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悪夢
夜中、
物音で目が覚めた。
最初は、
風の音かと思った。
次に、
短く息を吸う音が聞こえた。
朝倉は布団から出て、
廊下に出る。
妹の部屋の前で、
足が止まった。
中から、
声が漏れている。
低く、
掠れた声。
言葉になりきらない音が、
何度も途切れながら続く。
朝倉は、
ノブに手をかけるのをためらう。
再び声がした。
今度は、
はっきりとした言葉だった。
「……やめて、
川本先生……」
朝倉の手が止まる。
その後の言葉は、
聞き取れなかった。
布団が擦れる音。
息が乱れる。
朝倉は、
ゆっくりとドアを開けた。
部屋の明かりは消えている。
カーテンの隙間から、
街灯の光が差し込んでいた。
妹は、
ベッドの上で
身体を丸めている。
額に汗をかき、
何度も首を振っていた。
朝倉は、
声をかけない。
ただ、
ベッドの脇に立つ。
しばらくして、
妹の呼吸が
少しずつ落ち着いていく。
目は、
開かない。
朝倉は、
そのまま部屋を出た。
廊下に戻ると、
さっきまでの声は、
嘘のように消えていた。
居間の時計を見る。
深夜二時を少し過ぎている。
取材メモは、
机の上に置いたままだ。
朝倉は、
それを開かず、
その上に伏せた。
妹の部屋の前で、
もう一度だけ立ち止まる。
中からは、
何も聞こえなかった。




