1章 始まりは骨折でした
運命というものは初めから決まっているように言われているがそんなことはない。自分が積み上げてきたモノ、とってきた行動などから決まっていくモノ。様々な分岐点を経て、たどり着く境地。人生の中で分岐点というものは数えきれないほどある。次の道を右に曲がろうか。左に曲がろうか。はたまた直進しようか。今日は外出しようかどうしようか。などなど日常のほんの小さな選択肢も含めれば兆を超える道があるかもしれない。ただその中から歩める道はたった一つ。その道こそが運命と呼ばれるものなのだろう。それはとてもロマン溢れる考えではないだろうか。何兆分の一から選び抜いた道。それはもう奇跡と呼べる。運命は必然ではない。奇跡であるものだ。分岐の数だけ運命がある。
この物語はいくつもの分岐点を経て青春時代を駆ける少年の物語。
あぁ。もう最悪だぜ…
一人の少年は右足と右腕を包帯でぐるぐる巻きにされた状態で病院のベットに仰向けになっている。
「これじゃゲームもできないぜ。今日からイベントは始まるし、バウンティも更新されるってのに」
少年は深いため息を吐く。こんなことになってしまったのは小一時間前のことである。
「ひゃっぼおおおおおおおおおおおおおおおおおーーー!!!!」
ひゃっほーーと言っているつもりだが、あまりの風圧に唇が震える。少年はママチャリで近所の下り坂を疾走していた。
なぜと言われれば特に理由はない。ただ、一言で言うならば風になりたかった。若干厨二心が残っている高校1年生(16)独身だ。そんな心があってもなんら不思議ではない。そうして風になりっきていた少年に事は訪れる。ふいに子供が前の道路から飛び出してきたのだ。彼は慌ててハンドルをきった。間一髪で子供をよけることができたが、散々スピードに乗っていたママチャリは暴走。ガードレールに正面衝突。
ガードレールは迫りくる車が歩道に侵入するのを防ぐためのものだ。歩道に自転車が入るのを防ぐ役割は果たしたが、乗っている人間の安全は保障されない。少年は墜落。そのときに右腕が逝く。その後、坂の途中で支えもなしに止められた自転車は勢いよく転倒。びっくりするほど不運なことに少年の右足に直撃。逝く。そこで救急車に搬送され今に至る。症状はもちろんのこと骨折である。
「どうしてなあんにも上手くいかないんだよお」
気分は沈む。だがここで入院することが、彼…いや入山深羽の運命を変えていく。
「おい深羽~骨折ったんだって?」
見舞いにきた父の一言目はそれだった。
「骨は若いうちに折っとけ折っとけ~」
ひどい二言目だ。
「ちょっとお父さん!ふざけたこと言わないの!」
母は父に言う。
「それで、具合はどうだ?」
「痛いとしか言いようがないね。あとさっき医者から言われたように一か月は入院だってさ。気が遠いよ」
「そうか…一か月か…まあそんなことより…」
何がそんなことよりだ。
「深羽、大事な話がある」
急に真面目な雰囲気になった父に少し驚き、無意識にゴクリと唾を飲み込む。
「お父さんとお母さんはアメリカに行く」
ん?意味はそのままの意味なんだろうけど意味がわからなかった。唐突すぎて頭はパーだ。
「外交官の仕事でついに俺たちも海外出張になった。明後日に発つ」
ホントに骨折がそんなことに思えてきた。よくよく考えたら二人は外交官だ。結構高い役職にもついていて、月給もまあ高いのだとか…父が「俺たちは逆に優秀すぎるからお偉いさんも常に手元に置いておきたいんだろう」とかほざいていたが、あながち間違ってないように思っていた。そんな二人がついに海外出張か…
「そう。それはなんというか、頑張ってきてくだされ。あ。期間はどのくらいなの?まあ自炊は一通りできるし、そう長くなければ問題はないんだけど…」
「一年だ」
「え?」
「一年だ」
……
「365日だ」
「ああもうわかったって」
予想外の期間に一瞬戸惑った。飯はまだいい。生活費はどうするのだ。
「呆気とられるのはわかる。ただ安心しろ。生活費は送るし、貯金だってある。それに大事なお知らせはもう一つある。こっちのほうが驚くぞ」
そんな事態があるのだろうか。
「お前に新居をやる」
本当に意味がわからなかった。
あれから早一週間が経過した。骨は相変わらず痛いし、やることもミーム動画を見漁るだけだ。日曜日の午後だというのにゲームができないのはどういうことか。ひたすらに退屈である。ただ、考えることはある。
家、俺だけの家かあ…
一週間このことで頭はいっぱいだった。まだどんな家なのかは知らない。平屋なのか、二階建てなのか、はたまた納屋くらいの大きさで必要最低限の設備しかないのか…貰い物である以上、それはそれで文句言えないが…
すると、一件のメールが飛び込んでくる。
(これから有牙と一緒にお見舞いに行くからな。待ってろよ。)
友達の佑公からだ。看護師としか会えていない深羽の心が弾む。そう思い仰向けになる。するとすぐに扉が開いた。早すぎだろとは思ったが、多分あいつらだろう。そう思って音のしたほうを向くとそこには美少女が立っていた。
髪は短く切られているが、そこからは艶が伝わってくる。整った顔のパーツ。平均よりは膨らんでいるであろう胸。黒いタイツが包んでいるのは細い足。美少女という言葉はこの子のためにあるんだろう。そう思わせるような容姿であった。そして深羽は息を飲む。飲みすぎて言葉が出ない。ただ少女はこちらに冷たい視線を送る。しかし容姿に見惚れている深羽はその視線に気づけない。深羽の目というフィルターには微笑しながら少女はこちらを見ている。浮かれすぎだ。
「あなた、誰?」
第一声を飛ばしたのは少女のほうだ。
「んんっ。俺は入山深羽。ここらじゃ有名なママチャリドライバーさ」
こんな可愛い子滅多に巡り会えないだろう。こういうのは第一印象が一番。顔はこんな可愛い子をメロメロできるほどの自信はないが、それ以外で俺は親密度を高めさせてもらう。さあ次はおそらく『フフッ。面白いこと言うんですね。私は○○です』みたいな感じになって…
「……そう。それじゃ」
「ええぇ!ちょっと待ってよ」
冷たい言葉をかけられようやく深羽のフィルターが正常に戻る。そこで少女の目が自分が思い描いていたものと全く違うことに気付く。
「何を待てばいいの?」
「いやいや、まずは君も名前教えてくれよ」
自分の予想と違いすぎる反応にびっくらポンだ。
「月城麗奈。それじゃ。」
「だぁから待てぃ」
予想はしていたが本当に名前だけ言って立ち去ろうとした美少女……麗奈。
「ほら。ここで巡り会えたのも何かの運命かもしれないじゃん?少しくらい話そうぜ。えっと、そうだな。学校はどこなんだい?俺は郷浪高校の一年生。この俺が君みたいな可愛い子見逃すわけないから、同じ学校ではないと思うんだけど…まさかエリート女子高の希陸高校だったり?…」
話している途中ふっと前を見ると……
「いないじゃん…」
麗奈の姿はどこにもないのであった。




