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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

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「廃砦の依頼は、条件から変える」

依頼書には、条件が足りなかった。

リッカさんには、名前が届いていなかった。

ルコには、もっと根本的な問題があった。

 廃砦のクエスト依頼書(いらいしょ)が届いたのは、翌朝のことだ。


 ギルドから派遣(はけん)された地方官吏(かんり)が、分厚い書類を両手で持って王道亭の食堂に現れた。テーブルの上に置いて、緊張(きんちょう)した顔で口を開く。


「勇者殿。ベッカー郊外(こうがい)廃砦(はいさい)についての調査・掃討(そうとう)依頼になります。報酬は完了後(かんりょうご)成功報酬(せいこうほうしゅう)として——」


()()


 田中が書類を受け取った。二十秒ほど目を通して、返した。


「条件が足りん」


 官吏が固まった。


「……は?」


「成功報酬だけで動く理由(わけ)がない。準備費用を先に出せ。ポーション代、消耗品(しょうもうひん)代、往復の日数分の宿代(やどだい)。全部算出(さんしゅつ)して前払いしろ」


「そ、それは前例が……」


「失敗した場合の規定(きてい)もない。書け」


「えっ」


「リスクを負う側が条件を決める。常識だろうが」


 (……受け取って二十秒で再交渉(さいこうしょう)に入りました。記録(きろく)します)


 官吏が青くなりながら書類を()き取った。ペンを走らせる手が少し(ふる)えている。


 隣でネネが熱心(ねっしん)にメモを取っていた。


「何してる」


「参考になるから記録(きろく)している」


「ネネ……成長してるな」


「もっと我をほめるがよいぞ!」


 (魔王が交渉術(こうしょうじゅつ)をメモしています。神界への報告は特記事項・多数とさせていただきます)


 書き直した依頼書(いらいしょ)確認(かくにん)した田中が顔を上げた。


「ヨシコ、異議(いぎ)はないか」


 リッカが顔を上げた。


異議(いぎ)はないですが、リッカです」


「条件は通ったな」


「通りましたけどリッカです」


 田中はもう書類を()り畳んでいた。


 (……この人、絶対(ぜったい)に名前を覚える気がない)


 * * *


 出発の準備をしているところに、ルコが来た。


「なあ」


 田中が()り向く。


盗賊(シーフ)って……(もう)かるか?」


 全員が止まった。


 (今なんと言いましたか)


 ネネが「……盗賊(とうぞく)」と()り返した。


(つか)まった時のリスクを計算してみろ」


 ルコが何かを頭の中で計算し始めた。真剣(しんけん)な顔をしていた。


 三分後。


「……赤字だ」


「そうだ」


 ルコが少し考えた。


「……じゃあ、商人(しょうにん)ギルドにしなければ」


 (盗賊(とうぞく)志望(しぼう)が「赤字」で消滅(しょうめつ)して商人(しょうにん)ギルドに着地しました。経路が特殊(とくしゅ)すぎます)


 リッカが一歩前に出た。


「ちょっと待ってください! 最初から冒険者(ぼうけんしゃ)になる気なかったんですか!?」


「......俺、数字に強くなりたかっただけだから」


 ルコが真顔で言った。


「えーっ!それ最初に言ってください!!」


「ヨシコ、話は()んだか。出発するぞ」


()んでないですリッカです!!!」


 田中はもう興味がなさげに、外を向いていた。


 * * *


 ベッカーから半日歩いたところで、廃砦(はいとりで)が見えてきた。


 石造りの古い建物が(おか)の上に立っている。(くず)れた(とう)が二本。周囲(しゅうい)の木々は黒ずんでいた。


 田中が足を止めた。


「おい、セーブポイントはどこだ」


 ネネが溜息(ためいき)をついた。


「……また、その話か」


「ありません」


 エリュシアが言った。今度は間を置かなかった。


「何度聞いても、そんなもの!」


「女神のチートスキル、全く使えんな」


「使えないのではなく存在(そんざい)しないのです!!」


 (……(くや)しい。「使えんな」と言われて(くや)しいのに、なぜか……いえ、違います。絶対(ぜったい)に...この感情は違いますわ!)


 ネネが小さく笑った。


「毎回思うが、このパーティは普通(ふつう)ではないな」


「……そうですね」


 エリュシアはもう驚いていなかった。


 廃砦の手前、街道を少し外れた平地で、田中たちは野営の準備を始めた。


「もう(砦は)見えているぞ」とネネが言ったが、

田中は「セーブしてから進む。常識だろうが」と返した。それ以上は誰も何も言わなかった。


 ――遠く離れた岩の(かげ)に、黒い甲冑(かっちゅう)が一瞬だけ見えた。


 * * *


 焚き火に火が入った後、田中が(ふところ)から神タバコを出した。


「……もう二本目か」


 ネネが横から言った。


「今日だけだ」


「いくらだ」


「五百G」


「……(たか)いな」


「そうだな」


 二人とも、それ以上言わなかった。


 焚き火の音だけが続いた。パチ...パチ...


 エリュシアは少し離れたところに立っていた。


 (……明日から、廃砦(はいとりで)ですね)


 声には出さない。




※おじさん解説! 第二十回


「セーブしてから進む」というのは、田中さんの基本方針です。


廃砦(はいとりで)が目の前に見えていても、関係ありません。準備が先です。準備のない突撃(とつげき)でクリアできるのは運がいい時だけで、運に(たよ)るな、セーブしてから進め、これがファミコン世代の基本です。


ルコ君については特記(とっき)する必要(ひつよう)があります。彼は最初から冒険者(ぼうけんしゃ)になるつもりがありませんでした。数字に強くなりたかっただけです。「じゃあ商人(しょうにん)ギルドにしなければ」というのは、合理的(ごうりてき)判断(はんだん)です。道を変えるより、目的を明確にする方が早い。田中さんはそれを知っています。だから「そうだ」しか言いません。


******


※神界業務日報(ぎょうむにっぽう) 第二十回


本日の特記(とっき)事項。


依頼書(いらいしょ)再交渉(さいこうしょう)完了(かんりょう)官吏(かんり)の手が(ふる)えていました。記録(きろく)します。


ルコ君の進路:確定(かくてい)。経路は特殊(とくしゅ)でしたが、着地は正確(せいかく)でした。


セーブポイント問題:今回も解決(かいけつ)しませんでした。「全く使えんな」と言われました。


追記:(くや)しくないです。(くや)しくないのに何かが()っかかっているのは、気のせいです。業務に支障(ししょう)はありません。


追記2:明日から廃砦(はいとりで)です。全員無事(ぶじ)で帰ってきましょう。記録(きろく)します。


******


魔王(まおう)家計簿(かけいぼ) 第二十回


本日の支出(ししゅつ)


・神タバコ 一本 五百G(田中の分)

野営(やえい)消耗品(しょうもうひん) 二十G

・ルコのおやつ代 十二G(立替(たてかえ)


田中の評価:まあまあだ。


ルコが商人(しょうにん)ギルドにすると言った。「じゃあ商人(しょうにん)ギルドにしなければ」という言い方が、なんとなく田中に似ている気がした。田中は「そうだ」しか言わなかった。それで十分(じゅうぶん)だったようだ。


神タバコは今日も「(たか)いな」と言いながら吸っていた。我も「(たか)いな」と言った。田中が「そうだな」と言った。何か会話をしたような気がする。内容は(うす)い。でも(わる)くなかった。


明日から廃砦(はいとりで)クエストだ。収支(しゅうし)は帰ってから計算する。

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