダが窓の外を見ていた。


 長い間、見ていた。


 部下が書類を持ってきた。


「フィオナ・ヴァル・クレス、田中剛と接触。仲間化の可能性があります」


「……そうですか」


「対処を——」


「待ちなさい」


 ウルダが部下を見た。


「……今日は、何もしません」


「よろしいのですか」


「寛大に、見守ります」


 部下が記録しようとした。


「……記録しなくていいです」


 ウルダが再び窓の外を見た。


 (……二十三年分)


 (私も、知っていた)


 何も言わなかった。


 書類に一つだけ、小さく何かを書いた。


 すぐに閉じた。


**※おじさん解説!**


 SNKとは、1978年に創業した日本のゲーム会社だ。

 餓狼伝説(がろうでんせつ)KOF(ケーオーエフ)メタルスラッグ(めたるすらっぐ)。名作を連発した。

 強かった。本当に強かった。

 でも2001年に経営破綻した。資金が尽きたのだ。

 その後、復活した。今も続いている。

 強くて、資金不足で倒れて、それでも続けた。

 そういう会社だ。

 最大級の敬意を込めて言う。SNKさんだ。

 これも常識だろうが。


******


**神界業務日報 第25回**


 今日は書けません。


 一つだけ記録します。


 勇者が「正しかったから続けた」と言いました。


 以上です。

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