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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「出発の朝は、なぜか忙しい」

出発の朝は、なぜか全員ついてくる。

 チュン、チュン――と鳥の鳴き声が聞こえる朝。

田中剛は宿の一室で、野球盤の最後の一台を仕上げていた。


 グラが完成品の角に乗ろうとしたので、田中が止める。

「やめろ。在庫が減るだろうが」


「グゥ」


「……どけ」


 動かなかった。


「どけ」


「グゥ~」


「……どけ」


 グラがどくまでに、三回もかかった。

 そのため、田中がショウを呼びよせ、五台まとめて預けることとした。


「今日中に市場に流せ。いいな」


「もちろんですとも。お代は見てのお帰りで――」


 ショウが消えた。


 グラが田中の肩に乗り直して、鼻をひくひくさせた。


******


 Aランククエストのため、出発の荷物をまとめていると、宿の入口に人影があった。


 腕組み。無表情。整った顔つきに、有能さと意地の張り方が同時に出ている。女獣人だ。


 ネネが腕を組んだまま、入口をちらと見た。


「……おお。グレイン。来たのか」


「ああ」


 グレインが中に入った。


「ゾルグには任せられない。それだけだ」


 田中が一秒、見た。


「お前、コスト計算できるか」


「当然」


「ならば来い」


「俺は貴様を……認めてない」


「わかった。来い」


(四天王第二席が、理由を《《二言》》でなし崩しにパーティ合流しました)

(いいんですか、魔王軍、それで!?)


 エリュシアは内心で静かに(?)処理した。


(グレインさんが「認めてない」と言っている間、顔が少しだけ動きました)

(記録します)


「俺は、魔王様に会えても、喜んでなんかないからな」とグレインが言った。


「そうか」とネネが言った。


******


 出発の準備が整ったころ、足音がした。


 ドタっドタっと、リズミカルな音が宿の外から近づいてくる。

重い。連続している。妙にリズムがある。


 角を曲がって現れたのは、アルスだった。


 彼はなんと、腕立て伏せをしながら、手と足だけで地面を進んでいた。腕立てで走っていた。前に向かっていた。真剣な顔で。腕立て走りだ!


「た、田中師匠!!(ぜえ)まだ(ぜえ)五十回残ってます(ぜえ)!!」


 田中が三秒、彼のほうを見た。


「……何をしている」


「腕立て千回です!(ぜえ)走りながらやれば(ぜえ)移動と並行できます!!《《効率化》》です!!師匠!!」


 田中が止まった。


「……お前」


「はい!!(ぜえぜえ)」


「それ、いつ思いついた」


「昨夜です!!師匠が出発すると聞いて!!腕立てしながら来れば間に合うと!!」


「効率化が進んでいる。PDCAやってるな」


 グレインが腕組みしたまま静かに言った。


「……なるほどね」(何もわかってない顔)


(効率化、とは)


 エリュシアは内心でしばらく止まった。


(確かに移動と鍛錬を同時に行っています)

(論理は、通っています)

(通ってしまっています)

(あとPDCAって異世界人わかるわけなくないですか、田中様.....)


 田中が歩き出した。


「アルス、いいだろう」

「一緒に来い。残りは道中でやれ」

「あと一万回追加だ」


「はい師匠!!」


 アルスが腕立てしながらついてきた。


 ネネが静かに言った。


「……腕立てで旅をする勇者は、千年で初めてだろうな」


「二千年だろうが初めてだと思います」とエリュシアが言った。


 グレインが小さく「なるほどね」と言った。二度目だった。どう見てもわかってない顔をしていた。


******


 道中が王都の門に向かおうとしたとき、光の柱が降りた。


 白衣に金の装飾。主神ウルダだった。その威光(いこう)だけは本物だった。


「田中よ。Aクエスト出発前に、天界の正式登録書類の確認が必要だ。手続きとして規定されており、これは――」


「”SEGA”は神だ」


 ウルダが止まった。


「……何?」


「やることは派手だが、外し続ける。SEGAは神だ。お前のことだ」

「これからは派手なお前はSEGA神と呼ぶ」


「………………わかりました」


(なぜか言わされました)

(ウルダ様も納得がはやすぎます)

(でもそれが田中の能力(ちから)なのかも)


 エリュシアは内心で確認した。


S()E()G()A()()()()()()()です)


 グラがウルダの光の柱の前で「グゥ」と鳴いた。そのままネネの頭に乗った。


 ウルダがわずかに威光を強めた。


「グゥ!」


 まったく動じなかった。


「資産だ」と田中が言った。


「……翼竜に動じてもらえませんでした」とウルダが言った。


 アルスが腕立てしながら顔を上げた。


「あの方は……(ぜえ)どちら様ですか」


「なんか、偉い人。主神らしい」とネネが言った。


「(腕立てしながら)主神様が……翼竜に……!?」


「なるほどね」とグレインが言った。三度目だった。もはや《《相槌》》になっていた。――でもやっぱり何にもわかってない顔をしていた。


(グレインはいい加減わかってないならわかりませんと素直に言えばいいのに)


 エリュシアは内心で記録した。


(こんなの報告できるわけがないです......)


******


 何とも言えない顔で主神・ウルダ(SEGA神)が天界に帰った後、

野球盤を売りにいっていたショウが戻ってきた。少し顔色が悪かった。


「田中さん、あの……神官ギルドの祭壇に、天使族エリュシアシールが奉納(ほうのう)されていまして。本物の聖具(せいぐ)として、朝の礼拝(れいはい)が始まってますぜ」


(本日の私の所在:祭壇に飾られています)

 エリュシアは内心で一行だけ思った。


「……田中さん」


「何だ」


「在庫の回収、していただけないでしょうか」とエリュシアが言う。


「回収したら収益が減る」


「……わかりました」


(何もわかっていませんが)

(でも反論が出てきません)

(女神としておかしいと思います)

(思うのですが)


 アルスが腕立てしながら顔を上げた。


「女神様が祭壇に!?(ぜえ)それは、《《大丈夫》》なのですか!?」


「なるほどね」とグレインが言った。四度目だった。やっぱりわかってない顔だった。


(大丈夫ではないのですが)


 エリュシアは内心だけで続けた。


(「わかりました」と言ってしまいました)

(グレインはもう知ったかぶり狼女ということにしておきましょう......)


******


「よし出るぞ。全員ついて来い」


 田中が立ち上がった。


 田中、エリュシア、ネネ、グレイン、グラ。


 アルスが腕立てしながらついてきた。腕立ては残り三十二回+追加一万回だ。


 王都の門を抜け、エリュシアが一度だけ後ろを見た。


(採寸:完了。スローパンチ:初使用済み。SEGA神:命名済み。祭壇:飾られています)

(Aクエスト。この方と)

(……行きます)


 グラが肩の上で「グゥ」と鳴いた。冒険がはじまる。


******


 その頃、神界では―

すれ違った下級神が、ウルダに一礼した。

「お疲れ様です、SEGA神様」


 曲がり角の向こうで、くすくすと笑い声がした。ウルダは止まった。


「……私は怒りません。神は寛大です」

(……SEGAとは何だ)

(調べてはいけない気がする)

※神界業務日報 第二十八回


本日の業務記録。


グレイン加入:確認。理由:二言。あと人の話を聞いていません。わからないならわからないといいましょう。

SEGA神命名:完了。命名者:田中剛。私ではありません。

翼竜がSEGA神に動じませんでした:記録しました。記録欄:不足。

祭壇化:確認済み。

在庫回収申請:却下。却下者:田中剛。理由:収益減少。

アルスが腕立てで旅に合流しました。本人曰く「効率化」とのことです。

Aクエスト出発:完了。


以上です。


追記。

「なるほどね」が本日四回ありました。

グレインの相槌として記録します。知ったかぶりです。


※魔王の家計簿 第二十八回

本日の収支。

グレイン加入:支出0G。


「俺は認めてない」と言っていた。顔は少し嬉しそうだった。記録済み。

「なるほどね」:本日四回。


内訳:効率化1回、SEGA神1回、主神と翼竜1回、祭壇1回。

全部わかっていない顔だった。

我はわかっていないならわかっていないと言える勇気のほうが大事だと思う。

翼竜がSEGA神に動じなかった:支出0G。グラはよくやった。

エリュシアが祭壇に飾られている件:支出0G。

エリュシアは「わかりました」と言っていた。わかっていない顔だった。

グレインと同じだ。

Aクエスト出発:完了。報酬は五十万G。

田中なら問題ない。

……なぜそう思うのかは、書かないことにする。

以上。


******


※ゾルグ奪還日誌 第二十八回


本日の情報。


グレインが合流した。

理由:私では任せられないとのこと。

……承知しました。


魔王様のお顔が、王都の子供の首にかかっていた。

尊厳の見積もりを取る予定だ。


奪還計画の修正を要する。

方法については、再考する。


以上。

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