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日常(15)
いつもより少し重く感じる扉を開け、朝倉は鍵を閉めて靴を脱いだ。
居間からテレビの音が流れてくる。母は顔を出さない。
「おかえり」
一言だけ声がした。
「ただいま」
短く返し、朝倉は居間に入り、そのまま仏壇の前に立った。
母は、その見慣れた光景に目も向けず、テレビを見続けている。
「そういえば、愛、就職決まったよ」
画面から目を離さないまま、母が言った。
朝倉は仏壇に手を合わせたままだった。
やがて母の方へ視線を向け、
「そう」
それだけ答えた。
「来週から仕事だって張り切っててね。『早寝早起きしなきゃ』って言って、今日はもう寝てるわよ」
少し間を置いて、母は続けた。
「まあ、あの子も、いつまで続くか分からないけど……このままじゃ、ね」
朝倉は黙って聞きながら、居間を出ようとした。
「ご飯、冷蔵庫にあるから」
呑気な声を背中で受け止め、自室へ向かう。
廊下の途中、妹の部屋の前で足を止めた。
「……ごめん」
小さく呟き、朝倉は自分の部屋に入った。




