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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「娯楽がない。作る」

二章開幕です。

王都への道は、想定より長かった。


田中 剛(中身46歳・見た目17歳・全項目チート・節約勇者)は、街道を歩きながら昨日のことを考えていた。


廃砦の最奥で、一瞬だけ、(チート)が消えた。


田中の製造管理23年の現場勘が言っていた。設備の不調には必ず前兆がある。無視してはいけない。


「……おいエリュ」


俺のチートに加え、ネネの魔力も、エリュシアの神力も、まともに機能しなかった。

あの何かは何だったのか。


「……私も調べました」


聞く前に答えが返ってきた。


「神界の書類に、記録がありません」

「そうか」

「あの封印の形式も、既存の魔道具のどれとも一致しません」


田中は少し黙った。


「……わかったら言え」

「……わかりました」


(……記録にない、ということが)

(一番、気になります)


それだけ言って、前を向いた。

ネネが二人の顔を見た。「……難しい話か」

田中「後でいい。今は王都だ」


(……この方は、待てる人だ)

(23年間、ずっとそうだったのかもしれない)


ネネが田中の隣に並んで歩き始めた。

「剛よ。難しい顔をしておるぞ」


「娯楽のことを考えていた」


「……たのしみ、か」


「この世界、娯楽が少なすぎる」


田中は街道の両側を見た。草原。森。草原。農村。草原。また草原。


「俺が子どもの頃はな、ベーゴマ一個で一日遊べた。めんこも、キン消しも、ガンプラも、ミニ四駆、ファミコン、それに外遊びだ――一人でも、友達とでも、時間が無限に潰せた。この世界には()()()()


ネネ「……剣と魔法、かのう」


「それは仕事だ。趣味じゃない」


ネネ「……我も、剣と魔法は仕事であった」


「だろうが。だから娯楽がいる」


エリュシア「……勇者活動に休暇の概念は想定しておりませんでした」


田中「お前はバカか。これは投資だ。休まない機械は壊れる。常識だろうが」


エリュシア内心:(機械扱いです)(でも論理は正しいのが腹立たしい)(あとバカって言われました...)


******


しばらく歩いて、田中の脳内で歯車が回った。


「……野球盤だ」


「やきゅうばん?」


「知らんか。台の上でピッチャーが球を投げて、バッターが打つゲームだ。子どもの頃、友人の家にあった。一日中やった」


ネネ「……で、どうするのだ?」


「作る」


エリュシア「……誰が」


「俺が」


三秒の間があった。


「鍛冶スキルがあるだろうが。木と金属で作れる。この世界の奴らは野球を知らないから物珍しがる。物珍しいものは売れる。売れれば儲かる。儲かれば冒険が楽になる。常識だろうが」


エリュシア内心:(鍛冶スキルを娯楽品の製造に使う発想が私にはありませんでした)

(でも論理は……正しい)(また正しい)(なぜいつも正しいんですか)


ネネ「……我にも作れるか」


「材料費と手間賃は自分持ちでやれ」


ネネ「……わかった」


(なぜか楽しそうです...私は入れてくれないんですか...?)

(もしかして、役立たずと思われてるのでしょうか)



などとエリュシアが女神としての威厳もへったくれもない妄想をしているころ、

田中はすでに頭の中で設計図を展開していた。


ピッチャー機構。バッターの角度。ストライクゾーンの設定。材料の調達先。原価。販売価格。回転率。損益分岐点。


「……いずれSEGAのロボピッチャーも作りたい」


「せが?」


「昔のゲームメーカーだ。派手なものを作る。外し続ける。でもたまにとんでもないものを出す」


ネネ「……なんだそれは」


「夢があるが儲からない。すごいが普及しない。好きになったら一生ついていく奴がいる」


ネネ「……なんか切ない。だがすごいのだな」


田中「そうだな。でもそーいうとこが、嫌いじゃない」


エリュシア内心:(SEGAが何かは私にはわかりません)

(でも「嫌いじゃない」と言いました)

(この方が何かを「嫌いじゃない」と言うのは珍しいです)

(記録します)


******


「それと」と田中は続けた。「シールも作る」


「……シール?」


「絵のついた小さい紙だ。子どもの頃、チョコの箱に入ってた。集めるやつだ。悪魔と天使が戦うシリーズが流行ってな」


ネネ「……それも売るのか」


「売る。キャラクターが必要だ」


田中はネネとエリュシアを交互に見た。


何かを値踏みするような、ビジネスライクな目だった。


エリュシア「……何ですか」


「お前ら、そこに立て」


「……は?」


「いいから立て」


ネネ「……何ゆえ我が立たねばならぬ」


「キャラクターが必要だと言った。儲かる。経費削減に協力しろ」


沈黙が三秒続いた。


エリュシアとネネは顔を見合わせた。


「「…………わかりました」」


なぜ従っているのか、二人とも理解できていなかった。


エリュシア内心:(本日の特記事項:シールのモデルになりました)(書く欄がありません)


******


同じ頃。魔王城・第四会議室。


「では! 作戦会議を始めます!!」


ゾルグが立ち上がった。広大な地図を机に広げ、作戦名を高らかに読み上げた。


「作戦名:|魔王奪還・絶対成功計画オペレーション・リターン。今こそ魔王様をあの節約勇者の手から取り戻す時!!」


第二席・グレインが腕を組んだ。「……一個だけ聞いていい」


「何でしょう!」


「田中って、能力10倍チートもってる無敵の勇者よね」


「…………そ、そうですが」


「お前ごときで何とかなると思ってるの?」


「今回は違います! 二世部隊(にせぶたい)三十名を編成しました! 鉄壁の布陣です!!」


グレイン「……二世?」


「私の薫陶(くんとう)を受けた精鋭です!」


「……あなたの劣化コピーが三十人いても、合計してもあなた一人分にならないでしょ」


「き、鍛えました! 多少は!」


「多少」


「多少は!!」


フィルナが手を挙げた。「あの、わたし、ネネちゃんのそばにいたくてぇ……」


「フィルナ殿! それはつまり奪還に協力していただけると!!」


「えっ、あ、そういう意味では~……」


「ありがとうございます! 作戦に組み込みます!!」


「あの、ちょっとぉ(話きいてぇぇ~~)」


ゾルグは地図をビシッと叩いた。「まず北の街道から王都を包囲! 東から陽動! 西から本隊が突入! フィルナ殿が魔王様を確保! 完璧です!!」


グレイン「……そのあとは?」


「そのあと、とは?」


「田中がいるだろ」


「…………に、二世部隊が」


「三十人で何とかなると」


「…………な、何とかします!!」


グレイン「…………」


(なんでこの人が第四席なのか)

(いや、わかってる)(わかってるけど改めて思う)


「……俺も行く」


「グレイン殿!!」


「勘違いしないで。ゾルグに任せたら何が起きるかわからないから、自分で確認しに行きたいだけだ」


「それは合流ということでは!」


「違う」


フィルナ「やったあ! 三人で行けるね~!」


グレイン「……三人じゃないし合流でもないし」


フィルナ「ネネちゃんに会えるよ~!」


グレイン「……それはまあ」(なぜ同意した)


ゾルグ「では出発は明後日!! 準備を!!」


グレイン「……準備って何があるんだ?」


ゾルグ「……二世の整列です」


グレイン&フィルナ「…………」


(無駄すぎて言葉が出ない)


******


同じ頃。魔王城・執務室。


第一席・ゼフィーラは一人、書類を精査していた。


固定費の試算。人件費の見直し。魔道具(まどうぐ)の維持費。節減の余地を探して、積み上がった書類を一枚ずつ確認していた。


「……待って」


一枚の書類で手が止まった。


神界からの定期通達。形式は正規のものだった。だが。


(……この書類、私が依頼した記憶がない)


(誰が……)


ゼフィーラは書類を裏返した。決裁印を確かめた。


わずかに、眉が寄った。


(……これは)


窓の外、王都の方向へ目をやった。


しばらく、動かなかった。


******


街道の夕暮れ。


「今日はここまでだ」と田中が足を止めた。


「宿はありますか」


「ない。野宿だ」


「……節約ですか」


「節約だ」


ネネが空を見上げた。星が出始めていた。


「……剛よ」


「何だ」


「野球盤とやら、本当に作れるのか」


「作れる」


「……楽しいか」


「楽しいかどうかはやってみないとわからん」


「……そうか」


田中は少し間を置いた。


「ただ」


空を見た。ネネと同じ方向の、同じ星を。


「作ったもので誰かが喜ぶのは、悪くない」


ネネは何も言わなかった。


エリュシアも少し離れたところで聞いていた。


(……作ったもので誰かが喜ぶのは、悪くない)


(記録にあります)

(田中22歳の3月。ラインを一人で直した翌朝、現場の若い子が「動いてる」と言ったとき、田中剛は何も言いませんでした)

(記録には「特記なし」と書きました)

(……今なら、書けるかもしれません)


「寝るぞ」と田中が言った。


「早い」とネネが言った。


「明日も歩く。節約だ」


「宿代の節約か」


「体力の節約だ」


ネネはまた空を見た。「……なるほど」


エリュシアは黙って、毛布の準備を始めた。


(明日も続きます)

(この方がいる限り)

(…………それで、いいです)

※神界業務日報 第25回


本日の勇者田中剛の行動について報告します。


歩行:通常。発言:多め。

特記事項:

「娯楽が少なすぎる」とのことで、野球盤・シール等の製造計画を立案されました。

私と女魔王ネネは、シールのモデルとして立つよう要求されました。

理由:「キャラクターが必要だ。経費削減に協力しろ」。

私:女神です。でもモデルに協力してしまいました....。悪い気分じゃなかったです。


夜、「作ったもので誰かが喜ぶのは悪くない」と言いました。

田中22歳・3月の記録と照合しました。

報告書には書きません。

以上です。


※魔王の家計簿 第25回


本日の支出:野宿のためゼロ。

本日の収入:なし。


田中が野球盤を作ると言っていた。やきゅうばんが何かはわからない。

「作ったもので誰かが喜ぶのは悪くない」と言っていた。

我は今まで誰かを喜ばせたことがあったか、少し考えた。

……よくわからなかった。


でも、悪くない、かもしれない。

明日も歩く。節約らしい。我は別に構わない。

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