表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章:異世界最強の節約勇者 ――召喚されたのに、まず予算を確認した

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/41

「始めるなら、数字からだ」

 翌朝。魔王軍四天王・フィルナが荷物をまとめて出発の準備をしていた。


 荷物といっても大した量ではない。

小さな鞄一つ。四天王の第三席が持つ荷物にしては、あまりにも質素だった。


「ネーネちゃん、視察終わったから帰るね~!」


 朝から満開の笑顔だった。


 ネネが腕を組む。

「そうか。まあ、元気でな。皆にもよろしく伝えてくれ」

「ネネちゃん……照れてる!」

「照れてない!」


 入口から田中が眺めていた。朝飯の後、特にすることもなく壁にもたれていた。

「お前、また来るのか?」

「うん!」

「来んな」

「えぇ!?」


 フィルナが驚いた顔で田中を見た。田中は表情を変えない。


「来ても飯代が増える。論外(アウト)だ」

「飯代で拒絶されちゃったのーわたし!?」


 (初対面の相手にそれを言えるのですか……)


 エリュシアが小さく咳払いをした。

「フィルナさん、勇者様はこういう方ですので……」

「なんか分かった気がします!」


 (分かったんですか......)


―――――


 出発前。フィルナがネネの前に立った。

 少しだけ、声のトーンが落ちた。


「ネネちゃん」


 ネネが目を向ける。


 フィルナが手を伸ばして、ネネの手をぎゅっと握った。


「楽しそうだったよ」


 それだけだった。説明もなく、理由もなく、ただそれだけ。


 ネネが一瞬だけ黙った。何か言おうとして、言えなかった。


 田中はその間、荷物の端切れを確認していた。見ていなかった。


―――――


 フィルナが去った後、宿の前が少し静かになった。


「騒がしいのがいなくなったな」


 田中がそれだけ言って、中に入ろうとした。


 エリュシアが後ろから言う。

「……少しくらい名残惜しくないのですか?」

「惜しい顔してたか、俺は」

「……していませんでしたが――」

「なら答えは出てるだろうが」


 (でも、ちょっとだけ笑ってたと思います……! どうせ言っても認めないので諦めます!!)


「……わかりました」


 ネネは窓の外を見ていた。何も言わなかった。


*****


 昼になった頃、王都からリッカが宿に来た。B級以上の依頼いらいリストを持っている。昇格候補として、案件の確認に来たらしい。


 ちょうどその時、ルコが朝の仕事を終えて戻ってきた。

 テーブルを拭き終え、エプロンを外して、田中の前に立った。


 真顔だった。


「弟子にしてくれ!」


 沈黙。


 (この方に弟子を……正気ですかルコ君)


 リッカが顔を上げた。

「ちょっと待ってください。この勇者さんの行動、普通の冒険者と全然違うんですよ。D級でダンジョンの収支を計算しながら進むとか、昇格前に手数料を確認するとか、そもそも依頼の前に材料費の見積もりをするとか……それを弟子として教わろうとしているんですか?」


「……で、何を教えてほしいんだ」


 田中はリッカを見なかった。ルコを見ている。


「数字。値切り。あと、なんで『安いだけで買うな』なのか」


 三つ、即答だった。


 田中が少し間を置いた。


「まず()()

「え」

「弟子は最初の三年は走り込みだ。常識だろうが」


 (数字の弟子に走り込みを課しています。数字と走り込みの関係が全くわかりません)


「……数字のことを教えてもらいに来たんですけど」

「基礎体力があって初めて頭が動く」

「基礎体力と数字、関係あるんですか」

「ある」

「……どう関係あるんですか」


 間が空いた。


「……今日は話だけだ」


 (今の「どう関係あるんですか」で折れましたね)


ネネ「我も最初は走らされた」


 ルコが目を丸くした。

「え、ネネちゃんも!?」

「三周した」

「それ何の意味があったんですか」


 ネネが少し考えた。

「……わからん」


 (走り込みの意味、魔王様も理解していませんでした)


 リッカが壁に手をついた。「あのー、私いつまで待ってればいいですかね......」


―――――


 田中がエリュシアを見て言った。


「そうだ。お前、字が綺麗だろ」


 エリュシアの動きが止まった。

「……なぜそれを」

「見てりゃわかる。ルコの練習帳を作れ。数字の書き方から始まる一冊だ」

「私は女神ですよ!? 天界の管理業務がございます!」

「タダで最強の補助戦力が教材を作る。断る理由がない。常識だろうが」


 (また経費削減(コストカット)枠で使われています)

 (でも「字が綺麗」と言われました)

 (見ていたんですか、この方――)

 (――今それは関係ありません)


「……わかりました」


 ルコが遠慮がちに言った。「……女神様って、すごい人なんじゃないですか」


「すごい人だ」とネネが答えた。「だが田中には勝てん」


 (な、なぜそんなに冷静にそれを言えるのですか……! しかも間違っていないのが悔しいです)


 リッカが小声で「あなた方一体どういうパーティなんですか……」と(つぶや)いた。誰も答えなかった。


―――――


「ところで」と、ネネが口を開いた。


「なぜ学費は取らんのだ。機会費用オポチュニティ・コストではないのか?」


 全員が止まった。


 テーブルの上がシンと静まり返る。


 (魔王が機会費用という単語を使いました)

 (一体、どこで覚えたんですか)

 「……いつの間にそんな言葉を」


 「田中に教わった」


 田中が少しだけ間を置いた。

 「……成長したな」


 ネネが黙った。

 (……なんか少し嬉しい)


「学費は不要だ」

「将来、様々な形で黒字で返ってくる。先行投資だ」


 ルコが言う。

「……勉強代って、投資なんですか」

「そうだ。始めるなら、数字からだ。常識だろうが」


 ルコが少し考えてから言った。

「……計算から勉強してみる」


「あの」とリッカが恐る恐る言った。「冒険者になりたいかどうかの話、どこへいったんですか」

「してない」

「ですよね!? してくださいよ!?」


*****


 夕方。田中がポケットから箱を取り出した。

 持ち上げて、軽さを確認する。


 一本だけ残っていた。


 指先で確認して、戻した。吸わなかった。


 ネネが横から見ていた。しばらくしてから言う。

「……今日は吸わないのか」

「明日にする」

「なぜ」

「残り一本だ」


 ネネは何も言わなかった。

 ただ、箱がポケットに戻るのを最後まで見ていた。





 ※おじさん解説!


 「何になりたいか」より「何を目的にするか」が先だ。

 強くなりたい、は動機であって目標ではない。

 ルコは「数字・値切り・理由」と三つ言った。

 それが田中の「始めるなら、数字からだ」を引き出した。

 それだけだ。

 あと走り込みは今でも正しいと思っている。

 三年は長すぎたかもしれないが。



※神界業務日報 第13回


 本日の特記事項。

 宿場の少年が弟子入りを申し込みました。

 教わっている内容:数字・値切り・コスト計算。

 冒険者になるかどうかの話は出ませんでした。

 私は練習帳の作成を命じられました。

 字が綺麗と言われました。業務報告書に記録するか迷いましたが、しました。

 追記:フィルナは帰りました。宿の前が少し静かです。

 追記2:勇者様が残り一本のタバコを「明日にする」と言っていました。

     理由「残り一本だから」。記録します。



※魔王の家計簿 第13回


 今日の支出:変わらず。

 フィルナが帰った。別れ際に手を握られた。

 何か言おうとしたが言えなかった。何を言えばよかったのかは今もわからない。

 ルコが弟子入りした。田中は「数字からだ」と言った。

 我も最初はそう言われた気がする。

 機会費用という言葉を使ったら「成長したな」と言われた。

 少し嬉しかったので書く。家計簿に書いていいのかわからないが書いた。

 田中はタバコを吸わなかった。残り一本だからだそうだ。

 何かを最後に残す気持ちは、少しだけわかる気がした。



※第一席ゼフィーラの業務報告 第1回


 フィルナの視察が完了した。

 消去法での派遣判断は正しかったはずだった。

 追記:誤算だった。

 追記2:グレインが「俺が行く」と言ったことは記録する。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ