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魔王が滅んだ翌日、戦場に転生した俺は“魔王の生まれ変わり”と勘違いされて育てられた  作者: おにわさ


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災厄の王、遭遇記録

 目の前に立つ少年──ノクス。  その魔力の波動は、明らかに“人外”だった。  だが、決して邪悪なものではない。むしろ、光と闇が調和するような、不可解な感触。


(ふむ、なるほど。これは完全に災厄の王だな)


 ……いや、根拠は特にない。ただ、そう感じた。


 第一撃は威嚇のつもりだった。  だが、少年はあたふたしているだけで攻撃してこない。  ……むしろ、なんか変な単語を叫び始めた。


「バス! 電車! 電気! ビル! コンロ! ライター! 日本刀! ジャパン!」


 俺は思った。


(これが……呪言魔法!?)


 剣を構え直し、警戒レベルを上げる。


「何を言っている……! 何かの魔術か!? だが、魔力の流れは……ない?」


 疑念が渦巻く中、彼がぽそっと言った言葉に反応した。


「転生者……? まさか……!」


「転生者は……私の祖父だが、どうかしたか?」


 少年が固まった。  その顔を見て、俺はまたしても思った。


(なるほど、転生者の血筋を狙っている魔王か)


 完全に的外れな結論だが、俺の中では一本筋が通ってしまった。


 そのとき、彼の背後からぞろぞろと現れる魔族たち。  完全な包囲陣。


「……時間稼ぎだったか! なるほど、知略にも長けた魔王というわけだな!」


 俺は剣を構えたまま叫ぶ。


「祖父の名にかけて! 貴様の企み、ここで断つ!」


 彼が子供であろうと、虫取りしていようと関係ない。


 俺は勇者、使命に従って戦うのみ!


 その瞬間、光が爆ぜた。  勇者カイが聖剣〈アストリア〉を振るうと、閃光が弾丸のように飛び、俺を囲っていた護衛たちを一瞬で吹き飛ばした。


「ぐあっ──!?」「防御陣、意味が……!」


 魔族の精鋭護衛部隊が、息を合わせて結界を張ったはずだった。  だが、次の瞬間にはその全てが粉々に砕け散り、彼らは地に転がっていた。


(ま、まじかよ!? あの護衛たちが一瞬で……!?)


 勇者の持つ力は、俺が思っていた以上に規格外だった。


「おいでよ、災厄の王! 貴様の力、ここで見せてみろ!」


 俺は戦意なんて欠片もないのに、勇者の瞳には俺が恐ろしく立派な“敵”として映っているらしい。


(やべえ……護衛全滅した今、俺が前に出るしかないのか!?)


 フィアが俺の腕をぎゅっと握る。 「ノクス、逃げよう!」


 だが勇者カイは、まるで逃がす気はなかった。  聖剣からさらに凄まじい光が迸り、森全体が昼のように照らされる。


 護衛が全滅した今、俺の背中にはフィアの怯えた気配があった。


(くそ……逃がさなきゃ!)


 この五年間、俺はただ甘やかされていたわけじゃない。  勉強も訓練も、ロゼリアやルア先生の鬼指導で散々鍛えられてきた。  だが──初めての実戦相手が勇者って、聞いてないんですけど!?


(勇者カイって……魔王を倒したやつだろ!? 無理ゲーにもほどがある!)


 俺にあいつを倒せるはずがない。  なら、やることは一つだ。


 俺はフィアを振り返り、必死に言った。 「フィア、走れ! 俺が時間を稼ぐ!」


 その瞬間、勇者カイがにやりと笑った。 「おお、立ち向かうか……! やはり災厄の王!」


(ちげぇよ! 全力で逃がすつもりなんだよ!)


 意を決し、俺は叫んだ。 「よし、行くぞ……!」


 ──そして、さっそうと逃げ出した。


だが――勇者カイは唖然としていた。

 この流れで逃げるやつがいるものか、と怒りに震えているように見えた。


(虚を突いて逃げるのは作戦だっての!)


 それでも、ステータス差はあまりにも明白だった。俺はフィアを庇って走ったが、足の速さ、魔力の届き、周囲の圧力――どれを取っても勇者の方が上だ。


 追いつかれるのは時間の問題だった。


(こうも差があっては戦闘にすらならないな……)


 短い異世界生活の五年。確かに遊んでばかりではなかった。勉強も訓練もした。だが、初めての実戦相手が“勇者”だなんて聞いてない。


(ちょっと待て。俺にあいつを倒せるとは思えない。なら、やることは決まっている)


 少しの抵抗くらいはしてやろう。こいつに罪悪感を植え付けてから死んでやる――そんなふうに、社畜時代に溜め込んだ理不尽への鬱屈を、知らない相手にぶつけることにした。


「なんだよ、いきなり勇者面して! まだ五歳の子供にいきなり災厄だとか言って戦えって、バグってるでしょ!?

 魔王だって、勇者が生まれて育って倒しに来るまで何もしなかったんじゃないの! 立場が逆転したからって、すぐ卑怯な手を使うとか恥ずかしくないの!?」


 思いつくままに畳み掛ける。声は震えていたが、言葉は止まらない。


 勇者カイは剣を構えたまま、少し困惑した顔をしてこちらを見ていた。


「……だが、魔物を使役し、無益な民を傷つけたのは事実だ。私の父も、魔王のせいで――」


「はあっ!? 魔物のことまで全部こっちのせいにされても困るんだけど! 使役してるやつもいるかもしれないけど、全部が全部そうじゃないし、お前の父さんも勇者だろ? 相手を倒すために戦ってて殺されたからって、それが全て魔王のせいになるの? 知らねーよそんなの!」


 言葉が止まらなかった。思考のまとまりはなかったが、胸の中の理不尽さは確かにそこにあった。


「それに、俺は先代となんの関係もない。勝手に担ぎ上げられて、迷惑してる側なんだ。なのに、生まれただけで『魔王』って決めつけられて、いきなり殺されるなんて、理不尽すぎるだろ! まだ何も悪いことしてないし、これからやるつもりも一切ないのに!」


 俺の声は、森に響いた。フィアは茂みの向こうで顔を真っ赤にしてこちらを見ている。


 しばらくの沈黙の後、勇者カイが小さく鼻で笑った。


「──貴様はよく喋るな、だが言い分は薄弱だ。だが、祖父の遺した言葉と、現場の証拠は簡単には捨てられぬ」


(くっ……的確にカチンとくること言いやがる)


 そのまま間合いを詰めてくる勇者の気配を感じ、俺は再び動き出した。

 逃げるのか、抵抗するのか、どちらが正解かは分からない。ただ一つ分かっているのは――今この場では、言い訳よりも行動が必要だということだった。


俺は決死の覚悟で魔法を発動しようとした。ルア先生のスパルタ教育を思い出しながら、頭の中で呪文を組み立てる。


 だが――次の瞬間、横から衝撃が走った。勇者カイの蹴りが腹に突き刺さる。


「ぐはっ……!?」


「そんなに発動までが長いと、容易に止められるな」


 まだ詠唱すらしていないのに!?

(こいつイカレてやがる!)


 致命傷は避けられたが、転げながら必死に詠唱を試みる。だが、そのたびにカイの剣撃や蹴りが飛んできて、発動前に潰される。


(ダメだ……このままじゃ一生発動できねえ!)


 無詠唱しかない――そう思い、必死にイメージを固める。魔力をぎゅっと凝縮して、一気に解き放った。


 そして──発動はした。正確に言えば、爆発した。


「うわああああっ!?」


 轟音と共に土煙が舞い、森の木々が折れ、爆風で俺の体は後方へと吹き飛ばされた。


(この爆風で逃げられたら……!)


 そう願ったが、もちろんそんな都合よくはいかないのがこの世界らしい。


 ドンッ、と背中に衝撃。背後の木にぶつかったかと思ったその瞬間


 そこにいたのは助けに来た信頼すべき部下たち──ではなかった。


 振り向けば、そこに立っていたのは勇者カイだった。


 あっ、終わった。

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