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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

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「魔王城より先に、道具屋を落とせ」

「勇者よ! 出陣だ! まずは魔王城へ――」


「行かん」


 即答だった。


 白い空間に、沈黙が落ちる。


「……は?」


「今日は買い出しだ」


 勇者田中は腕を組んだまま、当たり前のように言った。


「魔王城に行く前に、道具屋だ。常識だろうが」


(……来ました)


 エリュシアは目を閉じた。


(この方、本当に世界を救う気あります?)


(いや、結果的に救うんでしょうけど、過程が地味すぎる)


「ぬ……。我は千年、力で支配してきたが?」


「だからダメなんだろうが」


 即否定だった。


「装備・消耗品・補給線を軽視するやつは三流だ」


「……三流」


「強いから勝てる、は素人だ。準備で勝率を上げるのが常識だろうが」


 ネネは黙った。


(……なぜだ。我は魔王だぞ)


(なぜ、正論を言われている気がする)


「ですが田中さん、あなたは既に――」


「黙れ」


 ぺしっ、と軽く頭をはたかれる。


「……っ!」


 エリュシアは顔をしかめた。


「無礼ですよ!」


(なんで従ってるの私……)


「……わかりました」


******


 街に出た。


 石畳の通り。露店。武器屋。防具屋。道具屋。


 魔王ネネはきょろきょろと辺りを見回した。


「……人間の街というのは、こうなっておるのか」


「普通だろうが」


 魔王ネネが堂々と一歩踏み出す。


 漆黒の鎧。深紅のマント。巨大な角。


 明らかに浮いている。


 勇者田中が、それを見て即言った。


「お前はとっととそのコスト意識皆無の鎧を売り払え」


「は?」


 ネネが止まる。


「な、何を言っておる」


「見りゃわかるだろうが。無駄の塊だ」


「無駄ではない! これは威圧のための――」


「維持費いくらだ」


「……」


「言え」


「……知らぬ」


「論外だ」


 即死だった。


「魔王が自分の装備コスト把握してないとか、経営破綻してるのと同じだぞ」


「経営……」


「その装飾、全部外せ。宝石も売れ。軽くして動きやすくしろ」


「う、売る!?」


「固定費削減だ」


「我は魔王だぞ!?」


「だからだろうが」


 即答。


「無駄な威圧より、実用性だ」


「……」


(な、なぜ反論できぬ……)


******


 そのまま歩き出す。


 そして――


 勇者田中の視線が、横に動いた。


 女神エリュシアを見た。


「な、なんでしょうか?」女神が言うが、勇者田中は無視する。


 じっと見た。


 上から下まで見た。


 もう一度見た。


「……なんだその格好」


「は?」


「露出が高すぎる」


「露出!?」


「胸も肩も出てる。布が足りてない」


「足りてます!」


「お前に、恥じらいはないのか?」


「!?」


 エリュシアの顔が一瞬で赤くなる。


「な、な、なにを言っているのですか! これは神衣で――」


「防御力ゼロだろそれ」


「ゼロではありません!」


「じゃあ殴られて耐えられるのか」


「……」


 沈黙。


(殴られる前提……!?)


「問題ありません!」


 エリュシアは言い切った。


「私は女神です! 死んでも生き返ります!」


 間。


 勇者田中は即答した。


「コスパ最悪だな」


「!?」


「一回死ぬたびにロス出るだろうが。時間も手間も」


「そ、そういう問題では――!」


「戦闘中に復活前提で動くやつは信用できん」


「信用!?」


(なんでそこに繋がるの!?)


「あと動きづらいだろ、それ」


「動きづらくありません!」


「走れるのか」


「……」


「全力で」


「……」


 沈黙。


(……無理、かもしれない)


「だろうが」


 断言。


「実戦想定が甘い。やり直しだ」


「やり直し!?」


「布増やせ」


「嫌です!」


「じゃあ死ぬな」


「極端すぎません!?」


(でも……ちょっとだけ……動きにくいのは……)


「……わかりました」


 結局折れた。


(なんで従ってるの私……)


 ネネがぼそっと呟いた。


「……我の鎧のほうが、まだ布が多いぞ」


 そんなやり取りをしつつ、

 勇者田中は迷いなく一軒の道具屋へ入った。


******


「いらっしゃい」


 店主が顔を上げる。


 ネネは迷わず商品を指差した。


「それを寄越せ」


「150ゴールドです」


「よし、払――」


「高い」


 横から、勇者田中が口を挟んだ。


「は?」


 店主が眉をひそめる。


「さっき見た店だと同じ品質で120だった」


 空気が変わる。


(……見て回っていたのか)


 エリュシアがわずかに目を細めた。


「うちは質がいい」


 店主は即座に返す。


 勇者田中は無言で商品を手に取った。


 指で触れる。


 少し引っ張る。


 縫い目をなぞる。


「……ここ、ズレてるな」


「!」


「革も乾いてる。長持ちしない」


 店主の顔が引きつった。


(な、なぜそんなことがわかる……!?)


 ネネは目を見開いた。


「この品質で150はぼったくりだ。100が妥当だな」


「無理です!」


「そうか」


 勇者田中は即座に背を向けた。


「じゃあいい。他行く」


「――待て」


 店主が呼び止める。


「……120でいい」


「110」


「……115」


 間。


 勇者田中は棚を見渡した。


「これとこれとこれも買う」


「……!」


「まとめて100にしろ」


「それは無茶だ!」


「じゃあいい」


 再び背を向ける。


「……100でいい」


 店主が吐き出すように言った。


 決まった。


******


 店を出る。


 ネネは固まっていた。


「……50も下がっておる」


「当たり前だ」


 勇者田中は袋を持ち直す。


「交渉は情報戦だ」


(……戦わずに勝っている)


 ネネは、初めてそう思った。


 田中は歩きながらタバコに火をつけた。


 道行く人間が振り返る。異世界の住民には、あの白い煙が見慣れないものらしかった。


「なんだそれは」


 ネネが初めて聞いた。


「タバコだ」


「煙を吸うのか」


「そうだ」


「……なぜ」


「習慣だ」


(内心:「習慣だから」で終わるのが一番困ります)


「魔道具か?」と声をかけてきた通行人がいた。

田中は手の中のライターを見せた。


「百円だ」


「なんですか百円って」


「知らんでいい」


 ネネが煙を見ながら黙っていた。何か言いたそうだったが、言わなかった。


******


挿絵(By みてみん)


******


「……や、安くせよ」


 別の店。


 ネネが真似をした。


「無理です」


 即終了。


「……」


「交渉になってない」


 勇者田中は即切り捨てた。


「相場を知れ。欠点を見ろ。逃げ道を作れ。それが基本だ」


「……む、難しい」


(魔王が苦戦しているの、初めて見た)


 エリュシアは少しだけ笑った。


******


 帰り道。


 ネネは袋を抱えたまま、ぽつりと言った。


「……なぜ、そこまで値段にこだわる」


 勇者田中は歩きながら答えた。


「無駄だからだ」


 少し間を置いて、


「|"無駄は、人を殺す"《デッドコスト》」


 ネネは何も言わなかった。


 エリュシアも、何も言わなかった。


******


「明日から動く」


 宿の前で、勇者田中が言った。


「ついに魔王城か!」


「違う。鍛冶だ」


「まだ準備するのか!?」


「当たり前だろうが」


 ネネは頭を抱えた。


(この勇者、魔王より面倒くさいのでは……?)


******


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     第3話「魔王城より先に、道具屋を落とせ」 了

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※おじさん解説!

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 本日、勇者田中は道具屋を一軒落とした。


 戦闘はしていない。

 だが結果は圧勝である。


 交渉とは、

 相場・品質・逃げ道の三点で決まる。


 なお、魔王は値切りに失敗した。


━━━━━━━━

※魔王より一言

━━━━━━━━

 値切りというものを覚えた。

 なかなか楽しい。


 だが三割はやりすぎだと思う。



******


※魔王軍四天王ゾルグの魔王様奪還日誌 第0回


決意:魔王様が城を出て、三日が経過した。

   俺は取り戻す。必ず取り戻す。


実施:まだ動いていない。


理由:予算が未計算だったからではない。

   スケジュールが未調整だったからでもない。

   戦力の再編成に時間が必要だったわけでも、断じてない。


   ただ、フィルナが「計画書、整理しといてあげましたよぉ~」と言って

   何かを捨てた。なんで。


結果:計画書がない。


反省:次回は鍵のかかる引き出しに保管する。


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会話劇が面白いですね、最高です。 これからも読ませていただきます。
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