049 設定変更そのなな
昼食用の焼きそばパンを渡され、「気遣われた」と気付く。
「ごめんなさい、ヒラさん。最近ちょっと情緒不安定気味で……」
「遠慮なく、溜まったものをぶちまけてよ。殴るなり蹴るなり、何なりと」
「――じゃあ御言葉に甘えて……ってなるかーい。わたし、そんなに暴力女に見える?」
「あぁ安心した。ちょっとくらいは元気を出せるんだね」
ん? わたし、もしかしておちょくられてた?
「あのー。んじゃ、悩み聞いてもらっていい? つまりはさ、わたしは一体誰なんでしょう? と。わたしの名前、答えられる?」
「――三澄……リトさん?」
「ブー外れ。わたしは、暗闇姫ハナヲ。だけどさ。みーんな、わたしのコトを三澄って呼ぶんやんねぇ、コレってヘンなのはわたし? それとも他の人ら?」
「あー、悩みってのはそっち系かぁ」
そっち系ってナニ? やっぱバカにされてるの? それとも親身になろうとしてくれてんのかな?
「あのさ。ここって魔法学校やんね? なんで男子がいんの?」
「はは……男子は魔法を習っちゃいけないと?」
「そーゆーハナシではなくって。そもそも男子と女子は仲が悪くて、別々の国に暮らしてるんやんね? いつの間に仲良く共学してんの? って言いたいの」
うーん……と考え込むキョウちゃん。
……アレ?
わたしって。
この人のコト、いま、『キョウちゃん』って……。
「どうかした?」
「――あ? いえ、別に……」
ヒラ君。キョウちゃん。
あれぇ、キョウちゃんの方が何故かしっくり来る。
ええい! いっそ許可取っちゃえ!
「ねぇ。いきなり馴れ馴れしいんやけども……。ヒラ君のコト、キョウちゃんって呼んでいい? ……アカン?」
「構わないよ。じゃあボクも君の事を……アレ?」
「……どうかした?」
「いや……別に……何も……」
黙り込むキョウちゃん。えらく考え込んでいる様子。
「あのさ、わたしらって昔、あったコトってある?」
「幼馴染だったかって話? さぁゴメン、どうだろ?」
「そーゆーのじゃなくってさ。前に一緒に戦ったコトがあるかって……」
「戦う? 誰と?」
あ、アハ。
やんね、戦うって何だよ! わたし、やっぱだいぶオカシクなってる。
「あーいや。忘れて」
また考え込んでる、キョウちゃん。
「ハナヲ……ちゃん」
「はいよ……って、――え? 今わたしをハナヲって呼んだ?」
「……うん。呼んだ」
ビックリし焼きそばパンを落としかける。
耳に届く午後の予鈴。
「あの……わたし、行くね」
「ハナヲちゃん」
「な、なに?」
真剣になった彼の目と合った。
彼が言おうとしている「何か」を待つ。
「ハナヲちゃん。――暗闇姫ハナヲちゃん。防人、蜘蛛の糸事業……こんな単語、聞いたことはあるかい?」
ズキン。
アタマの奥底が熱っぽく痛んだ。
「うーんワカラン、ごめん。でも何だか引っ掛かる」
「――だよね。ボクも同じだ」
走り出す背がもう一度止められた。
「追い掛けて来ちゃダメだよ?」
「は、はぁ?」
追い掛ける? 何のコト?
何が言いたいのか、自分でも分かっていない様子のキョウちゃん。
けど、首を振るわたし。自分でもよく分かってない、わたし。
静止するわたしたち。次に切り出すのはわたし。わたしの番。
「――イヤや。追い掛けるよ。だって心配やもん、キョウちゃんのコト」
え?
わたし、ナニゆってんだ? 台本に書かれたセリフのように。演じる役者のように。
「56」
「ごじゅうろく?」
「一度、ココロクルリさんに尋ねてみて? この数字がボクの頭から離れないんだ」
56……?
うーん?
「分かった。いっぺんルリさまに聞いてみる」
「……こんなボクを。ハナヲちゃんを裏切ったボクを。心配してくれてありがとう」
「何言われようと追いかけるからね。待っててね」
お互いに、理解しない会話で通じ合いながら、左右に分かれた。
午後の授業は出ず、まっすぐ家に戻った。




