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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

無意識人形

掲載日:2026/03/25

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

「あれ? こんなことしたっけな?」


 そう感じる経験、君にはないかい? 自分がやっていないことがいつの間にか起きていたり、場合によってはその逆だったり。

 単なるボケや思い違いなら、まだいい……というのも妙な表現かもだけど、どのような力が働いて自分がそのような行為に至っているか自覚ができないことも多い。

 もし止めてもらえなかったら、どのようなことが起こってしまうのか……。

 最近の弟の話なのだけど、耳に入れてみないかい?


「また、ゴミを出さなかったでしょ!」


 そう怒られたのは、掃除の時間のことだ。

 弟の学校だとゴミ出しは、教室の掃除当番のうち手がすいているものが担当することになる。

 弟は、掃除そのものは手を動かすのが早く、担当した仕事はささっと片付けてしまうのでゴミ出し当番を引き受ける。

 教室のごみ箱に入れている袋を取り出し、口をくくって指定の場所まで持っていく……まではいいのだけれど、いざ掃除の時間が終わると、弟のクラスのゴミ袋が教室外の廊下へおかれているんだ。


 はじめはゴミ出しに不備があって、用務員さんに突っ返されたのかと思ったらしい。

 しかし、回数を幾度か重ねるうちに、証言がちらほら出てくる。

 弟がゴミを持ち帰っている、とのことだった。ゴミを出しに行くまではいいのだが、いったん袋をおいて踵を返し、数歩を歩いたあと。

 なにを思ったか再び向き直って、クラスのごみ袋を持ち上げて、また教室へ戻っていく……一部始終を見たという別のクラスの子の証言は、そのようなものだった。


 弟にはさっぱり覚えがないのだけど、同じような声が増えてくるとどうにも立場がなくなる。

 やむなく、自分以外の誰かにゴミ出しをお願いしようとも思ったそうだ。本当に自分が記憶していないことで、ぼかすか批判を浴びせられるのはきついからな。

 得意げに攻撃する面々も、いざ自分の仕事が増えるとなると嫌な顔をしてくるもの。その点、先生が弟側に立ってくれたこともあって、他の皆がゴミ出しを回すことになった。弟はそれ以外の掃除仕事に集中してほしいと。

 仕事量は増えたが、もともと仕事の早い弟。時間内に終わらせることは苦ではなかった。

 しかし、しばしばクラスメートに手をつかまれて、はっとする。

 たいていの場合、自分は瞬間移動している。厳密には意識のない時間があって、自分は記憶のあった場所にはおらず、友達につかまれたときには別の場所にいる。話をきくに、どうもふらふらと歩いていたらしいんだ。

 うつろな表情のまま、ゴミ捨て場へ向かってね。


 まあ、このときは僕たち家族もにわかには信じられなかったさ。弟は冗談をいうような性格ではないとはいえ、ちょっと突拍子もない内容だったからね。

 けれどもある日、弟が熱を出して学校を休むときがあってさ。ここで僕は弟のいっていたことを目の当たりにしたんだ。

 僕も同じ学校の上の学年だったからね。掃除をする時間なども同じだったさ。今日は例のごみ出しの日で、僕がその係。弟の話していたことを頭の隅に止めながらも、指定の収集場所へ。


 ――やっぱり、なんてことないよな……。


 記憶が飛ぶ、という話から一歩一歩を確かめるように歩いたが、意識に特に問題はなかったはず。

 でも校舎へ戻って、教室への廊下を歩いているとき、気づいちゃったんだ。


 弟が来ている。

 いつも生徒が使っている正門方向ではなく、裏手のプール横にある車が出入りできるような大門。この時間、ゴミを出し終われば人がほぼ出払う、スキだらけのタイミングでもあった。

 靴こそ履いているが、家で着ていたパジャマのまま。速足で弟はゴミ捨て場へ向かっていたんだ。

 ふと、そういえば今日は午後から親が外へ出る用事があり、弟が家でひとりになる時間帯があるのを思い出す。ちょうどいまが、そのころだった。


 ――あいつ、いったい何をしてるんだ?


 先生に話を通すのがスジだろうけど、やはり身内となればアクションを起こしてしまう。

 到着目前の教室から取って返し、昇降口から外へ出るや、ゴミの収集場所へ向かった。

 悪ふざけか、それとも例の話のことなのか。いずれかを確かめるべく急行したのだけど、校舎裏手への曲がり角で。


 ぼふっと、何かにぶつかった。

 どんとか、ばんとか形容できるものじゃない。僕より少し背が低い相手は、あまりに軽かった。

 そして、たちまちいなくなる。ぶつかったと思ったときには、すでに姿はどこにもなく、かわりにゴミやほこりを頭からたっぷりとかぶった僕がそこにいた。


 ――ゴミのかたまり……だったのか?


 身体をぱっぱっと払いながら、僕はなおも先を急ぐ。

 弟はいたよ。ゴミ収集場に。自分のクラスのごみ袋の中で、体中をぐにゃんぐにゃんに折り曲げながら、小さくね。

 大丈夫、命はあったよ。とはいえ、ヨガや大道芸もかくやという無理な体勢だし、僕が触って意識が戻ったらしくて、もう大騒ぎになった。

 人を呼んで、折りたたまれた体を慎重に、慎重に広げていった。骨が折れているところも何か所もあって、いまも入院しているよ。

 そして弟の入っていた袋に、本来詰め込まれているべきゴミたちは、ほとんど残されていなかった。代わりに僕が衝突したあたりは、大量にゴミがまき散らされていたけれどね。


 てっきり、弟が勝手にゴミを持ち帰ろうとしていたと思っていたけれど、問題はそことは別にあったのかもしれない。

 ゴミのほうが弟と立場を入れ替えようと、観察と実践を試みた結果なのかな。

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― 新着の感想 ―
何なのでしょうね。 この微妙なリアリティ、そそられます。
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