041 疑念
異世界の扉を開けてから、はや1週間経った。
一旦魔法学校にもどると言ったシンクハーフさんに従い撤収したのは良いが、その後わたしらは足踏みしている。
校長先生は自重しろってゆってるし、第一学校が定期試験の期間に突入してしまっている。
広く門戸を開放している魔法学校も、いざにゅうか進級や単位取得には割と厳しかったりする。
自由気ままなはずのルリさまも例外や無く、青ざめながら試験準備に勤しんでいる。あのルリ師匠が。
今日は何故かわたしん家で勉強するぞと早朝から招集がかかり、夕方すぎになってようやく団欒タイムになった。
「どうしてデュクラスの学校、しかも男子の更衣室内に異世界扉があるんですか? どうにかして我が魔法学校の敷地内に出入り口を移すべきです」
「そんなの分かってるわよ。けども今はアイディアが浮かばないわね」
「ヒラ・ノリツネ君とリチャードさんに協力してもらうしかないと思う」
最初は好きなお菓子とかの話題やったのにいつの間にか異世界ネタになってしまう。
それでもサラさんがいたら理論だって話を整理したり引っ張ってくれるんやろけど、わたしとリト、ルリさまだけじゃ、埒のあかない雑談に留まってしまう。
「ヒラ・ノリツネは普段冥界に居るにゃ。デュクラス国に居たのはたまたまだったにゃ。そう滅多に会えないにゃ」
「今頃バカな男子たちが扉を見つけて異世界に侵入してるかも知れないわね。サイアク」
「それは大丈夫です。簡易ですがカムフラージュの魔法を施しておきましたから」
「へぇ。どんな?」
「男子が毛嫌いしそうな、可愛い女の子を描いたポスターを貼っておきました」
それ、逆効果なんじゃ?
玄関で物音がする。
新たな訪問者が立っていた。
「かんなぎリンちゃん」
「あれ? お勉強の会だとお聞きしていましたが?」
「どっちにしろ、別にアンタは呼んでないわよ」
「そ、そんなコトないよ。勉強はさっき終わって晩ごはん中やねん。リンちゃんも一緒にどう?」
リンちゃんはパアッとカオを輝かせて「ご相伴します」とクツを脱いだ。
その直後、居間からリトの悲鳴が届いた。
慌てて駆け込むと、とある人物がルリさまの座っていた席で彼女のお箸を握っていた。
「ぎゃあ、し、シンクハーフ! アンタいつの間に! しかもわたしの席でナニ人のもの食べてんのよッ!」
「……空いていたので」
「ただ席立ってただけでしょ、リト、しっかりオカズを死守しときなさいよ!」
「げ、玄関を気にしてて。カオを戻したら隣にいらっしゃって」
大ごとになる前に御茶わんやお箸をふたり分用意し、あらためてシンクハーフさんとかんなぎリンちゃんの席を確保した。
6畳程度のコタツ部屋はいっぱいいっぱいのギューギュー詰になった。
「手狭ね。いっそダイニングキッチンを無くすか」
「じゃあどこでゴハンをつくるんですか、ルリさま?」
「何とかなるでしょ? ムリなの?」
「ムリ難題デス」
この家はわたしとルリさまの物やから自由にできるってもんやが、それでも限界ありますって。
「ところでシンクハーフさん。そもそもですがどうして例の異世界の探索をしなきゃなんないんですか?」
これは本人に会ったときに直接聞こうと思っていたコトで、リトとふたりで「どーゆーイミがあるんだろ?」 って話してたコトやった。
「それよりももっとデュクラスの国を調べて、男子のヤツらの弱点や急所を衝くべきかと思うんですが」
シンクハーフさんが「んー」と皿の上のコロッケを箸で持ち上げた。それをルリさまが手づかみで横取りし口に入れた。
「シンクハーフも、わたしも、本来は別の目的を持ってんの」
「……別の目的ですか? 何ですか?」
「その前にさ」
ルリさまが全員を見渡す。
お茶碗を持ち上げていたリンちゃんがルリさまの視線に気づき、食べる手を置いた。
「わたしたちの中で、この世界に違和感を感じてる者が何人いるかしら?」
ルリさまとシンクハーフさんが手を挙げた。
「ま、マジで? アンタたち、マジでおかしいと思ってないの? この世界が?」
「……逆にふたりはどうしてヘンやと思うんです?」
シンクハーフさんがお箸を置き、「うーん」と唸った。
ルリさまもむつかしいカオで黙ってしまった。
「わたしたち、デュクラス……男子らと本当に戦争をしたんでしょうか?」
「……わたしには記憶が無いですけど……男子らとは、いがみ合って来たんですよね?」
ゴロンとルリさまが寝転ぶ。
「男子らはバカでどうしようもない連中よ。――でもさ、どーもヤツラの国に行って以来、スッキリしないのよね。デュクラス紛争って言われるほどの大ごとが実際にあったのかなぁ……ってね」
「ココロクルリさままで今更何をおっしゃってんですか? そのころわたしは幼少で知りませんが、ココロクルリさまもシンクハーフさまもヤツらと必死に戦ったんですよね? 黒姫さまともども」
かんなぎリンちゃんに質問され、ルリさま「くうう」と眉を寄せる。
――その日は妙な空気のままお開きとなった。




