047 設定変更そのご
自身でも気がついて無い内面をさらけ出すことのできる魔法、【内視鏡】。個体スキルとして自在に使いこなすのは、年下少女の【かんなぎリン】ちゃん。
以前に使ってもらったコトのあるこの魔法を、もう一度試してほしいと思い立ち彼女を訪ねた。
「かんなぎリンですか。今日は風邪ひいて休んでますよ?」
対応してくれたシンクハーフ学年主任は物珍しそうにわたしをジロジロ眺めて言った。品定めとゆーか、かなーり興味津々の目や。取って喰われそうに感じてると「折角ですのでお茶でもしますか?」 と、研究室内に招き入れてくれた。
そー言いながらなかなか入れてくれないお茶を待っていると、「わたしは緑茶にしてください」と衝立越しにオーダーされ、「あーわたしが入れるのかぁ」と得心。「はいはい」とミーティングコーナーを立ち、学年主任の横をすり抜けて給湯コーナーに入った。
「学年主任。学生をしながら先生をするのって、けっこう大変じゃないですか?」
少数であるが、学生の中には学校責任者としての立場になり、専門分野の授業をしたり、教育指導したり、学校運営に関わったり、はたまた新規魔法の研究や開発をしたり、フツーに生徒として別の教師のゼミに参加したり、単位を取ったりしてるんである。(以前に紹介した警察や地域自治への貢献もそう。あぁ、まさに何でも屋やね)
魔法学校は人材不足なのか、アレグッシブなのか、革新的なのか、ちょっと大学院に似ているが、とにかくそうゆう指導体制を敷いて運営してるんである。
「んー? 生活があるから。……と言うより発明品を作るのにお金がかかるから」
それはありますよね。ところで幾らもらってるんだろう。
「――で、何の用で今日は?」
事情を話し、かんなぎリンちゃんにぜひ内視鏡の魔法をかけてもらいたいと嘆願した。そしたら学年主任、「あの子にそんな能力は無いですよ?」 と淡々と、にべもなく否定された。
「もしそんな能力があれば、わたしが放っておきませんね。ただちに解剖してその原理を突き止めます」
「こっわ」
「笑うところですよ」
「ビビリます。……お邪魔しました」
「待って。ひとつ忘れ物があります」
「な、何ですか?」
チケットのような物を渡された。【おともだち券】と手書きされていた。
「これは……?」
「とりま今晩、お泊りさせていただきます。ココロクルリにも伝えておいてください。――あ、夜ご飯はトンカツでお願いします」
……グーの音も出ない。
◆◆
「――ひとつお聞きしたいんですが」
「何ですか?」
「黒姫という人を知ってますか?」
「副菜ですが、別にピーマンは苦手ではないです」
「晩ご飯の話はしてません。黒姫のコトです。シンクハーフ学年主任はご存じですか?」
間を置いた学年主任は紅潮したカオをちょっと傾け、
「彼女は幼馴染です。とっても良い子です」
と答えた。柔らかい目になった。
「その、黒姫さまはどこに住んでるんですか?」
「今は勇者の下で修業に明け暮れています。トンネルの向こう側にある街で暮らしてますよ。彼女にはしょっちゅう会いに出かけてます。仕事サボって。……タルイし」
「仕事サボって。フーン……」
余計な一言も含まれていたが、だいたい分かった。頭を下げて部屋を出て行こうとした。学年主任に手を握られた。
「わたしは。しーたん、です。今後はそー呼んでください」
「し……しーたん」
コクンと首肯し、退室。なんでか知らんけど、カオが熱くなった。
◆◆
家に帰るとルリさまが、わたしの部屋である一階の和室でテレビを見ていた。
「あ。お帰り」
「今日このあと、シンクハーフ学年主任が遊びに来るそうです」
「今日も? 毎日毎日ヒマねぇ。別に構わないけど」
「毎日、ですか? そーなんですか? んーそうやったっけ?」
フ……とルリさま、わたしを見た。
「――あなた、認知症じゃないでしょうね? まさかお昼に食べたメニューも思い出せないとか?」
「購買部のたまごサンドです、失礼な」
アハハとテレビのギャグに笑い声を立てるルリさま。わたしの返事を聞いてない。
「リト、遅いですね。もうとっくにお店、終わってるはずやのに……」
「はん?」
人の話を聞け―。
リトがゼンゼン帰って来ないので心配だと繰り返し、バイト先の喫茶店に迎えに行くと告げる。
そしたら。
おでこに手を当てられた。
「――あなた、ホントにだいじょうぶ?」
「なにがッ?!」
「何がって――リトはあなたじゃない?」
しっかりしてよ。ルリさまのそのわたしを気遣う不安げなセリフは、わたしの耳には届かなかった。




