045 設定変更そのさん
今度の水曜日に魔法学校恒例の魔法球技大会があるそうで。
ホームルームでゆってたらしい。
……らしいってゆーのはわたし、前日のバイトをサボって、なおかつその日提出の宿題も忘れて、ひたすらヒラ君のカノジョがどんな人か? 彼が好きになる子ってどんなやろ? なんて考えてたんで、センセーの話、ゼンッゼン聞いてなかったせい。
そんなボーッとしたわたしにリトが話しかけて来た。こっちは「それどころやないの」って邪険にしかけたものの、カノジョ曰く、「ここで目立ってヒラ君に注目してもらいたい」って追い打ちかけるもんやから、これがふかーく胸に刺さった。
「ってコトで、一緒に練習しませんか? 恋の応援、してくれるんですよね?」
わたしに練習に付き合えと? あまつさえ応援しろと? 何の応援? 恋の応援? ははーんカノジョのいるヒラ君のコト、まだ諦めてなかったんや?
魔法学校における魔法関係の校内行事。コレって確かに目立てるよ。気づけば男子女子問わず、それぞれに下心、もとい思惑があるのか、クラス中テンション上げてる様子やし。
「いーよ。よござんす。ま、わたしも目立ちたいしね」
つーワケで、放課後二人して練習に励むコトになった。
◆◆
「おーそこの同居人。こないだはベントー作り手伝ってくれてアリガトね」
中庭で練習に取り組んでたわたしらに気さくな声をかけて来たのは、金髪ツインテの魔法使・ココロクルリ先輩。ややギャルっ気を出してる彼女は魔法学校の制服を可愛くアレンジして着こなしている。
「あっルリさま!」
「んー? アンタその呼び方さ、妙に馴れ馴れしいよね。ま、別に悪くない気分だし赦すとしよう。――で? アンタら二人、妙な空気感出してココでいったい何してんのさ?」
リト、ルリさまに話しかけられて直立不動になってる。緊張感ハンパないカンジ。ナニユエ? まるで初めて会話した風。あのねぇ、こないだのお泊り会で二人して騒いでたっしょ?
「――それよりルリさま。つかぬコトを聞きますが、ルリさまはホントーにわたしの名前を知らないんですか? それともド忘れ? もしくはただのウケねらいのボケ?」
「なにボケって? バカにしてんでしょ? だからぁ、知らないわよ。アンタら二人が新入生って事と、寮に越して来たばっかってのは存じ上げてマスが? それ以上はてんで分かるはずないっての。名前憶えて欲しかったら後輩のそっちからアイサツするのが筋ってもんでしょが」
なんで……? アレ? そーだっけ? マジに叱られたっぽい?
記憶の混濁に、クラクラするほどの眩暈を感じる。
……理由は不明。だけども「そーやないでしょ」って思う。どーしてわたしの名前が分かんないの?
一言でゆーと大きな違和感。ルリさまの態度……だけでなく、リトも、それにわたしの感覚も全部ヘン。やのに、根本的な原因とか気色悪さの正体とかは思い当たらない恐怖。
「わたしは三澄リト、です。三澄ナナの妹で――」
「そっかナナの妹ね。言われてみたら良く似てるわね。あーそうそう、アンタのお姉ちゃん、クズ男にうつつを抜かしてるから妹のアンタからも忠告してあげてよ。頑固で意地っ張りだからわたしが何言ってもてんで言うコトを聞かないんだよね」
ひとしきり会話が続いた後、二人でわたしの方を見る。次に名乗るのはあなたですよ。そーゆー圧ってかタイミング。
「わたしは……ヤミキ――」
――と、ドッジボールが飛んで来た。わたしの頭に当たるすんでのところで止まる。もう一人、別の生徒が駆けつけてキャッチしたんである。
「ひ、ひ、ヒラ君⁉」
「――だいじょうぶ? ケガ無い?」
「だ、だ、だいじょぶ……です」
よかったと爽やかに微笑む彼。ひ、ひょえええ!
「来週校内の球技大会があるでしょ? この時間、中庭は練習してる人たちが増えるから気をつけないと危ないよ?」
ワリイワリイとヘラヘラ走り寄って来た男子らにボールを返しながら「飛ばす方向に気をつけてね」と忠告。「本当に悪かった」と言い直して彼らが去った。
かたやペコペコと彼にお礼するわたしも似た風にヒザガクガク状態で、リトとルリさまが居なきゃ、へたり込んでるところや。当然ボールをぶつけられそうやったから、そうなったんやないよ。
「あ、そーだヒラ。アンタが二人に特訓させてあげなさいよ」
「特訓? ドッジボールの?」
その、ルリさまからの提案を耳にした途端、わたしは「うっふ」とヘンな声を漏らし狂喜した。あ、もちろん狂喜は心の内で。横でリトが大口を開けて目を輝かせてる。たぶんわたしも、おんなじカオしてんやな。
ルリさま、最高のアシストーッッ! わたしの名前をド忘れたとか、そんなのどーでもいいです、水に流します! てか、これからあなた様を神扱いします!
「――あぁごめん。指導するのはムリなんだ」
「なあーーーっ? なんでぇぇぇッ? どーして!」
リトがわたしの発した悲鳴に完全ハモリしてきた。もーっ! ハラ立つからマネすんなあっ。
「実行委員として審判に選ばれちゃったんだ」
「ああ。んじゃダメね。――あ、ちなみにわたしも審判なんだ。付き合えなくてごめんね」
ルリさまはいいっ。悪いが正直お呼びでないっ! それより、アゲるだけアゲといて一気にオトすかあああ! これからは「さま付け」せんぞう!
◆◆
メゲずに練習を続ける。
すると今度は――。
「あー、ボンクラコンビさんじゃないですかぁ。こんな所でマジメな生徒たちの練習妨害ですかー?」
オジャマ虫・チビっ子魔法使のかんなぎリンちゃんがあらわれた。ヒトケタ年齢にして上級魔法使のアシスタントを自称する口達者美少女なんやが、アンタさ、図ったようにタイミング合わせて登場したんはわざとか? それとも単に、この回は毒舌を吐く役回りを完遂して、スッキリしたかったからか?
「ザンネンですが上級魔法使、我らがシンクハーフ学年主任殿は今回の球技大会の実行委員長ですから、あなたたちド底辺生徒の練習にお付き合いはできませんよー?」
「はいはい。だーれも頼んどりゃせんわ」
「いや、藁をもすがりたいのでわたしは頼みたいですが、かんなぎリンさんは付き合ってくれますか?」
いっ⁉ う、裏切り者っ!
「ふっふーん。じゃあこのわたしが教えてあげましょう! 魔法を使った強烈アタック、変化球レシーブ、幻術コンビネーションなど、得意技ばかりなんですからね!」
「待って待って待ってー! わたしも指導してよーッ。仲間外れなんてヒドイよッ!」
相手がたとえ幼女やろーと年下やろーと、魔法の熟達者には変わりない。ってんでわたしらボンクラコンビ、精一杯練習に励んだとさ。
終わり。
……あ、いや、もー終わりでいいよ。
大事なのは結果よりも途中経過。球技大会は参加することに意義がある。恥は一刻のもの。頑張ったんやからヨシとしよう。……ね?
「あの時のあなたの失敗が無ければ勝ててたんですよ⁉ 反省してくださいっ」
「えーそれゆっちゃう? わたしが秘技曲がる魔球を使ったときにわざわざ左に移動してボールに当たりに行ったのはリト、アンタのミスやないっての?」
「練習のときもちゃんと曲げてくれてれば、わたしも予想して位置につけたんです。ああ、ヒラ先輩が応援してくれてたのに。……ああ。ああ」
「うっるさい! 彼の名前出すな! アンタのカレシやないやろ!」
「暗闇姫さんのカレシでもないですがね!」
キーッ。
あーハラ立つ。ハラ立つ。
まったくいったいぜんたいハラが立つう。
――こうして、1回戦負けのわたしらは、本年魔法学校球技大会の歴史に一ミリの足跡も残さずに、活躍を終えたのでした。




