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― 樫本晴夫について(3)/元勤務先 工場長 の証言―
取材日時:事件発生から十日後
取材場所:食品加工工場 事務所
「樫本?
半年前まで、
ここにいましたよ」
「仕事は、
真面目でした」
「いや、
真面目なんてもんじゃない」
「この職場、
正直言って
中卒のバカばっかでね」
「時間は守らない、
指示は聞かない、
すぐ辞める」
「そういう中で、
ああいう人間は
貴重ですよ」
「黙々とやるし、
手も早い」
「機械の癖も
すぐ覚える」
「だから、
過去がどうとか、
気にしなかった」
「俺が見てたのは、
今の樫本です」
「……でもね」
「社長が変わってからです」
「新しい社長が、
樫本の過去を
知った」
「呼び出して、
みんなの前で
ボロクソに言ったんです」
「あんな人間、
雇うべきじゃない、とか」
「信用できない、とか」
「その後ですよ」
「樫本が、
泣きながら
俺のところに来た」
「『あいつのせいで』って」
「それを、
何度も、
繰り返すんです」
「壊れたロボット
みたいに」
「誰のことか、
聞けなかった」
「聞いちゃ
いけない気がして」
「そのあと、
辞表を出してきました」
「俺、
社長に掛け合いましたよ」
「謝罪の場も
作ろうとした」
「残れって、
何度も言った」
「でも、
樫本の意思は
固かった」
「最後に言われたのは、
『迷惑かけました』
それだけです」
「口下手だけど、
真っ直ぐなやつでしたよ」
「それは、
間違いない」




