048 設定変更そのろく
「おい、三澄。三澄! 寝てるのかっ、授業中だぞ!」
「――は、はいっ! ……すみません」
数学の授業やのに国語の教科書を開いちゃってた。ってコトはわたし、2時間目からずっーと呆けてたんか?
……やっぱ先生も、わたしを『暗闇姫』やなくって『三澄』って呼んだよね。
隣の子の助け舟を借り、どーにかその場を凌いだわたしは、お昼休みを待つのももどかしく、姉に当たる三澄ナナさんに会いに行った。
「三澄さん? えー、またあの場所じゃないかな?」
「――あの場所って?」
「ほら……ねぇ、あはは」
「そうじゃん? きっと……」
クラスメートの意味深な態度にだいたいの状況を察したわたし、勇気を出してそこに行ってみた。――体育館裏の非常階段下。そしたら、いた! 確かに、いた。オトコと二人きりで、お弁当を食べていた。――つーか、オトコにお弁当を食べさせてあげていた。
オトコ――とゆうのは例の、光の国から侵入してきた『わっるいヤツ』で。わたしの記憶やと先日コオロギ……やなくって『カマドウマ』に転生しちゃったはずのヤツやった。
いやぁ、オカシイ。あのとき三澄ナナさんはこのオトコに愛想をつかしたはず……そう、間違いなく別れちゃったやんな? と思うんである。
オトコはガッコーに持ち込み禁止のマンガ雑誌をめくりながら、彼女の「あーん」を受け、しかもおいしそうな顔ひとつせず、むしろ不愛想に口を動かしている。しばらく声掛けをためらっていると、マンガ雑誌をうっちゃって、今度はスマホを取り出して眺め出した。その間一度もナナさんとの会話無し、視線合わせも無しで、ひたすら彼女のひたむきな献身を当たり前のように受けているだけ……なんである。
わたしからすると、許せん! いーの、それで?
ホントーに幸せなんっ? ナナさんっ? って強く言いたい。
「おい、ガキ。さっきからナニ、人の事見てんだ?」
「――リト?」
見つかったわたしは意を決して二人に近付いた。
「ねぇ、ナナさん」
「なに……? というか、何なの?」
普段はお姉ちゃんとか言ってたっけ? それが「ナナさん」とか名前を呼ぶもんで戸惑い……いや、不快感をあらわにして、咎めるように見返して来たナナさん。
「お、お姉ちゃん」
「だから何なの?」
「ソイツ……悪いヤツやで。付き合わん方が良いと思う」
バクバク心臓が鳴り出す。――ちゃう! そんなん言うために探してたんとちゃう!
けども。
二人の様子を見て、つい余計な口出しをしたくなったんや。
ナナさんが何かを言おうとする前にオトコのゲンコツが飛んで来た。とっさに避けたけど、こめかみをまともに「ゴンッ」とやられた。脳震盪を起こしたのか目がチカチカした。
ナナさんが半分慌て、半分怒って、オトコの手を掴んだ。
「ヤメテ、バカッ! ――リトッ、ジャマしないでよ、さっさと向こうに行って!」
「ナナさんが正気に戻るまで行かへん! ゼッタイおかしい、こんなオトコ――」
悪口より早く、オナカに衝撃を受けた。「うっ」と唸って前のめり。胃の中の水っぽいのが吐き出た。……あぁ、ヨカッタ、お昼ご飯を食べる前で。
でももう、口答えもでけん。
ナナさんが狂乱したようにオトコの腕にしがみついた。オトコの方は半笑いで標的をナナさんに変え、ナナさんを振りほどいて容赦のないビンタ。そしてよろけたところにまわし蹴りを放った。でもそれは空振った。わたしが必死にナナさんに飛びつき、転げ逃がしたからである。
「へへ、面白れぇ。それって姉妹愛か?」
「もう……止めてよ……」
お弁当が散乱している。卵焼き、ポテトサラダ、唐揚げ、梅おにぎり……。全部手作りっぽい。たぶんナナさんが作ったんや。それを入れ物ごとオトコの足が踏みにじった。狂ってる。ホントウ、狂ってる。
「――なぁ。もういい加減よせよ」
聞き馴染みのある声がした。少し間延びしたような男子の声だ。
「……ヒラ」
オトコが、唾を吐くようにその名を呼んだ。名を呼ばれた男子はオトコの方を見もせずわたしらに寄り、肩を貸した。そしてそのまま連れて行こうとする。
「なんだぁ、その態度?」
「介抱だけど? ……文句ある?」
そしたら何故かオトコは黙り込み、ヒラ君はわたしたちを抱えて悠々とその場から離れた。




