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第四章:鉄馬、帰還す――疾駆の代償

【北方山岳地帯】

┌────────┬─────────┐

│   王都オルディナ   │ (王家直属ギルド本部)

│             │

┌──┘             └──┐

│                │

【検問の谷】——旧馬車街道——【トーリ村】(クラウン拠点)

│                │

└───≪崩落地帯/枯れ谷≫────┘

【瘴気地帯】──【サイレ村】(治療薬搬送先)


——クラウンは、夕暮れの地平線を割って帰還した。

瘴気熱に苦しむサイレ村への緊急搬送任務。

王都への薬品受領・配送・帰路……全行程210kmの強行突破。

クラウンは、現代の牙を異世界に突き立てた。

その黒い車体がトーリ村に姿を現した時、ギルド広場は小さな歓声に包まれていた。

そして、ギルド支部での初任務の達成報告を迎える。


ティアナ(受付嬢):「…っ! 本当に、24時間で…信じられない!」


グレンは土埃にまみれたまま、クラウンから降り立つと、用意していた箱を差し出した。


グレン:「治療薬の十二箱。無傷で届けて、無傷で戻ったぞ」


ティアナ:「感謝します! この功績はギルド高評価に相当します。王都へも報告も上げさせてもらいますね!」


ユウキ:「あの村の子どもたちの咳が止まるなら、それでもいい」


報酬金と認可証が二人に手渡された。


グレン︰「ギルド認可証! こいつがあれば次の任務で検問兵との一悶着は無くなるぞ!!」


ユウキ︰「よりギルド依頼で動きやすくなるってわけだな」


グレン︰「ああ! それにこの大金…どうするか! 美味い飯でも食いに行くってのはどうだ!?」


ユウキ︰「ああ。お前の初のギルド依頼達成祝いを兼ねて、悪くはない考えだな。 それに異世界のご馳走ってのも興味がある」


グレン︰「そうだろ! へへへッ、どこに行こうかな! どこがいい!?」


グレンは嬉しそうに地図を広げる。

その姿を見守るユウキ。


二人のクラウンがギルドから正式に「特別輸送」としてギルド依頼に仮登録されるのは、この功績が後押しとなる。

だが、その空気を裂くように、場内の重厚な声が響いた。


騎兵隊との衝突である。


男:「……それが、例の“鉄馬”か」


ギルドの一角。赤いマントを羽織った数名の男たちが立っていた。

全員が銀の騎士徽章を胸に携え、王国直属の精鋭――騎兵隊の一団だ。


グレン:「貴様らは……王都近衛第二騎兵隊」


ユウキ(低く):「厄介なのが来たっぽいな」


隊長格の男・ラガートが近づいてきた。目は鋭く、明らかな敵意を向けてくる。


ラガート:「騎士の領分に、異物が割り込むな。貴様らがこの鉄塊で任務を果たしたとて、それは“偶然”にすぎん」


ユウキ:「偶然じゃない。その鉄塊は整備して、操作し、道を読んで走った結果だ。運じゃない、技術だ」


ラガート:「…技術で戦場を制するというのか? 騎兵の誇りを、機械の歯車ごときで塗り潰す気なのか?」


グレン:「確かラガート…とか言ったよな。あんたには見覚えがある。剣がいくら速くても、馬では間に合わなかった命がある。クラウンはそれを追い越した。ただそれだけのことだ」


ラガート︰「貴様ら…その醜い鉄塊を盾にして我ら王都騎兵隊を愚弄する気か…面白い、受けて立ってやるぞ」


その場は、ティアナの制止で剣の交わりこそなかったが、騎兵隊はユウキに“無言の監視”を残して立ち去った。


ラガート︰「王都で再び貴様らと会うことがあるならば、その時こそ真の試練が待っているだろう」


騎兵と鉄馬。

王都での対立は、避けられないものとなる。


その夜、ユウキとグレンはガレージにクラウンを停め、魔鉱油タンクの残量を確認していた。


ユウキ:「……残量はわずか18%…このままじゃ、次の長距離は無理だな」


グレン:「あの瘴気地帯を抜けて、半日走りっぱなし…それに瘴気に反応して魔力の消耗も激しかったせいもある」


ユウキ︰「命をつなぐ手段に、“時代”が追いついていないだけだ」


ユウキは険しい表情で言う。


ユウキ︰「ガソリンさえあればな…なんてことは言いたくもないが、この世界でクラウンを動かすには、兎にも角にも魔鉱油が必要ってわけだ」


ユウキ:「まずは魔鉱油の安定供給が必要だな。それと同時に、“商売”としての展開も考える時だ」


グレン:「商売? ユウキ、本気でこの鉄馬を“売る”つもりなのか?」


ユウキ:「ああ。この世界のどこかに、車を必要とする奴がいるはずだ。病人を助けたい医師、遠方を渡る交易商、守るべき人がいる騎士……馬じゃ間に合わない時に、クラウンがある」


ユウキは黙ってクラウンを見つめたあと、ぽつりと呟いた。


ユウキ:「もし…この世界に“交通”ってものが生まれるなら、それはお前のタイヤの跡から始まるんだな」


グレン︰「クラウンが走行できる道の整備…必要事項だな」


ユウキ:「だがこのクラウンは、量産はできない。だから、次を考える」


作業机に置かれたノートを開く。そこには、手描きの車体設計案が並んでいた。


ユウキ:「“クラウン後継機”…もっと軽く、部品交換しやすく、この世界の魔導力に対応したエンジン搭載型……コードネームは《アルト・ネオ》ってところかな」


グレン:「それ、完成したら……俺が乗っていいか?」


ユウキ:「お前にはその資格がある。最初の同乗者にしてお前しかいないからな」


翌朝。


ユウキとグレンはクラウンの整備を終え、次なるギルド依頼への準備を始めていた。

ティアナからの伝達によれば――

王都オルディナより「鉄馬の性能調査および登録審査」のための公式招致が届いたのだ。


王都。


この異世界文明の中枢にして、ついにクラウンが踏み入る。


グレン:「行くんだな、王都に」


ユウキ:「ああ。ここは“鉄馬革命”の起点にするつもりだ」


クラウンのエンジンが吼える。

その音は、ただの機械音ではなかった。

この世界、王都での変革の“走行音”が鳴り響き始めたことを告げる。


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