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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「懐かしい匂いがする」

道中に、寄り道がある。


 Aクエストへの道程は、想定より長かった。


 田中剛は黙って歩いていた。グラが肩の上で鼻をひくひくさせている。


「師匠!(ぜえ)Aクエストの(ぜえ)目的地はどこですか!!(ぜえぜえ)」


 アルスが腕立てしながらついてきた。追加腕立て1万回は――まだ続いていた。


()()()がある」


「Aクエストに(ぜえ)ついでがあるのですか!!」


(あります。この方の場合は)

 エリュシアは内心で静かに処理した。


******


 少し前、街道の脇道で、ショウからの伝令が来た。


「田中さん、ちょいとよろしおますか。王都から二日ほど内陸に、妙な集落がおますんや。

住民が古い言葉を使うとか……田中さんが知ってはりそうな言葉でっせ」


 田中が止まった。


「……何だと?」


 全員が内心で「珍しい」と思った。


「寄るぞ」


「Aクエストはどうするんだ」とグレインが言った。


「そっちが、ついでだ」


「……なるほどね」


(今回は私もわかりません。グレインは何にもわかってません。いつものことです)


 エリュシアは内心で正直に処理した。


******


 街道を外れ、内陸へ二日。


 木造の家。引き戸。縁側。軒先に「田」の字の家紋が並んでいる。


 田中の足が、一瞬だけ止まった。


「……懐かしい匂いがする」


 声に出したのはそれだけだった。


 グラが肩の上で鼻をひくひくさせた。


「なぜここの人は変な言葉を使うのだ」とネネが言った。

 彼女が言う通り、この集落の人間はネネたちが分からない言葉をしゃべっている。

 書かれている文字も、異世界の人間には読めないようだ。――つまり()()()()()()


「うるさい」


 住民が警戒している。外様(とざま)を寄せつけない目だ。


 集落の代表が出てきた。年のころは二十二ほどの、口下手そうな男だった。


 (日本語で)「……よそ者だな。この里へ何しに来た」


「先代に会いに来た」


「先代は死んでいる」


「ならば、この里の記録を見せてほしい」


 男が黙った。


「お前……なぜ日本語・・・・を知っている」


「同じ出身だからだ」


 長い間があった。それから、中に招き入れた。


******


 田所一郎の日記は、()()()で書かれていた。


「今日も飯を食った。生きている」


 それが、ずっと続いていた。


 遺言書には、二行だけあった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「後半の意味がわからなかった」と男が言った。

「だから我々は、先祖代々、前半だけを守ってきた」


 田中が言う。

「後半を読んだことがあるか」


「……意味がわからなかった」


「半分で満足するな。お前ら全員**論外(アウト)だ**」


 グレインが無言で遺言書を読んでいた。「なるほどね」が出なかった。手だけが止まっていた。


(グレインさんが黙っています)


 エリュシアは内心で確認した。


(今回は本当に、わかっているのかもしれません)

(でも日本語、読めるのでしょうか......)


 田中が日記の最終ページを開いた。


「今日も飯を食った。生きている」


 田中は何も言わなかった。


(……よくやった)


 声には出なかった。


******


 食事が出た。


 白い飯。味噌に近い香りのする汁。それから、茶色いねばねばしたものが小鉢に盛られていた。


 ネネが白い飯を一口食べた。


「……なんだこれは」


「うまいですね!!」とアルスが言った。

 腕立ては一時停止していた。しかしすぐに腕立てを再開しはじめた。

 腕立てしながら器用に食事を食べている。


「温かい……」とエリュシアが言った。「体に入ってくる感じがします」


 全員が汁を飲んだ。


「なんだこれは……うまい」


「なんか、ほっとする」


「……我、もう一杯いける」


 田中は無言で器を差し出した。おかわりをする。二回目。三回目。よく食べた。


 それから、茶色いねばねばしたものに全員が気づいた。


「……なんだこれ」とネネが言った。


「においが」とアルスが言った。


「ねばねばしています」とエリュシアが言った。


納豆(なっとう)だ」と田中が言った。「食え」


 全員が一口食べた。


 ネネが器を置いた。


「……無理だ」


「においがだめです」とエリュシアが言った。


「ちょっと……俺も」とグレインが言った。


「師匠、(ぜえ)これは(ぜえ)……」


「出されたものは黙って食え」


「「「「……」」」」


「給食の基本だ。常識だろうが」


(給食とは何ですか)


 エリュシアは内心でつぶやいた。


(でも田中さんが「常識だろうが」と言っています)

(逆らえません)


 全員が渋々口をつけた。全員が顔をしかめた。だれも二口目を食べなかった。


 田中が全員の小鉢を引き寄せた。


 黙って、全部平らげた。


「……馬鹿か。これほどうまいものがあるか」


 全員が田中を見た。


「……勇者よ」とネネが言った。「お前は、本当に、何者なんだ」


「田中だ」


(そうです)


 エリュシアは内心で静かにうなずいた。


(それだけで、充分なのだと思います)


******


「……名前が長い。ハドソンだ」


 帰り際、田中が男を見て言った。


「……なぜハドソン」


「北の土地を開いた。北海道だ。ハドソンという、北海道を開いたゲームメーカーがある。桃太郎電鉄を作った。ボンバーマンを作った。お前の先代と同じだ。開拓者だ。だからハドソンだ」


 いつもより説明が長かった。


 全員が黙った。


(……田中さんが)


 エリュシアは内心で一行だけ書いた。


(今日、一番長く話しました)


「……わかった」とハドソンが言った。なぜか、納得していた。


******


「森の記録者というエルフがいます。古木の森の。先代の足跡を八百年分、書き残したと聞いています」


 田中の歩みが、一瞬だけ止まった。


「……そうか」


 それだけ言って、前を向いた。


(田中さんが今日、二度止まりました)


 エリュシアは内心で静かに記録した。


(いつもは、止まらない方です)


「また来るのか」とネネが言った。


「飯が安い」


「それだけですか!!(ぜえ)」とアルスが言った。


「……なるほどね」とグレインが言った。今回は少しだけ、顔が違った。


******

 その頃、神界では―

 白衣に技術職の印章をつけた女神が、書類を差し出した。ウルダの同僚だ。


「田中が田ノ里に立ち寄りました。田所一郎の記録を閲覧しています」


 ウルダが止まった。

「……田所一郎の記録は、削除済みのはずだが」


 「ハドソンが隠し持っていたようです」


 しばらく沈黙があった。


「……寛大に、対処します」

 (寛大ではない案件が、増えてきました)


******



※神界業務日報 第二十九回


本日の業務記録。


田ノ里到着:確認。

田中さんが「懐かしい匂いがする」と言いました:記録しました。

田所一郎の記録閲覧:完了。

ハドソン命名:完了。説明が長かったです。記録します。

納豆:全員が無理でした。田中さんだけ「これほどうまいものがあるか」とのことです。

田中さんが今日、二度止まりました。特記事項として記録します。


以上です。


******


※田所一郎の日記 第一回


今日も飯を食った。生きている。

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